3代目BMW 6シリーズクーペは洗練されたマナーを備えていた【10年ひと昔の新車】
2011年3月、「世界一美しいクーぺ」と称された初代以来、3代目となるBMW 6シリーズクーペがジュネーブオートサロンで発表された。1月のデトロイトショーで先行デビューしていた6シリーズカブリオレモデルに続き、満を持しての登場だった。BMWにとって6シリーズクーペとはどんな存在だったのか。ここではドイツ・ミュンヘンで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年9月号より)

記録的な世界新車販売を記録したBMW、その成功例のひとつの典型
BMWは2011年の上半期における世界新車販売の結果で、前年同期の数字を17.8%上回る68万9861台を記録。自らも属するドイツプレミアム御三家の中で、アウディとメルセデス・ベンツを従えて、見事トップの座についた。
BMWブランドのセールスがとくに好調なのは、まずお膝元のドイツであり、ここで15万台を記録。続いてアメリカが14万3000台あまりで、それを12万台の中国が追っているという構図である。
さらにMINI、そしてロールスロイスを含むBMWグループとしての6カ月の業績では83万3366台と、昨年同期比で19.7%増となる記録的な数字を達成している。
この好成績を受けてBMWは2011年の業績予想を上方修正し、12カ月間の平均成長率を10%強、すなわち累計出荷台数の目標を160万台としたのである。
もちろんこの好調の要因は、タイミングの良いモデルチェンジおよびフェイスリフト、そしてエイドリアン・フォン・ホーイドンクが率いるデザイナーたちの優れたパフォーマンスにあると分析しており、今後もこの既定路線を突き進むことがマネージメント陣の間で確認されている。
その成功例のひとつの典型といえるのが、BMWのお膝元であるミュンヘンで試乗会が行われた、ニュー6シリーズクーペである。

先行してデビューしたカブリオレモデルよりも高いボディ剛性を持ったクーペのシャシは、ずっとダイナミックである。
オーセンティックだからこそ存在する意味がある
ここ数年におけるアッパークラスのクーペモデルは、メルセデス・ベンツCLSクラスの成功に影響されて4ドア化が進んでいる。だがBMWは、あえてこのセグメントにオーセンティックな2ドアボディのノッチバッククーペを持ち込んだ。
試乗に先立ってのプレスカンファレンスで開発担当重役であるDr.クラウス・ドレーガーは、「BMWのユーザーには、古典的でエステティックな2ドアクーペモデルを求める人たちが確実に存在しています。それゆえに、このセグメントに望まれる多くのハイテク装備を搭載した6シリーズクーペというラインナップは、BMWの製品プログラムにとって不可欠な存在なのです」と、確信に満ちた発言を行った。
開発コード「F13」を持つこの6シリーズクーペは、基本的には5シリーズ(F10)をベースにしており、先に発表された6シリーズカブリオレとは、もちろん兄弟関係にある。
ボディサイズは全長4894mm、全幅1894mm、全高1369mm。これを先代6シリーズクーペと比べてみると74mm長く、39mm幅広く、そして5mm低くなっている。またホイールベースは2855mmで、こちらは75mm延ばされている。
エイドリアン・ホーイドンクが率いるデザイン部門によってまとめあげられたその姿は、デザイン界の鬼才と言われたクリス・バングルがまとめた先代の6シリーズモデルと比べると、常識的にまとまっている。
上側がやや前方に伸びたフロントノーズ先端には、フラットになったBMWのアイコンの中心であるキドニーグリル、その両脇にはハイテクの象徴とも言えるフルLED式のアダプティブヘッドライトがレイアウトされている。ちなみに、ヘッドライトの筒状ボディのデザインは、ハイテクカメラのレンズを模したものだという。
ボディサイドでは、ドアハンドルの高さと揃えられたキャラクターラインがウエッジ状に走り、Cピラーの根元にはホフマイスターキンクが配置される。そしてルーフから後部にかけては、クラシックで端正かつ優美なラインがトランクリッドへ向けてなだらかに続いている。
そのリアエンドからは、バングルが採用して大きな物議を醸した段付きトランクリッドが消滅していて、常識的なデザインに戻されている。そしてまた、BMWのアイコンであるL字型のリアコンビネーションランプのデザインも復活した。
インテリアはカブリオレとまったく同一で、レザーとアルミニウム、そしてブラックパネルでスポーティかつ豪華な雰囲気が演出されて、裕福なオーナーの満足度を高揚させる。
さらに、9.2インチサイズのフラットTVタイプのカラーモニター、そして運転席前方のフロントウインドウ上に広い面積で、ナビだけでなく制限スピードなどといった多様なインフォメーションが映し出されるカラー表示のヘッドアップディスプレイシステムが、ハイテクの象徴となっている。
ニュー6シリーズは大型化された結果、リアコンパートメントも先代モデルよりやや広くなっている。とはいえ、身長が170cmを超える大人ではヘッドルームが不足気味なのは相変わらずで、フル4人乗車での長距離ドライブはやはり厳しい。
またトランク容量は10L増えて460Lとなり、これによって46インチサイズのゴルフバッグが3セット収納可能になったとプレスリリースには紹介されている。

