新興国株=ハイリスクはもう古い?暴落に強い“アジア好配当投信”がITや半導体株も安心して持てるワケ

ダイヤモンド・ザイNISA投信グランプリ2025の新興国株部門で最優秀賞に輝いた「アジア好配当投信」は、アジア地域の配当利回りが高い株に投資することで、安定していい成績を収めている。一般的に新興国株は株価の変動が大きい(ボラティリティが高い)とされるが、この投信は最大下落率が新興国株型平均の-25.6%に対し、-17.2%と小さい点が特に高く評価された。運用責任者の吉光直さんに、運用の特徴について詳しく聞いた。(須賀彩子、ダイヤモンド・ザイ編集部)

「高」ではなく「“好”配当」にこだわり

投資信託の名前に込めた意味とは?

――アジアの高配当株に投資しています。具体的にどのように銘柄を選んでいるのでしょうか?

吉光直(よしみつ・ただし)さん ●野村アセットマネジメント 運用部 グローバルアクティブグループ グローバル株式バリューチーム シニア・ポートフォリオマネージャー。1997年に野村證券投資信託委託(現:野村アセットマネジメント)に入社。アナリスト業務や日本株運用を経て、2008年以降シンガポール拠点、および東京本社にて一貫してアジア株式の調査・運用に従事。アジア好配当株投信の運用には2015年から携わる。25年以上の運用調査経験を有する。 Photo by Kuninobu Akutsu

吉光 アジア株の中でも、足元の配当利回り水準に加えて、中長期的な配当が期待できる銘柄に投資しています。ファンド名に「高」ではなく「好」という字を使っているのは、「好ましい配当利回りの銘柄」に投資するという意味が込められています。

 銘柄選定は、定量的なスクリーニングと定性的な評価を組み合わせて行います。アジア全体の株(MSCI ACアジア除く日本)の平均配当利回りは現在約2%ですが、これよりも配当利回りが高い銘柄に注目します。また流動性を確保しスムーズに取引できるよう、一定の時価総額を上回る企業を対象とします。

 そして、企業の質(定性評価)も考慮し、最終的に80~100銘柄程度に絞り込みます。配当利回りを基準に、割安株(バリュー株)に投資するスタイルです。

――80~100銘柄程度まで絞り込むプロセスについて、もう少し詳しく教えてください。

吉光 銘柄を絞り込む際には、配当の源泉となる利益が伸びていくか、業界内での競争力、そして株主還元姿勢などを重視します。具体的には、(1)市場でのシェアを伸ばせるか、(2)利益率を高めていけるか、(3)配当を増やしていけそうか、といった点に注目しています。

 当社はシンガポールなどアジアに複数の拠点を持ち、現地のファンドマネージャーやアナリストとも密接に連携して銘柄を選んでいます。私自身も2008年から2021年にかけてシンガポールで運用に携わっていた経験があり、現地の事情はよく理解しています。

――新興国の中でもアジア、そしてその中でも配当利回りが高い銘柄に投資するメリットは何でしょうか?

吉光 まず、アジアの高い経済成長の恩恵を受けられることです。次に、配当利回りを基準とすることで、株価が高すぎる銘柄が投資対象から外れるため、株式市場で人気化し過熱気味になっている銘柄を買うことはありません。反対に、過度に売られすぎている銘柄は配当利回りも高くなっており、安い価格で買える可能性が高まります。

 さらに、企業経営の健全性(ガバナンス)をチェックする機能も果たしています。新興国には、まだ経営体制が十分でない企業もあり、不正な関連会社取引や不正会計を行うなど、ガバナンス面で問題を起こす企業も存在します。配当をきちんと出すということは少数株主の権利も意識しているので、配当をチェックすることで、そのような企業を排除する一助になると考えています。

