「そりゃそうだ…」結婚式場の「大型倒産」が相次ぐ納得のワケとは?【専門家が解説】

かづ美が手掛けていた「ヴィラ・グランディスウエディング・リゾート」(東京商工リサーチ撮影)
各地で結婚式場の破たんが相次いでいる。九州や北陸では地域トップクラスの結婚式場の経営会社が破産し、予定した挙式が突然キャンセルされ衝撃が走った。婚姻数は長年低迷し、「地味婚」「ナシ婚」も浸透してきた。市場縮小が続くなか、追い打ちをかけるようにコロナ禍に見舞われ、業界全体が大打撃を受けた。コロナ禍後は反動増も期待されたが、結婚式への意識やニーズが多様化し、コロナ前に戻るのは難しい。装置産業の典型例でもある結婚式場は、華美な設備投資を誇った業者ほど苦境に陥っている。(東京商工リサーチ情報部 増田和史)
九州屈指の結婚式場運営会社が倒産
借入過多、コロナ禍に、コンプラ違反がとどめ
福岡・佐賀で5カ所の結婚式場を経営していた(株)アルカディア(久留米市)は3月21日、福岡地裁久留米支部から破産開始決定を受けた。負債は1000人以上の債権者に対し、54億200万円と九州・沖縄の結婚式場運営会社で過去最大の倒産となった。

アルカディアの本社(東京商工リサーチ撮影)
2002年に欧米様式の結婚式場「ロイヤルパークアルカディア」をオープンし、ハウスウェディング事業に乗り出した。その後、小倉や太宰府、佐賀県にも展開し、2015年12月には福岡市の中心地、天神地区の一等地に旗艦店としてレストラン併設の式場「QUANTIC(クアンティック)」を開業、2017年8月期の売上高は過去最高の約46億8000万円をあげた。
アルカディアは「邸宅ウェディング」を商標登録していた。その名の通り、邸宅で行う結婚式のようにゴージャスでゆったりとした上質な空間を演出し、地元では人気の結婚式場として名をはせた。
ただ、出店資金は銀行借入に頼っていた。新規出店を重ねるたびに借入依存度は高まり、華やかな事業展開の裏で台所事情は楽ではなかった。こうした時期にコロナ禍が襲い掛かった。挙式延期や中止が相次ぎ、2020年8月期の売上高は約24億3500万円とピークのほぼ半分にまで落ち込み、大幅赤字を計上。翌2021年8月期はさらに利用客が減少し、売上高は約12億9300万円に落ち込んだ。
コロナ禍が収束するとある程度の需要は回復した。だが、セレモニーの簡略化や小規模化に拍車がかかり、業績はコロナ前には到底及ばなかった。直近の2024年8月期の売上高は約21億円とピークの半分にも満たず、債務超過状態だった。
さらにとどめを刺したのがコンプライアンス違反の発覚だった。2025年2月、従業員の休業日数を水増しして、新型コロナの雇用調整助成金を不正受給した疑いで社長を含む幹部が逮捕された。そして、福岡労働局からは違約金を含めて約12億円の返還を命じられた。この違反が決定打となって事業継続を断念。予約済みの挙式・披露宴・宴会はすべてキャンセルとなり、100組以上の申込客に被害が及んだ。
中国進出の失敗などで債務超過に転落
北陸トップクラスの結婚式場も破産へ
北陸で高い知名度を誇った結婚式場業者も2024年12月、負債30億円を抱えて金沢地裁に民事再生法の適用を申請した。だが、スポンサーは見つからずに再生を断念。3月に破産手続きに移行した。
(株)かづ美(金沢市)は、1980年代に婚礼やパーティドレスなどの貸衣装業として創業。その後、飲食事業に進出し、2004年に金沢市内で「ヴィラ・グランディスウエディング・リゾート」をオープンし、式場経営に本格参入した。
その後も富山、福井に支店をオープンし、2007年には金沢店に併設して完全貸切・全天候型の結婚式場「カーサ・ディ・ジェナ」を開業して話題を集めた。積極的なテレビCMなどの効果で知名度は高く、北陸の結婚式場としては有数の規模に成長、2011年6月期の売上高は25億5700万円を計上した。
一方で、中国への進出にも力を注いだ。2008年、上海市に結婚式場をオープンし、挙式と披露宴をセットにした日本式サービスを目玉に事業拡大を目指した。ところが、期待に反して中国事業は伸び悩み、初出店から10年後の2018年に撤退に踏み切った。この撤退に伴う損失などで赤字に陥り、債務超過に転落した。
それから間もないタイミングでコロナ禍が吹き荒れ、状況はさらに悪化する。コロナ関連融資や借入返済のリスケジュールの要請などで資金繰りに奔走したが、コロナ禍が落ち着いても業績は振わず自主再建を断念。年の瀬も押し迫った2024年12月、民事再生法の適用を申請し、スポンサー支援による再建を目指した。当初、スポンサー候補が複数挙がったとされていたが、結局、条件面で難航し再生計画を作成できず破産手続きに移行した。
難しい業態転換と
コロナ後も戻らない需要
破産した両社とも積極的な出店で、地元では有数の式場として知られた。高まる知名度とイメージ戦略を武器に集客を図ったが、水面下では出店投資で有利子負債が膨らんでいた。
共通するのは、借入増による財務の悪化が、すでにコロナ禍前から懸案となっていた点だ。趣向を凝らした造りの結婚式場は、贅沢であればあるほど建築コストがかさみ、資金需要も膨らむ。一方で、仮に別業態への転換を目指しても、結婚式場は設備をほかの目的に転用するのが難しい。神殿や教会を模した豪奢な設備ほど、結婚式以外に用途を見つけにくいジレンマを抱えている。
こうした「ハコ」ありきの装置産業では、施設の稼働率が経営の生命線だが、コロナ禍で稼働が一気に落ち込んだ。コロナ禍ではホテルなどの宿泊業でも同様の現象が生じた。結婚式場、ホテルともに、政府による資金繰り支援などの手厚い支援で、危機的状況を何とかしのいだ企業は多かったが、それは他力本願の綱渡りに過ぎなかった。
その後、国内旅行やインバウンド需要の回復で、ホテルなどの宿泊業の稼働率はいち早く上向いたが、対照的にブライダル関連は「地味婚」、「ナシ婚」がさらに広がり、旧来の結婚式場の収入までの回復は程遠い。
アルカディアもかづ美も地元トップクラスの知名度、豪華な設備を誇りながら、それが再建には裏目に出て、スポンサーも現れず破産に追い込まれた。市場拡大の望みが薄く、設備を転用するにもハードルが高い結婚式場経営の難しさを象徴している。
ブライダル関連事業者の経営破たんは
過去10年で2番目の高水準
多店舗展開の事業者に限らず、長年地域の老舗として実績を重ねた結婚式場も倒産の憂き目にあっている。
丘陵地に建ち、ハウスウェディング風の式場「グランプリエール ララリアン」を経営していた(株)ララリアン(飯塚市)は3月末までに営業を停止し、破産申請の準備に入った。また、1970年代に「次郎長会館」(現:ルミエール)として結婚式場を創業した(有)次郎長ずし(四国中央市)も事業継続を断念、5月に破産開始決定を受けた。