バングルが採用して大きな物議を醸した段付きトランクリッドは消滅し、リアエンドは常識的なデザインに戻されている。
洗練されたハイテクを生かした滑らかな快適さ
6シリーズクーペのモデルラインナップはカブリオレと同じで4.4L V8ツインターボエンジンを搭載する650iと650i xDrive 、そして3L直6ターボエンジン搭載の640i、3L直6ツインターボディーゼルエンジン搭載の640dという4モデル。
今回の試乗会でハンドルを握ることができたのは640iクーペ。この排気量2979ccの直列6気筒ガソリンエンジンには、直噴システム、バルブトロニック、ダブルVANOS、ツインスクロールターボなどといった、最新のBMWならではのハイテクがフルに搭載されている。
その最高出力は5800〜6000rpmの間で320ps、最大トルクは1300〜4500rpmという広い範囲で450Nmを発生する。
組み合わされる標準搭載のトランスミッションは、ZF社製の8速スポーツAT。カタログ性能は0→100km/h加速が5.4秒、最高速度は250km/hで、これはリミッターによって制御されている。
まずは、アウトバーンを使ってミュンヘン空港方面へと向かう。さすがに1300rpmからすでに最大トルクを発生するターボエンジンのおかげで、軽くアクセルペダルを踏み込んでいくだけで、力強く圧倒的な加速が始まる。それとともに周囲の流れは、後方へと消え去って行き、そのまま踏み込んでいれば最高速度の250km/hにあっという間に到達し、無慈悲にもリミッターが介入する。
8速ATはスムーズそのもので、アウトバーン上での追い越し時も、まるで無段変速機を搭載しているかのように滑らかな加速を見せてくれる。
岩のように頑強な直進安定性とともに、車線変更ではオプションで用意されているインテグラルアクティブステアリングのおかげで、ほとんど手首の動きだけでスパッとレーンチェンジが可能になる。リアタイヤは最大で2.5度ステアするのだが、直進状態へ戻る時に「より戻し」などは起こらない。
カブリオレと比べると格段に高いボディ剛性を持ったクーペのシャシは、ずっとダイナミックなセッティングが与えられている。その軽快で正確なハンドリングによって、クルマの大きさを忘れてしまうほどである。
試乗車に装着されていたタイヤはオプションの19インチサイズで、フロントに245/40R19、リアが275/35R19であったが、ワンダリングなどは感じられず、乗り心地もまったく問題はなく、終始快適であった。
またこの6シリーズには、オプションで4種類のプログラムを持ったドライブロジックが用意されている。新しい点は標準状態が「コンフォート」になり、「スポーツ」と「スポーツ+」の他に、「ECO PRO」と名付けられたエコモードが加わったことだ。
このエコモードを選択すると、エンジンキャラクター、アクセルペダル操作の反応、シフトタイミングがそれぞれ低燃費指向にプログラムされる。Dr.ドレーガーは実用燃費で20%は向上すると説明したが、走らせてみても、とくに気になるような点はなかった。ちなみに19インチタイヤ仕様でのカタログ燃費は、100kmあたり7.8L、単純計算で12.8km/Lとなる。
発売時期は世界全域統一で10月15日とのこと。参考までにドイツでの価格は7万4700ユーロ(19%の付加価値税込:約859万円)となっている。(文:木村好宏)

BMWのアッパークラスに位置するラインナップに相応しい設え。助手席側のダッシュボードからセンターコンソールへと流れるラインが印象的。
BMW 640i クーペ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4894×1894×1369mm
●ホイールベース:2855m
●車両重量:1735kg
●エンジン:直6DOHCターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:235kW(320ps)/5800-6000rpm
●最大トルク:450Nm/1300-4500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●0→100km/h加速:5.4秒
●最高速度: 250km/h
※EU準拠