電圧400Vでも電動で走行をしない911カレラGTSは、いったいどんなスポーツカーなのか? 最新のポルシェ911に箱根でイッキ乗り!【前篇】

電圧400Vでも電動で走行をしない911カレラGTSは、いったいどんなスポーツカーなのか? 最新のポルシェ911に箱根でイッキ乗り!【前篇】

992の後期型となった最新のポルシェ911。最大のトピックはGTSがハイブリッド・モデルになったこと。3.6リッターフラット6+モーターで圧倒的パフォーマンスを誇る。カレラ、カレラT、カレラ・カブリオレ、そしてGTS! 最新のポルシェ911にモータージャーナリストの高平高輝、荒井寿彦とエンジン編集部員の村上政、新井一樹、上田純一郎が箱根でイッキ乗り! その【前篇】として911カレラGTSを集中的に議論した。

大変革の時代に

村上 自動車業界が100年に一度の大変革の時期にあるというのは周知の事実だけれど、それはもちろん自動車業界の一員であるポルシェにとっても例外ではない。

【写真47点】電圧400Vでも電動で走行をしない911カレラGTSは、いったいどんなスポーツカーなのか? 最新のポルシェ911に箱根でイッキ乗り!【前篇】の詳細画像をチェック

新井 ちょっといま難しい状況になってますよね。

村上 中国の2024年の販売台数が対前年比マイナス28%で、すごい勢いで伸びて来たポルシェの販売台数に急ブレーキがかかった。

高平 僕に言わせれば、2002年にカイエンが出たぐらいからの伸びが急激すぎたんだと思う。2024年のタイカンの販売台数は前年の半分ぐらい。それが大きく影響しているよね。

上田 ポルシェはこれまでも決して順風満帆ではなかったです。

村上 そうそう。とりわけ90年代に911が存続できるかという危機があった。それはボクスターを出すことでなんとか延命した。それがはずみとなって4ドア・モデルのカイエンの登場へと繋がっていき、それ以来マカン、パナメーラ、タイカンとモデル・ラインナップを充実させていった。

高平 コロナ禍になっても世界全体の販売台数は30万台をずっと超えていた。2024年は中国がガックリ落ちたせいで、世界全体でもマイナス3%になった。

新井 ここが正念場っていう感じですよね。

荒井 今回の特集は「ポルシェ新時代、変わるものと変わらないもの。」というのがテーマなんだけど、新しい時代が来て地平が変わろうとしていることは間違いがない。で、そこにポルシェが出して来たのが一番アイコニックなモデルの911と販売的な大黒柱であるマカンということになる。

村上 ここでは新しく992型の後期となった911を取り上げるわけだけど、電動化の波のなかで911はどうするのか? というのはクルマ好きのなかで大注目の課題だった。

ポルシェへの批判

荒井 今回は素のカレラ、軽量化が図られたカレラT、カレラ・カブリオレ、そしてハイブリッド・モデルとなったGTSの4台を箱根に持ち込みました。

上田 ハイブリッドになるという噂は大分前からありました。その噂が出たとたん、中古の価格が上がったりして。

村上 僕はGTSの国際試乗会に行ったんだけど、プレゼンテーションの冒頭に、これまでにこんな意見が寄せられましたというのを見せられた。

高平 どんな意見?

村上 それはもう否定的なものです。“ハイブリッドの911なんて必要ない”とか、“バッテリーを積んで2t以上になるぞ”とか、“おやすみなさいポルシェ”とか。

上田 空冷から水冷になったときみたいですね。

高平 批判する人って最初から911なんか買わない人だと思うけどね。

村上 とはいえ、電動モーターを組み込むことに冷ややかな見方があったことは間違いがなくて、そのなかでポルシェがどういう答えを出すのかが注目されていた。

高平 で、結局電気モーターだけでは走行しない、言ってみればマイルド・ハイブリッドだった。それにしてはパワーがあるんだけど、電動走行には一切使ってないから、大きくCO2排出量は減ってない。いままでのカイエンやパナメーラのハイブリッドと決定的に違うのは電動走行がないこと。カイエンとパナメーラはモーターのみで25km以上走れるから、会社全体のCO2排出量をぐっと下げることができた。

