サッカー日本代表の人気低迷が深刻、W杯予選は「勝って当たり前」「若年層の海外移籍」「テレビ中継減少」の三重苦

深刻化するサッカー日本代表の人気低迷, 一気に増えたアジアの出場枠, 海外で活躍する日本人選手は増えたが……, 放映権の高騰がサッカー離れを加速させた, チームが強くても、人気再興には結びつかない?, 放映権の高騰で民放局は完全撤退か, 人気低迷、解決の糸口はまだ見えず

6月10日、北中米W杯アジア最終予選の最終戦で、日本のサポーターに「もっと応援してほしい」と求めた久保建英選手(写真:アフロ)

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 サッカーのワールドカップ(W杯)は、アメリカ、カナダ、メキシコ3カ国で共催される北中米大会の開幕まで6月11日で1年を迎えた。日本代表は最新の世界ランキングがアジア勢トップの15位で、すでに1988年フランス大会から8大会連続出場を決めている。

 一方で深刻となりつつあるのが日本代表の人気低迷だ。代表メンバーの多くが若くして海外クラブに移籍し、代表戦の地上波放送も減少したことで、国内のライトなファン層に浸透しにくい。

 また、W杯の出場枠の拡大や日本のアジアでのレベルが抜き出たことで、W杯進出を懸けた予選の戦いへの関心が低下するという皮肉が招いた結果でもあった。

深刻化するサッカー日本代表の人気低迷

 日本がインドネシアに6-0で大勝した6月10日の北中米W杯アジア最終予選の最終戦(大阪・パナソニックスタジアム吹田)。東京スポーツの記事によれば、キャプテンマークを巻いて1ゴール、2アシストと活躍した久保建英選手(レアル・ソシエダード所属)は、ホームに駆けつけたインドネシアサポーターの大声援に触れ、日本のサポーターにも「個人的にはもっと応援してほしいなと思います」と“後押し”を求めた。

 その一方で、久保選手は「僕らの実力だったり、人気不足もあると思うけど」と日本代表の置かれている現状に対する危機感を口にした。

 サッカー日本代表の人気低迷――。実はサッカーに関する報道では近年、この問題が深刻視されている。

 例えば、サッカー専門サイト「フットボールチャンネル」は6月6日、日本が豪州と対戦して0-1で敗れた前日のW杯アジア最終予選を振り返った記事の見出しに「サッカー日本代表の人気低迷は加速する。お金を払っても退屈な豪州戦。地上波放送なし、アジア予選のレベルも全然だ」と付けた。

 この記事の中でも触れているが、日本代表の人気低迷には、アジアにおける日本の「立ち位置」が関係している。

 一つは、アジアにおける日本のレベルが抜きん出た存在になってきたこと。そしてもう一つは、W杯のアジア枠が大幅に増え、日本が戦うW杯予選そのものへの関心が低下していることだ。

一気に増えたアジアの出場枠

 2026年の大会は、世界からの本大会出場チーム数が従来の32から48へ大幅に増えた。これに伴い、アジアの出場枠も、前回の2022年カタール大会が4.5枠だったのに対し、今回は8.5枠で4枠増となった。

 昨年9月から今年6月まで行われたアジア最終予選は、A~Cの3組に振り分けられ、日本はC組で10試合を終えて9勝1敗の首位通過となった。3試合を残して過去最速での予選突破を決めた。

 C組には、日本が唯一黒星を喫した世界ランク26位の豪州や、中東のサウジアラビアが入ったが、日本は全10試合で7勝1敗2分(勝ち点23)。10試合で30得点を挙げたのに対し、失点は3と攻守ともに圧倒した。

 ただ、出場枠の拡大によって、3つの組の上位2チームはそのまま本大会出場が決まる。世界ランクで日本に次ぐ18位につけるイランや、かつてアジア予選でしのぎを削った同23位の韓国なども別の組となり、最終予選での対決はなかった。

 日本が最終戦のロスタイムにイラクに追いつかれた「ドーハの悲劇」で初出場を逃した1994年米国大会は、全出場チームが24で、アジア枠は2と狭き門だった。

 日本が初出場を決めた1998年フランス大会からは出場チームが32に増え、アジアも3.5枠に増えたが、最終予選中に当時の加茂周監督が成績不振で解任されるなど、アジアでの戦いはそれだけ熾烈だった。

海外で活躍する日本人選手は増えたが……

 代表メンバーも1998年のフランス大会までは、日本のJリーグに所属。国内リーグでの活躍が代表争いにつながっていた。

 しかし、1998年大会後に主力選手だった中田英寿氏がイタリア・セリエAのペルージャへ移籍すると、その後も、代表クラスの海外クラブ挑戦が相次いだ。

 それでも、当時は日本代表や、若手が出場する五輪代表もJクラブに所属する選手がまだ多く、代表選手は国内の試合で応援に行ける環境にあった。海外へ移籍する選手も、JリーグやW杯での活躍が認められてから移籍するケースが多かった。

 ところが、近年は、より若い年代やJクラブを経由せずに海外クラブでプレーする選手が増え、代表クラスはほぼ全員が海外クラブに所属しているのが当たり前となった。

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三笘薫選手をはじめ、海外で活躍する選手たちが日本代表に招集されており、チームの実力はレベルアップしている(写真:REX/アフロ)

 久保選手や三笘薫選手(ブライトン所属)ら、海外でもまれた選手らが代表に招集され、チームとしてのレベルアップという好循環が生み出されている一方で、W杯の出場枠が増加したことで、アジアでの実力が抜きん出てきた点は否めない。

