監督交代に踏み切った11クラブの解任ブースト度【Jリーグ2025】
入江徹監督(左)大島秀夫監督(中)辻田真輝監督(右)写真:Getty Images
2025シーズンのJリーグでは、J1、J2、J3の各カテゴリーで11クラブが監督交代に踏み切った(7月19日現在)。今季は仮に降格となれば、2026年前半に秋春制移行に伴って開催される昇降格のない「特別大会」を挟み、2026/27シーズンまで同カテゴリーにとどまることになる。よって降格を避けたい下位クラブのみならず、是が非でも昇格を果たしたいクラブも含め、例年よりも監督人事の動きが激しい印象だ。
ここでは、J1の横浜F・マリノスとアルビレックス新潟、J2の愛媛FC、カターレ富山、レノファ山口、モンテディオ山形、V・ファーレン長崎、J3のツエーゲン金沢、FC岐阜、奈良クラブ、カマタマーレ讃岐における監督交代の背景と、新監督就任後の成績に焦点を当て、いわゆる「解任ブースト」と呼ばれる現象がどれほど起きているかを検証する。
解任ブーストとは
「解任ブースト」という言葉は、監督交代直後にチームが一時的に成績を向上させる傾向を指す、Jリーグファンの間で定着した“スラング”だ。その傾向は本物なのか。指揮官交代に踏み切ったJクラブの新監督の名前、就任日、就任後の成績を基に、このブースト効果の有無や持続性を分析しよう。まずは、今季、監督交代に踏み切ったケースを時系列に沿って列挙する。
2025シーズンJリーグにおける監督交代(7月19日時点)
・【5月27日発表】カターレ富山:小田切道治監督→安達亮監督
・【6月1日発表】ツエーゲン金沢:伊藤彰監督→辻田真輝監督
・【6月12日発表】奈良クラブ:中田一三監督→小田切道治監督
・【6月16日発表】V・ファーレン長崎:下平隆宏監督→高木琢也監督
・【6月23日発表】アルビレックス新潟:樹森大介監督→入江徹監督
・【6月24日発表】愛媛FC:石丸清隆監督→青野慎也監督
・【6月24日発表】横浜F・マリノス:パトリック・キスノーボ監督→大島秀夫監督(交代2度目)
・【6月24日発表】レノファ山口:志垣良監督→中山元気監督
・【6月25日発表】モンテディオ山形:渡邉晋監督→横内昭展監督
・【7月4日発表】FC岐阜:大島康明監督→石丸清隆監督
・【7月8日発表】カマタマーレ讃岐:米山篤志監督→金鍾成監督
大島秀夫監督(右)写真:Getty Images
J1リーグの監督交代
横浜F・マリノス【ブースト度:★★☆☆☆】
横浜F・マリノスは2025シーズン、成績不振により2度の監督交代を実行した。まず、3月下旬にスティーブ・ホーランド監督が解任され、5月5日にパトリック・キスノーボが暫定監督から正式監督に就任した。しかし、キスノーボ監督も約1か月半後の6月19日に解任され、6月24日にヘッドコーチだった大島秀夫氏が暫定監督から正式監督に昇格している。
横浜FMは今季、7連敗を喫するなど低迷し、天皇杯2回戦ではJFLのラインメール青森にも敗れた。キスノーボ監督就任後、リーグ戦7試合で2勝5敗(勝率約28%)に終わり、改善は見られず。大島監督就任後は、7月5日までの試合で1勝1分1敗(勝率約33%)とわずかながらも盛り返しの兆しがある。だが、残留圏浮上には安定的な勝ち点獲得が必要であり、7月中旬以降の結果次第で真のブーストとなり得るかが問われる。
あえてポジティブな面を挙げるとすれば、残留争いのライバルである横浜FCとのダービーマッチで勝ち点3を奪ったことだろう(第16節6月22日/2-1)。
入江徹監督 写真:Getty Images
アルビレックス新潟【ブースト度:★☆☆☆☆】
アルビレックス新潟は、6月22日に樹森大介監督を解任し、翌23日に後任としてヘッドコーチだった入江徹氏を昇格させた。新潟はシーズン序盤の不調、特に得点力に苦しみ、これが監督解任の引き金となった。