村上 これまでポルシェが作ってきたハイブリッド・モデルはEハイブリッドというものだった。それに対してGTSはTハイブリッドと呼んでいる。TはターボのT。タービンのなかに小さな電気モーターが入っている。

高平 バッテリーの電圧はなんと400Vで容量は1.9kWhもある。それなのに電動走行させない。僕は何がしたかったんだろうと思った。

村上 国際試乗会で、どうして電動走行できるようにしなかったのか?って聞きました。このバッテリーだとわずか数キロしか走れないからだというのが返事だった。

高平 それでもモード燃費を測るときはすごく役立つと思うんだけど。

村上 環境方面への配慮よりも走りを重視したハイブリッド・モデルを911は選択したということ。ハイブリッド化する911への批判の声に対して、ポルシェからの回答がこういうものだった。

新井 容量1.9kWhのリチウムイオン・バッテリーをいままで12Vのバッテリーを乗せていたところに収めるというのはすごいですよね。

村上 大きさも重さもほぼ同じなんだって。ライトを点けたりするための12Vバッテリーはリア・シートの後ろに移した。

高平 タービンのなかに組み込まれたモーターのほかに、ギアボックス・ハウジングに統合されたモーターが走りをサポートしているわけだけど、こんなに複雑なシステムを1ミリもボディの大きさを変えずに収めているのはすごい。しかも重量増はたったの50kgでしょ。

村上 まあ重量7kgのリア・シートをオプションにしたりしているけれどね。

上田 997型から991型へと進化したときにホイールベースが伸びました。将来のハイブリッドを見込んでいたのかもしれません。

荒井 GTSをハイブリッド化するにあたり重量とシステムを収めるスペース確保には涙ぐましい努力があったんじゃないですか。

村上 それこそが最大のブレークスルー・ポイントだと思う。エンジンの上にECUコンバーターが載っているんだけど、もともとそんなスペースはない。電気モーターを入れることでタービンをひとつにし、さらに補器類のベルトがなくなったことでエンジン高を10cm下げた。

高平 それにしてもですよ、マイルド・ハイブリッドだったらほかのメーカーは48Vですよ。400Vにすると専用のファクトリー・スペースと専用の技術者が必要になって、安全に対する手順がガーンと上がる。

村上 400Vにするのは、サーキットを限界走行しているときでも、電気の出力と回生を瞬時に的確に行うためで、完全にレーシングカーの技術からきている。

高平 いや、だったら軽い方がいいんじゃない? ということになっちゃう。400Vというトゥーマッチなものをあえて採用するというのは、次のステージを見越したものなのかもしれない。

何かが噛んでいる

荒井 GTSのハイブリッド・システムは環境問題よりも走行性能の向上のために新たに生まれたものだとして、実際に乗ってどうでした?

村上 国際試乗会で乗ったときは正直良くわからなかった。速いけれど楽しいかどうかわからないというモヤモヤした印象だった。電気モーターが発進はもちろん常に何らかの動きをしている。何かがあいだに噛んでいる気がした。

メーター内のモーター・アシストは出力があると右へ青いバーが伸び、回生が入ると左へ緑のバーが伸びる。小型軽量の高電圧バッテリーは400Vの動作電圧と1.9kWhの容量を誇る。

