メルセデス・マイバッハ「EQS680 SUV」衝撃の走り

メルセデス・マイバッハEQS680 SUVは、バッテリー駆動の大型SUVとしてラインナップ唯一の存在(筆者撮影)
メルセデス・マイバッハという最上級ラインの誕生は2014年。なかでも、2024年8月に日本発売された「メルセデス・マイバッハEQS680 SUV」は、図抜けている。技術力と豪華装備で、なるほどメルセデス・ベンツのひとつの頂点と納得できる出来映えだ。
【写真を見る】2790万円からとなるメルセデス・マイバッハ「EQS680 SUV」。唯一無二の存在(11枚)
メルセデス・マイバッハEQS680 SUV(以下・EQS680)に乗ったのは、2025年4月。以前、東京と近郊で試乗したことはあったけれど、箱根のワインディングロードを走ったのは、今回がはじめての体験だった。
全長5135mmの車体を3210mmというロングホイールベースを持つシャシーに載せ、さらにバッテリーやモーターなどを搭載したBEV(バッテリー駆動EV)であるEQS680。外観は迫力のあるものの、スポーティな雰囲気はあまり感じられないのが正直なところ。しかし、実際の走りは万能型。どんな道でも平均点高くこなしてしまうのだ。
マイバッハの歴史

全長5135mm、全幅2035mm、全高1725mmの車体に3210mmのロングホイールベースという組み合わせ(筆者撮影)
マイバッハは、そもそも1909年にドイツで創業され、第二次大戦前まで高級車づくりで知られていた。メルセデス・ベンツの競合でもあった。創業者のウィルヘルム・マイバッハが、「メルセデス・ベンツ」ブランド誕生前「ダイムラー・モトーレン」社で、同社の創業エンジニアだったゴットリーブ・ダイムラーの片腕として働いていたこともあって、親和性もあった。
ダイムラーの会社とカール・ベンツの会社が合併し、「ダイムラー・ベンツ」社がスタートしたのは1962年。彼らはマイバッハが乗用車から撤退したあと商標権を保持。それをいつか作る超高級車のブランドとして使うのが長期的な計画だった。1997年に「満を持した」と、ホイールベースが3862mm、全長が6165mmという「マイバッハ62」と、3390mmと5723mmの「マイバッハ57」のプロトタイプを東京モーターショーで発表した。

BEVのEQS680だが、メルセデス・マイバッハのデザインアイデンティティとなる縦バーのグリルは健在(筆者撮影)
私はこのときデザインを統括したフランス人デザイナーに、「記念に」と、ボディのアルミ材の残りで作ったペーパーウェイト(文鎮)をもらった。友人に配ったとのことで、私のものは今も引き出しの奥に眠っている。
ということはどうでもいいのだが……、復活したマイバッハの2台は2002年に発売された。62はあまりにも大きくて日本では取りまわしが大変と、販売は思わしくなかったようだ。昨今の大型車のように後輪操舵システムを備えていれば話は違ったかもしれないけれど。57は今もたまに見かける。初期型は5.5リッターV型12気筒エンジンを搭載し、圧倒的な存在感と作りのよさといった、このクルマならではの特長がある。
乗り物史に残る、ドイツのフォン・ツェッペリン(硬式飛行船を実用化した人物)が19世紀に開発した飛行船のためのエンジンを開発していたのもマイバッハ。今の若い人がどのように感じるかわからないが、こういう史実を背景に見る世代には、響くブランドだ。
2013年に姿を消したマイバッハ

後輪操舵システムを備えて最小回転半径(ホイールトゥホイール)は5.1m(筆者撮影)
マイバッハ62は全長が6mを超え、57でも5.7mある。大排気量の12気筒エンジンと大型ボディ、それにほとんど特注で仕上げられる室内が、当時のメーカーが考える”圧倒的な高級車”像だったのだ。
マイバッハ57の価格は当時5000万円程度だったけれど、2008年のリーマンショックによる主要市場の経済状況の悪化などを受けた。販売状況は期待を下まわったようで、モデルチェンジを受けないまま、2013年にマイバッハブランドは休止となった。