 このことが、ライトなファン層のW杯予選への関心が高まりにくくなる皮肉を生んでいる。

 アジア最終予選のホーム試合を地上波で独占生中継したテレビ朝日のホームページには「サッカーW杯出場へ!絶対に負けられないアジアの戦いが始まる!!」「アジアの勢力図も変化する中、各国が悲願のW杯出場に向け、名誉と威信をかけて戦いに挑んでくる…!」などと記されている。

 たしかに、日本の2つの引き分けはサウジアラビアと豪州、黒星が豪州だったため、出場枠が従来のように少なければ、緊張感が高まったと言えなくもなかったが、今回の最終予選を「厳しい戦い」と額面通りに受け取る状況にはなかった。

放映権の高騰がサッカー離れを加速させた

 追い打ちをかけたのが、地上波中継の減少だ。

 最終予選の日本代表戦は、2022年大会の最終予選に続き、動画配信のDAZN(ダゾーン)が全試合をライブ配信したが、地上波はアウェー戦の放送がなかった。

 背景にあるのは放映権の高騰だ。

 日刊スポーツの2021年8月20日付の記事「【解説】W杯アウェー予選が地上波消滅、放映権高騰で恐れていたこと起きた」によれば、アジア・サッカー連盟(AFC)が2005年、放映権がビジネスになると判断して権利を売り始めた。日本、韓国、中国が反対したが受け入れられなかった。

 同記事によれば、日本で地上波中継をするテレビ朝日の放映権料は右肩上がりで増大し、2017年に4年180億円で契約を結んだが、2021年からの契約でAFCは8年2000億円に設定。テレビ朝日は契約を見送り、ホーム戦だけを「ばら売り」で購入したという。

 DAZNが2028年までの契約に合意したことで、コアなファン層は有料とはいえ視聴機会が確保されたものの、ライトなファン層には代表戦を観るハードルが高くなった。

深刻化するサッカー日本代表の人気低迷, 一気に増えたアジアの出場枠, 海外で活躍する日本人選手は増えたが……, 放映権の高騰がサッカー離れを加速させた, チームが強くても、人気再興には結びつかない?, 放映権の高騰で民放局は完全撤退か, 人気低迷、解決の糸口はまだ見えず

コアなファン層は有料でも試合を楽しむが、ライトなファン層が試合を観戦できるハードルはこれから先、一層高くなっていく(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

チームが強くても、人気再興には結びつかない?

 では、地上波で中継されたホーム戦からみた日本代表の人気はどうか。

 朝日新聞の今年3月22日付記事によれば、日本が引き分け以上で本大会出場が決まるバーレーン戦(3月20日夜、ホーム戦)の関東地区の視聴率は世帯平均21.7%、個人平均14.3%(ビデオリサーチ調べ)だった。

 記事では、前日の19日夜に東京ドームで開催された米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手らが出場した公式戦の視聴率が同じビデオリサーチの関東地区の調査で世帯平均29.5%、個人平均18.6%だったことが紹介されている。

 フットボールチャンネルの同21日付記事は、「極めて重要な一戦であったにもかかわらず、視聴率で“大谷フィーバー”には及ばない現実がある」と辛辣で、「チームはいまだかつてないほどに強さを見せているが、マスへのアピールには課題を抱えている」と強さが人気に結びつかないジレンマを抱えていることを指摘した。

放映権の高騰で民放局は完全撤退か

 さらに、放映権料は本大会でも高騰の一途をたどる。

 日本のW杯中継の放映権料は、2002年日韓大会からNHKと民放5社などでつくる「ジャパンコンソーシアム」が地上波での無料中継を念頭に共同で負担してきた。

 しかし、金額の高騰から2018年大会からはテレビ東京が撤退。2022年大会では日本テレビとTBSも退いた。2022年大会はNHK、テレビ朝日、フジテレビの3社とインターネットテレビ「ABEMA」で放映権を確保したが、日本経済新聞によれば、契約額は推定二百数十億円だった。

 そして、FIFAは2026年大会の中継事業者については、動画配信と放送の合計で1~3社を想定。国内の独占交渉を行う博報堂と、普及の観点から日本戦や決勝などの無料中継を目指すとしながらも、民放局の完全撤退の可能性も視野に、デジタル中心の新たな仕組みを模索しているという。

人気低迷、解決の糸口はまだ見えず

 日本は2018年、2022年のW杯は、2大会連続で1次リーグを突破して16強入り。特に2022年大会は、1次リーグで強豪のドイツ、スペインを相次いで破った。

 視聴率は好調で、特に日本の初戦となったドイツ戦は、ビデオリサーチによると、中継したNHK総合の関東地区の平均世帯視聴率が35.3%、個人視聴率22.1%(いずれも速報値)で、瞬間最高世帯視聴率は40.6%に達した。また、無料で生中継したABEMAによると、ドイツ戦があった日の視聴者数は1000万を超え、過去最高だったという。

 本大会の盛り上がりにつながる無料視聴の機会が減少すれば、ライト層のサッカーとの接点はさらに狭まり、人気面に大きく影響する可能性がある。

 1993年のJリーグ開幕から30年以上が経過し、強化と普及を実らせてきた日本サッカー界が直面する「選手の海外流出」「W杯予選で高まらない盛り上がり」「地上波中継の減少」の人気低迷要因の“三重苦”は、解決の糸口を見いだせないまま、来年のW杯を迎えることになる。

田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授

1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。