荒井 僕はモーターが黒子に徹していると思った。メーターにモーター出力と回生のバー表示が出るんだけど、あれがなかったらモーター・アシストがわからなかったかも。

新井 僕はハイブリッド感があるなあと思った。踏めばパーン!と出るんだけど明らかにモーターの存在を感じる。ターボ・ラグもないようで、ある。

村上 ラグがないように何かが働いているという感じだよね。

新井 そうそう。首都高のトンネルのなかでオン&オフをやったんだけど、まずモーターの加速があってその間にターボが準備を始めて、それらが瞬時に切り替わる感じ。

荒井 僕は峠道で乗ったせいかもしれない。ほかに気にしないといけないことがあるからね。

村上 サーキットで乗ると、どこでも最高のパフォーマンスをクルマが勝手にやってくれる感じで、もうめちゃくちゃ速い。サーキットでアタマを取りたい人は絶対GTS。

高平 トルクカーブがグーッと上がっていくのではなくて、最初にモーターでドン!とイッキに立ち上がってそこから横へスライドするフラットトルクみたいな感じだよね。

村上 そうそう。カレラは回転数の上昇ともに盛り上がっていくドラマがあるでしょ。そういうものが好みの人はカレラがいい。

◆2379万円のGTSに対して素のカレラは1853万円。992後期型は前期型と比べてどうなのか? この続きは【後篇】で!

語る人=高平高輝+荒井寿彦+村上 政(ENGINE編集部)+新井一樹(ENGINE編集部)+上田純一郎(ENGINE編集部) まとめ=荒井寿彦 写真=望月浩彦

■ポルシェ911カレラ

駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動  

全長×全幅×全高 4545×1850×1300mm  

ホイールベース 2450mm  

車両重量 1570kg  

エンジン 直噴水平対向6気筒ターボ  

排気量 2981cc  

最高出力 394ps/6500rpm  

最大トルク 450Nm/2000~5000rpm  

変速機 8段デュアルクラッチ式自動MT  

サスペンション(前) マクファーソン・ストラット/コイル  

サスペンション(後) マルチリンク/コイル  

ブレーキ(前&後) 通気冷却式ディスク  

タイヤ(前/後) 235/40ZR19 295/35ZR20  

車両本体価格 1853万円  

■ポルシェ911カレラGTS

駆動方式 前1モーターフロント輪駆動  

全長×全幅×全高 4595×1850×1665mm  

ホイールベース 2775mm  

車両重量 1630kg  

エンジン 直噴水平対向6気筒ターボ+モーター  

排気量 3591cc  

最高出力 541ps/6500rpm(システム計)  

最大トルク 610Nm/2000~5500rpm(システム計)  

変速機 8段デュアルクラッチ式自動MT  

サスペンション(前) マクファーソン・ストラット/コイル  

サスペンション(後) マルチリンク/コイル  

ブレーキ(前&後) 通気冷却式ディスク  

タイヤ(前/後) 245/35ZR20 315/30ZR21 

車両本体価格 2379万円  

■ポルシェ911カレラT

駆動方式 前1モーターフロント輪駆動  

全長×全幅×全高 4595×1850×1665mm  

ホイールベース 2775mm  

車両重量 1510kg  

エンジン 直噴水平対向6気筒ターボ  

排気量 2981cc  

最高出力 394ps/6500rpm  

最大トルク 450Nm/2000~5000rpm  

変速機 6段MT  

サスペンション(前) マクファーソン・ストラット/コイル  

サスペンション(後) マルチリンク/コイル  

ブレーキ(前&後) 通気冷却式ディスク  

タイヤ(前/後) 235/40ZR19 295/35ZR20  

車両本体価格 2006万円  

■ポルシェ911カレラ・カブリオレ

駆動方式 前1モーターフロント輪駆動  

全長×全幅×全高 4595×1850×1665mm  

ホイールベース 2775mm  

車両重量 1620kg  

エンジン 直噴水平対向6気筒ターボ  

排気量 2981cc  

最高出力 394ps/6500rpm  

最大トルク 450Nm/2000~5000rpm  

変速機 8段デュアルクラッチ式自動MT  

サスペンション(前) マクファーソン・ストラット/コイル  

サスペンション(後) マルチリンク/コイル  

ブレーキ(前&後) 通気冷却式ディスク  

タイヤ(前/後) 235/40ZR19 295/35ZR20  

車両本体価格 2110万円  

(ENGINE2025年6月号)