助手席側にもさまざまな機能を備えた「MBUXハイパースクリーン」がインストールされる(写真:メルセデス・ベンツ日本)
メルセデス・マイバッハとして再挑戦すべくスタートしたのは、2014年。そのときは、57や62と同じ轍は踏まず、Sクラスのロングホイールベース版としてつくられた。W222型という先代Sクラスにおいては、12気筒モデルはメルセデス・マイバッハのみ、という棲み分けもなされた。
今、日本で売られているメルセデス・マイバッハは8気筒モデルが中心。ホイールベースが通常のSクラスより延長されるとともに、内外装の仕上げがより豪華になっている。12気筒のメルセデス・マイバッハS680 4MATICもカタログに載ってはいるものの、日本では「在庫僅少」(日本法人)という話だ。
メルセデス・マイバッハEQS680 SUVとは

巨大で複雑な輪郭のガラスを使ったデザインは、プレミアムSUVならではといえるだろう(写真:メルセデス・ベンツ日本)
今回のメルセデス・マイバッハEQS680 4MATIC SUVでは、3210mmものロングホイールベースに全長5135mm、全高1725mmの車体を載せている。後席の広さを徹底的に追求しつつ、同時に後席リクライニング機構やシャンパーニュのボトルも入れられるクーラーボックスなど、これまで以上に快適さと贅沢さが追求されている。
メルセデス・マイバッハは、なにを競合とみているか。EQS680の価格は2790万円からとなっている。同様の高級SUVでは、ロールス・ロイスの「カリナン・シリーズⅡ」(なにもついていないベース価格が4645万円)もあるが、それではないだろう。EQS680の強みは、トルクがたっぷりある電気モーターによる走りで、カリナンはV型12気筒エンジンを搭載している。価格面でもEQS680には独自の商品性がある。

試乗車は後席が左右独立式になり、大きなセンターコンソールなどを備える「ファーストクラスパッケージ」を装着(写真:メルセデス・ベンツ日本)

後席の格納式テーブルもオプションで選べる(写真:メルセデス・ベンツ日本)
そのほか、多くの場合において比較されるのがBMW。BEVのSUVとしては「iX」シリーズ(全長4955mm、ホイールベース3000mm)がある。しかし、スポーティな「iX M60」は別として、上級モデルの「iX xDrive50」(システム最高出力385kW、最大トルク765Nm)でも、EQS680ほどコテコテのサービス精神はない。価格も1000万円ほど低いし、別ジャンルのモデルと考えるべきだろう。つまり、逆をかえせば、EQS680に匹敵するモデルはほぼ皆無だ。
EQS680の走りについて

フロントにはマイバッハのモノグラムが組み合わされたパネルが採用されるなど細部まで念入りの仕上げ(筆者撮影)
EQS680をドライブしての印象をひとことで言うなら、最新の電子制御技術の見本市のようだ。前後のモーターと、それを駆動する118kWhの大容量駆動用バッテリー。静止状態から時速100kmに達する時間がわずか4.4秒という加速力にも舌を巻く。
高速道路では静かで速く、かつ低負荷時は前輪の駆動システムが切り離されてバッテリー消費量を抑える。後輪操舵システムが備わるので、高速では仮想ホイールベースが伸びて走行安定性が向上。一方、ワインディングロードでは、操舵輪(前輪)の角度と逆位相に後輪が向くことで仮想ホイールベースは短くなり、転舵に対する車体の応答性がよりよくなる。

エアサスペンションやモーターのトルクコントロールによってワインディングロードでも高速道路でもレベルの高い走りが体験できる(写真:メルセデス・ベンツ日本)
同時に、4輪の駆動力を制御。モーターとブレーキによるトルク配分と制動で、コーナリングでも直進でも、安定性とスポーティ性を最適にコントロールする。エアマチックサスペンションも、乗員を揺さぶらず、車体の安定性に寄与。同時に、つねに快適な乗り心地を味わわせてくれる。
まるで小型のスポーツクーペを操縦している気にさせられるEQS680。重さも大きさも意識させないのは、上記のような技術を使い、緻密な制御と組み合わせているからだろう。2019年に日本発売された最初のEQモデル「EQC」は強力なトルクと、強力な回生ブレーキで、バッテリー駆動車という新しいジャンルをわかりやすく表現していたが、今のEQS680は徹頭徹尾スムーズ。

一充電走行距離は640km(WLTCモード)とされている(筆者撮影)
試乗したモデルは後席重視仕様で、専用センターコンソール、マルチコントロールシート機能、格納式テーブル、ウインドウシェイドなどを装備。大きくリクライニングするシートをはじめ、仕事よし休息よしの、新しい時代のリムジンとしてみると価値がある。