入江監督就任後、7月14日までのリーグ戦3試合は全敗。ドロ沼を抜け出すどころか、最下位転落も現実味を帯びている有り様だ。7月16日の天皇杯3回戦ではホームのデンカビッグスワンスタジアムで東洋大学(アマチュアシード)を相手に1-2で敗れた。決勝点はDFの連携ミスからだったが、それ以前に大学生相手に1点しか取れなかったことを問題とすべきだろう。
中心選手の移籍も相次いでおり、その空いた穴を埋めるため選手獲得に動いてはいるが、補強ではなく“補充”となってはいないだろうか。果たしてこの低迷は樹森前監督独りの責任だったのだろうか。強化体制から見直さない限り、後半戦も苦しい戦いが続くだろう。
愛媛FC 写真:Getty Images
J2リーグの監督交代
愛媛FC【ブースト度:★☆☆☆☆】
愛媛FCは、5月21日に石丸清隆監督を解任し、6月24日にヘッドコーチだった青野慎也氏を新監督に任命した。石丸監督の下ではJ2最下位に沈み、特に攻撃力の停滞が課題だった。
青野監督就任後、7月12日までの3試合で1分け2敗と成績は上向かず。特に同12日にはFC今治との「伊予決戦(愛媛ダービー)」を落とし(0-1)、新監督による解任ブーストの効果が見えているとは言い難い。
安達亮監督 写真:Getty Images
カターレ富山【ブースト度:★★☆☆☆】
カターレ富山は、5月27日に小田切道治監督を解任し、2018-2020シーズン以来5年ぶりに再び安達亮監督を再登板させた。J3からの昇格組として期待されたが、守備の不安定さが露呈していた。
安達監督就任後、リーグ戦では2勝1分け4敗(勝率約28%)。6月11日の天皇杯2回戦では敵地でベガルタ仙台戦(キューアンドエースタジアムみやぎ/1-0)を撃破したが、その勢いをリーグ戦に生かせていない(7月16日の天皇杯3回戦では町田ゼルビアに1-2で敗退)。守備面でも攻撃面でも課題は残り、ブースト効果が現れているとは言えない状況だ。
レノファ山口 写真:Getty Images
レノファ山口【ブースト度:★★☆☆☆】
レノファ山口は、6月24日に志垣良監督を解任し、同時に下関市出身でコーチだった中山元気氏の新監督昇格を発表した。シーズン前半の低迷、特にホームでの連敗が解任の要因となった。
中山監督就任後の3試合では1分け2敗ながらも、チームの持ち味でもある守備の安定感は増した印象だ。19位とJ3降格圏を抜け出せていないが、J2ワーストタイの19得点にとどまっている攻撃陣さえ機能すれば、ブースト効果が現れる可能性を秘めている。
横内昭展監督 写真:Getty Images
モンテディオ山形【ブースト度:★★★☆☆】
モンテディオ山形は、開幕3連敗とつまづいた。その後多少盛り返したものの、第16節から第19節までの4連敗が響き、6月16日に渡邉晋監督を解任。同月25日に、昨2024シーズンジュビロ磐田を指揮した横内昭展氏を新監督に招聘した。
横内監督就任後、7月14日までの3試合で1勝2敗(勝率約33%)だが、特に残留争いのライバルの愛媛を敵地で下した白星(7月6日3-1)は価値が高い。きっかけさえあれば波に乗り、解任ブーストの効果も表れて来るのではないだろうか。7月16日の天皇杯3回戦でJ1ガンバ大阪をPK戦の末に撃破し16強に進んだことが、チームに好影響を与えることを期待したい。
高木琢也 写真:Getty Images
V・ファーレン長崎【ブースト度:★★★★★】
昨2024シーズン、J1昇格プレーオフで本命視されながらも敗退したV・ファーレン長崎。今季は自動昇格圏内を期待され、好スタートを切ったものの徐々に失速。プレーオフ圏外に順位を落としたことで監督交代に踏み切った6月16日に下平隆宏監督を解任し、7月1日にかつて監督を務め(2013-2018)代表取締役兼CROの座にいた高木琢也氏を後任監督として現場復帰させた。強力な攻撃陣に対し、失点の多さが解任の主因だった。
