「S&P500」vs「オルカン」、つみたて投資のパフォーマンス格差に変化の兆し。長期投資ならどちらが有利?

「S&P500」vs「オルカン」、つみたて投資のパフォーマンス格差に変化の兆し。長期投資ならどちらが有利?

マネックス証券の投信売れ筋ランキングの2025年5月のトップは「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」、第2位に「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」が浮上した。「楽天日本株4.3倍ブル」と「SBI 日本株4.3ブル」は第3位と第4位に後退した。また、「SBI 日本株3.8ベアⅡ」は第8位に、「楽天・日本株3.8倍ベアIII」が第10位にと順位を落とすなど、株価の乱高下を狙ってタイミングで投資するブル・ベア型の人気が衰えた。これに対し、「日経225ノーロードオープン」が第6位に、「iFree 日経225インデックス」が第7位、「iFreeNEXT FANG+インデックス」が第9位にランクアップするなど、オーソドックスなインデックスファンドの人気が回復している。

◆日本株ブル・ベア型ファンドは短期のトレードで

4月にあった米国の「相互関税」を巡る混乱での株価の乱高下は、短期勝負・タイミングを計って投資するレバレッジ型(テコの原理で現物株市場の数倍の比率で値動きするファンド)のファンドの活躍するタイミングでもあった。「楽天日本株4.3倍ブル」は4月にマネックス証券の売れ筋でトップに立っている。

ブル・ベア型ファンドの基準価額の推移をみると、エントリー(購入)とエグジット(解約)のタイミングが非常に短いことがみてとれる。迷いがあって考える時間を求めていてはタイミングを逸してしまうようなレベルの短さだ。たとえば、4月上旬の株価急落の場面は、下落相場で収益機会を得る「ベア型」にとっては絶好のチャンスだった。2024年末を起点として10000にして考えると、4月2日に1万3850だったのが、4月7日には2万2417に跳ね上がった。わずか4営業日で基準価額は約62%上昇した計算だ。2024年12月末に購入していれば、3カ月余りで基準価額が2.2倍になったことになる。ところが翌日には1万6607になり、4月10日には1万2685にまで下落する。4月2日に購入した人は2~3日はワクワクした思いができるが4月10日の時点ではすでに購入価格を割り込んでしまっている。営業日でわずか7日間の間に、購入して解約を行わなければ利益を確定することができなかった。

ブル・ベア型ファンドとオーソドックスなインデックスファンドのパフォーマンスの違いは、2025年の年初から5カ月間の基準価額の推移を振り返るだけでも明らかだ。ブル・ベア型ファンドが大きな威力を発揮するのは、4月に起きた「トランプ(関税)ショック」のような「ショック安」だ。実際に「楽天・日本株3.8倍ベアIII」は4月上旬に基準価額が跳ね上がったが、5月末には2024年12月末比でマイナスに落ち込んだ。そして、5月末の時点でみると2024年12月末比でストレートなインデックスファンドである「日経225ノーロードオープン」に劣後している。中長期の資産形成を考えた場合は、ブル・ベア型ファンドよりも伝統的なインデックスファンドの方が無難だろう。

◆「オルカン」と「S&P500」の積立投資の成果は?

売れ筋ランキングでトップを維持する「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」と「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は、中長期のパフォーマンスが優れていることによって人気を不動のものにしている。たとえば、2018年10月31日に設定された「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は、基準価額10000円でスタートしたものが、2025年5月末には2万6263円になっている。スタート地点から約6年半で約2.6倍だ。4月の「トランプ・ショック」では大きく下落したが、最も下落した4月9日に基準価額は2万2305円。4月末には2万4500円台に回復している。投資をスタートした時点と比較すれば2倍以上に上昇した後での小幅な調整とみえなくもない。

また、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」を使った積立投資の成績についても、設定から毎月1万円を月末に積立投資してきた場合、2025年5月末時点で積立投資元本は80万円で、ファンドへの積立投資の評価額は約140万5000円になっている。積立投資してきた場合でも4月の下落相場の影響は軽微だった。長期の投資が資産形成には必要であるということを確認させられる。

一方、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」を上回る運用成績を残している。特に、2020年3月の「コロナ・ショック」以降に両ファンドの格差は明瞭になった。比較を容易にするため、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の設定時と同じ2018年10月31日を10000円とすると、2025年5月末時点では3万549円となっている。また、2018年10月から毎月月末に1万円の積立投資を実施した場合の積立投資評価額も2025年5月末時点では約152万8000円になった。

運用成績において「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」にかなわないのだが、2025年になってやや「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」が追いつく展開になっている。たとえば、積立投資評価額の格差について、2022年以降は「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」に8%程度劣後することが常態化し、時には10%以上劣後し、2024年12月には12.6%にまで格差が広がった。ところが、2025年4月には両ファンドの格差は7.85%にまで縮まった。今後、パフォーマンス格差が拡大するのか縮小するのか注目したい。

執筆/ライター・記者 徳永 浩

Finasee編集部

「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。