500馬力の「高級ラージセダン」ながら“ポルシェらしさ”濃厚! 4リッターV8ターボ搭載の「パナメーラGTS」は“抜群に楽しい”けれど“極めて快適”

電動車全盛の時代にピュアエンジン車が存在する意義とは

 ポルシェとしては初の市販モデルとなる5ドアサルーンとしてデビューした「パナメーラ」は、2023年末にモデルチェンジを実施。3代目へと進化を遂げました。そのラインナップに新たに加わった高性能バージョン「パナメーラGTS」は、古くからの愛好家をも納得させるポルシェらしさに満ちた1台でした。

ポルシェ「パナメーラGTS」

【画像】「えっ!…」ラージセダンでもポルシェらしさを堪能できる! これがスポーティで快適な「パナメーラGTS」です(30枚以上)

 そもそも「パナメーラ」のバリエーションは、3リッターV6ツインターボを搭載する「パナメーラ」と「パナメーラ4」、これに電気モーターを組み合わせた「パナメーラ4 Eハイブリッド」と「パナメーラ4 SEハイブリッド」、4リッターV8ツインターボ+電気モーターの「ターボEハイブリッド」と「ターボS Eハイブリッド」という布陣でした。

 そこに、モーターが備わらない4リッターV8ツインターボエンジンを搭載する「GTS」が加わったカタチです。気になるスペックは、最高出力500ps、最大トルク660Nmを発生します。

 もはやジャンルを問わず、クルマの電動化は不可避な状況ですし、出来のいいハイブリッド車を否定する気はありません。

 実際、ポルシェによる公称データによれば、「GTS」の最高速は302km/h、0-100km/h加速は3.8秒であるのに対して、「ターボS Eハイブリッド」の最高速度は325km/h、0-100km/h加速は2.9秒と、電動車の方が格上の速さを発揮します。

 それでも、「パナメーラ」にピュアエンジン車の選択肢があることを、ありがたいと感じる愛好家は少なくないのではないでしょうか。なかでも、大排気量V8エンジンを搭載する「GTS」は、愛好家ならずとも思わずニヤリとするモデルに仕上がっているのです。

「パナメーラGTS」のディメンションは、全長5055mm、全幅1935mm、全高1415mmと、高級サルーンにふさわしくなかなか立派です。車重も約2100kgと相応にヘビー級ですが、この数字はメーカーを問わず、昨今の同クラスの電動化モデルに比べると100~200kgほど軽量といえるでしょう。

 ゴージャスさと若々しさをたたえる“マデイラゴールドメタリック”をまとった試乗車のプライスタグは、消費税込(以下同)で2332万円。

 装備についても“オプション全部盛り”といった勢いで、外装における代表的なアイテムとしては、SportDesignパッケージ(カーボン/73万1000円)、パノラマルーフシステム(31万6000円)、HDマトリックスLEDヘッドライト(ティンテッド/42万7000円)が備わります。

 また、メカニズム関連のオプションでは、ポルシェセラミックコンポジットブレーキ(146万2000円)、リアアクスルステアリング(26万8000円)、ナイトビューアシスト(38万4000円)が代表的なアイテムとして加わります。

 インテリアはというと、Burmester 3Dハイエンドサラウンドシステム(79万9000円)、パッセンジャーディスプレイ(22万4000円)、リアシートエンタテイメント(28万6000円)が備わります。

ポルシェ「パナメーラGTS」

 実に試乗車のオプション総合計は約735万円にも及び、車両のトータル金額は約3000万円でした。絶対的な価格はもちろん高いものの、裏を返せば、「オーナーが望む仕様をお好きにつくっていただけます」というスタイルなのでしょう。

 一方で、Race-Texインテリアほか多くのレザーアイテムが標準装備となるのは、「車格を思えば、その辺りのアイテムが備わるのは当然です」という、さりげないアピールなのかもしれません。

抜群のドライビングプレジャーを味わえるのに極めて快適

 そんな「パナメーラGTS」で走り出してみて真っ先に感じたのは、思いのほか軽やかな身のこなしと程よい重量感でした。

ポルシェ「パナメーラGTS」

 表現が矛盾しているようですが、ステアリングやアクセル、ブレーキの操作にダイレクトに反応してくれる姿は「さすがはポルシェ!」のひと言。とはいえ、単に“瞬時に”とか“シャープ”というわけではなく、動作のすべてがスムーズでよどみがないという表現がふさわしいでしょう。

 身のこなしについては、後輪操舵機構であるリアアクスルステアリングの効果もあるようで、レーンチェンジやタイトなコーナーを抜ける際も路面に吸いつくようで、ドライバーが不安や車重を意識することはありません。

 意のままに曲がるのに過剰な演出はなく、それでいてフラットかつしっとりした乗り心地は、ポルシェ一流の味つけなのでしょう。

 面白いと感じたのは、リアシート乗車時の感覚です。サルーンとしてはシェイプの深いシート形状とあって、座席に腰を下ろすと心地よく程よい包まれ感があります。

 広大というイメージでこそありませんが、ひざまわりや腕まわりのスペースにも余裕があります。また、低めの着座位置とやや天地が浅いサイドウインドウの効果か、後席の住人ながらスポーティなクルマだなと感じます。

 フロント275/35、リア325/30の21インチタイヤが装着されていたので、リアシートはそれなりにハードな乗り心地なのでは? と思っていましたが、そんな予想はあっさり裏切られました。

 確かに、フワフワとソフトなリムジン的乗り心地でこそないものの、不快な突き上げや路面からの雑音などはしっかりとシャットアウト。クルマそのもののスムーズな動きもあって、リアシートの乗り心地も思いのほか快適です。

 こうしたフル4シーターサルーンとしての使い勝手のよさは、1台ですべてをまかないたいというオーナーの期待に応えてくれるものですし、ファミリーで出かける際に乗る2台目として、スポーツカー志向強めのオーナーには最適かもしれません。

 試乗時、近年のポルシェでスポーティモデルを意味する「GTS」を名乗るにふさわしいモデルだなと強く感じたのは、ドライバーズシートへと戻り、ステアリングホイールに備わるドライブモードセレクターを「SPORTS」にセットした瞬間。

 V8エンジンらしい鼓動を感じさせるエキゾーストサウンドに加え、手足の操作を緻密にトレースするエンジンや足まわりの感触、ガッシリとしたボディなどは、どことなく「911」を想像させます。

 ドアミラーに写るリアフェンダーの美しい曲線も「911」を思わせるものですが、そんな演出に頼らずとも、全身でポルシェらしさを実感できるのです。

 それを「二面性」と記すと、サルーン的なモードとスポーツカー的モードが切り替わるように感じてしまいそうですが、さにあらず。

 いずれのシチュエーションにおいても対極に位置するモードが犠牲にならない点こそが「パナメーラGTS」最大の美点なのです。

 サルーンなのに抜群のドライビングプレジャーを備え、スポーティモデルなのに極めて快適……「パナメーラGTS」は、そんな夢のコンビネーションを見事に実現しているのです。