高木監督就任後、リーグ戦では1勝1分け(勝率50%)の負けなし(天皇杯3回戦では鹿島アントラーズを相手に1-2で敗退)。特に守備の立て直しは顕著で、J1昇格プレーオフ圏と同勝ち点(38)の8位にまで順位を上げ、ブースト効果が表れていると言えるだろう。
辻田真輝監督 写真:Getty Images
J3リーグの監督交代
ツエーゲン金沢【ブースト度:★★★★☆】
ツエーゲン金沢は、6月1日に伊藤彰監督を解任し、同時に強化部長を務めていた地元出身の辻田真輝氏を新監督に指名した。
辻田監督就任後、いきなりリーグ戦と天皇杯2回戦で3連敗を喫したが、その後持ち直し、7月19日までのリーグ戦7試合で2勝2分け3敗(勝率29%)。第17節から第20節まで続いた負けなし記録は7月19日の第21節ヴァンラーレ八戸戦(金沢ゴーゴーカレースタジアム/0-1)で止まってしまったが、解任ブーストの効果が見られており、昇格プレーオフも伺っている。
石丸清隆監督 写真:Getty Images
FC岐阜【ブースト度:★☆☆☆☆】
未だわずか4勝で最下位に沈むFC岐阜は、7月2日に大島康明監督を解任し、7月4日に石丸清隆氏を新監督に任命した。接戦を落とす試合が目立ち、JFL降格の危機にある。
石丸監督就任初戦のヴァンラーレ八戸戦(7月12日プライフーズスタジアム)では1-5の大敗を喫し、最下位を脱せていないことで前途多難と言わざるを得ない。しかし、愛媛FC(2013-2014、2022-2025)、京都サンガ(2015-2016)、モンテディオ山形(2020-2021)と、豊富な指導者経験を持つ石丸監督の手腕が発揮できるのはこれからだろう。
奈良クラブ 写真:Getty Images
奈良クラブ【ブースト度:★★★★☆】
奈良クラブの場合はやや事情が特殊だ。中田一三前監督がチーム練習の中で選手に頭突きするという不適切行為により6月12日に解任され、富山の監督を解任されたばかりの小田切道治氏を新監督に招聘した。
小田切監督が正式就任就任した6月14日以降、7月12日までの5試合で3勝1分け1敗(勝率60%)。チームの雰囲気改善のみならず、順位も昇格プレーオフ圏内の6位にまで引き上げた。中田前監督末期はリーグ戦と天皇杯2回戦で3連敗を喫していたことから、チームの空気が変わったことで成績に直結した例として、ブースト効果があったと見るべきだろう。
カマタマーレ讃岐 サポーター 写真:Getty Images
カマタマーレ讃岐【ブースト度:★★★★☆】
降格がチラ付く18位のカマタマーレ讃岐は、7月8日に米山篤志監督を解任し、翌9日に、昨季までFC琉球の監督を務めていた金鍾成(キン・ジョンソン)氏を新監督に任命した。序盤戦は上位争いに加わっていたが、2度の3連敗が響き、残留争いに巻き込まれたことが解任の理由だ。
金監督就任初戦の栃木SC戦(7月12日Pikaraスタジアム)では4-1の圧勝を収め、連敗を止めた。7月19日の第21節高知ユナイテッド戦(Pikaraスタジアム/1-2)を落としたことで“ブースト”と呼ぶにはまだ早いが、約2か月ぶりの勝ち点3を得たことによって、勢いを取り戻す可能性を秘めている。
解任ブーストの総括
監督交代によるブースト効果は、クラブの目標やケガ人の状況によっても異なる。新監督の戦術浸透度や選手との相性、対戦相手との巡り合わせにも依る上、強化を担当するフロントの力も重要だ。
J2の長崎や山形、J3の金沢や讃岐では、監督交代の好影響が見える。一方、J1の横浜FMや新潟、J2の富山や岐阜ではなかなか勝ち点3に繋がらず、期待された効果が見えていない。
今後、シーズン終盤戦へ向け、監督交代という大ナタを振るうクラブはまた現れると予測できる。時には優勝争いよりも注目される残留争いだが、これらのクラブの成績の推移にも注目していきたい。