ララリアン(東京商工リサーチ撮影)
大阪では結婚式場の斡旋や仲介を手掛けていた(株)コンパル(大阪市北区)が破産開始決定を受けた。結婚相談所からスタートし、その後に式場の仲介へシフトした。ピーク時は全国の百貨店など100カ所以上に「コンパルカウンター」と呼ばれる窓口を展開していた。ただ、全国的に名前を知られても、世間のニーズ変化で業績が落ち込み、生き残りは難しかった。
結婚式場のほか、結婚相談業、結婚式場紹介業を含めた「ブライダル産業」の2024年度の倒産件数は13件で、過去10年では2023年度(18件)に次いで2番目の高水準になっている。休廃業・解散を含めると、その数は50件を上回り、市場からの撤退は止まらない。

一方で、手軽にパートナーと繋がることができるマッチングアプリの登場など、新たなツールやプレーヤーの出現で関連のマーケットは大きく変容している。ニーズの変化をいかに察知してビジネスチャンスに繋ぐことができるかが生き残りのカギになる。
「結婚」は人生の一大イベントであることには変わりない。ただ、少子化が進み、ライフスタイルや価値観も変化している。この流れのなかで、従来型のセレモニー形式の結婚式は縮小が避けられない。ユーザーに選ばれる魅力的なプランや設備を提供し、いかに付加価値を高めることができるか。難しい舵取りが求められる結婚式場だが、これからも試行錯誤の戦いが続きそうだ。