買ってはいけない高配当株「6つの条件」配当性向の東証全銘柄平均は【新NISA応援】
新NISAで買った株が値下がりするリスクを極力避けたい。プロ&成功した個人投資家(長期株式投資さん、配当太郎さん)の失敗しない高配当株選びの基準は?【本記事はアエラ増刊「AERA Money 2025夏号」から抜粋しています】
プロの銘柄選びの視点を教えてくれたのは、過去25年間にわたり2000億円以上の資金を運用してきた楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジストの窪田真之さん。
ファンドマネジャー時代に取引することが多かったのは株価が業績に比べて割安な銘柄だった。
窪田さん、「買ってはいけない高配当株」の例をお願いします!
「配当の原資になるのはその企業が稼ぐ利益や内部留保として蓄えた『利益剰余金』が主です。
財務内容が悪い企業、収益基盤が弱い企業、利益の勢いが弱くなった企業は配当原資を確保できない可能性があるので見送りましょう」
■最高益更新が理想
不祥事があったり、コーポレートガバナンス(企業の管理体制)に問題があったりする銘柄も当然、投資対象から外す。
配当利回りや配当性向(利益のうち配当に回している割合)が異常に高い銘柄は、利益や財務の実力以上に配当を出しすぎている場合があるため、避ける。
「高配当株には、利益が出ていても成長期待に乏しいケースがあります。
投資家から人気がないオールド株は高配当になりがち。株価が下がり、結果的に高配当利回りになった銘柄も含まれます。
そうした銘柄を除外する意味で注目したいのは『その企業が最高益を更新しているかどうか』です。
年間のインフレ率が2%だとしたら毎年2%以上、最高益を更新している銘柄を、ひとまず合格としましょう。
インフレ率以上の利益上昇が期待できない銘柄は微妙です」
窪田さんは「自社株買い」も重視している。自社株買いは読んで字のごとく、企業が自己資金で自社の株を買い戻すこと。
「自社株買いは『その買いで株価が上がるからいいんでしょ。でも、自社株買いのあとに再び下がることもあるよね』と言う人がいます。
米国では高配当より自社株買いのほうが喜ばれるようです。
理由は、自社株買いをすれば発行済み株式数を減らせるから。
発行済み株式数が減ると『当期純利益÷発行済み株式数』で計算するEPS(1株当たり利益)が上昇します。
仮にその企業のPER(株価収益率)が変わらないとすればどうでしょう。
『PER=株価÷EPS』で算出されます。ということは、『株価=EPS×PER』ですから、株価も上がるのが自然、と」
発行済み株式数が減る→EPS上昇→(PER不変なら)株価も上昇という思考回路である。
特定口座などで配当を受け取ると、投資家は約20%の税金を払う必要がある。
自社株買いは投資家が税金を払わずに株価を上昇させる効果がある。株を売らなければ値上がり益には課税されないため、税金の支払いを繰り延べできるともいえる。
「自社株買いを行っている高配当株は1株当たり利益が向上するので、配当性向が同じなら理論上は増配が続くことにもなります。
自社株買いはある意味、次の増配のための準備となるのです」
他社が簡単にまねのできないビジネスを行い、収益基盤が盤石な銘柄を選んだほうがいいのは、成長株でも高配当株でも同じこと。
この条件に合致する銘柄なら、自己資本比率などの財務データが低くても「買い候補」となりうる。
「たとえば日本証券金融。株式の信用取引の資金や貸株を手配している企業です。金融業のため、自己資本比率は1%台。財務面では心もとないように見えます。
ただ、日本証券金融は株の信用取引というニッチで差別化された分野で高収益を上げ、高配当を維持しているいい例です。
逆の例としては、液晶テレビなどに強いシャープ。低価格を打ち出す他国の手ごわい競争相手が出てきて差別化に苦戦しています」
■億り人の銘柄選び
次に、高配当株への投資で大成功している個人投資家3人の方の意見を順番に聞いていく。
1人目は長期株式投資さん。三菱商事をはじめ、優良な高配当株に投資して元手5万円を21年で1億9000万円にまで増やした。
長期株式投資さんは次の(1)〜(5)を高配当株の銘柄選びの基準にしている。
(1)バリュエーション(企業の利益や資産などを評価すること)が適切かを確認するため、過去5年ぐらいのPER、PBR(株価純資産倍率)の「高かったとき」「低かったとき」をチェック。
現状の株価と比較しつつ、今は「低いほう(割安)」かどうかを確認する。
(2)減配リスクを避けたいので、業績が安定的かどうかを見る。
(3)決算資料などに「累進配当」(配当を増やすか減らさない)を配当政策として掲げているといい。
配当の基準にDOE(株主資本配当率)を挙げている企業も好感。DOEは、株主資本(純資産のうち「株主のもの」である部分。資本金、利益剰余金など)の何%を配当に回しているかを示す指標だ。
株主資本は毎年の利益と違い変動しづらいため、「DOEをベースに配当金額を決定または目標とする銘柄は安定配当が期待できる」とされる。
(4)利益の何%を配当に回しているかを示す「配当性向」を見て、増配しそうかどうかを考える。
「同業他社で純利益の額が大きい上位5社の配当性向の平均値よりも高すぎないこと」が長期株式投資さんの基準だという。
(5)業界や特定の分野で首位級かどうかを調べる。
純利益が大きい同業上位5社の売上高に対する営業利益率の平均を計算し、その平均値より高い利益を上げているかで判断している。
■かぶ1000さんの視点
2人目は株式投資歴35年以上のベテラン、かぶ1000さん。長期株式投資さんと似た部分もある。
「配当性向の水準や減配の可能性に注目して、現在の配当水準をこの先も続けられるかどうかに注目しています。
安定配当が期待しやすいDOE基準の配当目標を設定しているか。
配当はもちろん、自社株買いなど株主還元の方針が中期経営計画などで明確に示されているか。
自己資本比率が高く、財務の健全性に問題がないか」
■配当太郎さんは増配率
3人目は、「増配率」などに着目して投資する配当太郎さん。
PER、PBR、ROE(自己資本利益率)といった定番の株価指標を読み解き、調べるという。
ROEは自己資本を使って毎年何%の利益を上げているかを見る指標。一般的に8%以上で合格とされる。ROEが高い銘柄ほど効率的に稼いでいると判断できる。
稼ぐ力がある=配当余力が高いという考え方だ。ちなみに「ROE×配当性向×100=DOE(株主資本配当率)」である。
配当性向、DOE、PER、PBRはその銘柄が属する業界によって違いがある。各指標の業界平均を自分で調べるのは大変だ。そこで、これら4つの33業種平均を次ページで一挙掲載。保存版だ。
東京証券取引所のホームページ(「統計情報(株式関連)」の「その他統計資料」や「決算短信集計結果」)で配当性向、DOE、PER、PBRの33業種ごとの業界平均値が定期更新されている。
なお、東証のデータではDOEではなく「純資産配当率」になっている。「純資産」から新株予約権や非支配株主持ち分を引いたものが「自己資本」、さらに子会社の為替差益など「その他の包括利益累計額」を引いたものが「株主資本」。
厳密に言うと違うが、東証の純資産配当率のデータをDOEとして見てもらっても大きな問題はない(この点は本誌が金融関係者に確認済み)。
取材・文/中島晶子(AERA編集部)、安住拓哉
窪田真之(くぼた・まさゆき)楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。大和住銀投信投資顧問のファンドマネジャーを経て、2014年より現職。楽天証券「トウシル」の執筆記事が大人気
編集/綾小路麗香、伊藤忍
『AERA Money 2025夏号』から抜粋