 これらの理由から、配当利回りが高い銘柄は株価が突然大きく下がるリスクが低いと言えます。その結果、市場平均(指数)よりも良い成績を出すことにつながっています。

アジア各国で異なる

「配当文化」と投資戦略

――国ごとの配当の多寡や傾向には、どのような特徴がありますか。

吉光 国によって傾向は異なります。中国企業は、国が大株主になっていることが多く、国への利益還元として配当を積極的に出す傾向にあります。台湾企業はITや半導体など成長分野にいながら配当も出し、収益を得やすい状況です。また、タイやインドネシアでは創業一族が大株主になっているファミリー企業が多く、そうした企業は配当を重視しています。シンガポールも銀行などを中心に株主還元を重視する企業が多いです。一方で、インドなどはまだ会社が成長ステージにある企業が多く、利益を事業投資に優先的に回すため、配当は二の次になる傾向があります。

Photo by Kuninobu Akutsu

――中国への投資比率が23%と国単位では最多です。中国経済についてはどのように見ていますか?

吉光 中長期的には、中国経済はまだ成長する余地があると考えています。一人当たりのGDPはまだ1万ドル台前半と低い水準で、地方を中心に成長余地があります。中国は過去に成長を最優先させる政策でしたが、ここ数年はそのスタンスを後退させ、構造改革とのバランスを重視しています。構造改革が成功すれば、主要国よりも高い成長率を、より長い将来にわたって維持することも可能になるでしょう。

――中国株とは、どのように向き合っているのでしょうか?

吉光 最近の中国株については、「下がった時に買い、上がった時に売る」というスタンスで臨んでいます。2024年の初めは中国株全体が大きく下がったため、投資するいいチャンスでした。現地企業や現地アナリストに話を聞き、企業業績に問題がなさそうな銘柄を選んで購入しました。配当利回りで見ても、非常に魅力的な水準になっていました。

成長企業でも「高配当」は可能

​IT・半導体株の意外な魅力

――高配当がテーマの投資信託ですが、組入上位には半導体やIT企業など、成長株(グロース株)に分類されそうな銘柄も含まれていますね。

吉光 はい。例えば、ネットイースは中国のゲームソフト開発会社です。一般的にゲーム会社は配当をあまり出さない傾向がありますが、この会社は株主還元に積極的で、配当を出すだけでなく自社株買いも行っています。また、今後の成長も期待できる企業です。

 もう一つ、メディアテックは、スマートフォンなどに使われるICチップをデザインしている会社です。自社で工場を持たないファブレスメーカーなので、大きな設備投資が不要で資金繰り(キャッシュフロー)が良好です。そのため、余剰資金を配当として出す傾向があります。

――台湾セミコンダクター(TSMC)は、配当利回りが2%未満ですが、2025年4月末時点で組入第3位となっています。この理由は何でしょうか?

吉光 台湾セミコンダクターは、投資した時点では配当利回りが市場平均を大きく超えていました。しかし、株価が上昇したため、2025年4月末時点の配当利回りは2%を若干下回っています。ただ、この会社は非常に高い競争力を持っており、今後も配当を増やすことが期待できるため、引き続き保有しています。

流行に流されず信念を貫く

割安株にこだわり続けるワケ

――2021年以降は4年連続でいい成績を残していますが、2020年は伸び悩みました。

吉光 2020年はコロナショックの影響で大規模な金融緩和がなされた局面で、中国のIT関連株などが大きく値上がりしました。一方で、割安株はあまり買われない相場でした。また、その前の2017年も中国のインターネット関連株が非常に人気となり、株価が高くてもどんどん買われる状況が続きました。私たちは株価が高すぎる株には投資しない方針なので、このような相場では市場平均(指数)に勝つことは難しくなります。

 しかし、株価が高騰しすぎた銘柄も、逆に売られすぎた銘柄も、時間が経てば本来の価値(フェアバリュー)に戻るものと考えています。流行に流されず、「中長期的に株価は企業の本源的な価値に収れんする」という信念を貫いていることが、長期的に良い成績につながっていると自負しています。長期的に見ると、アジア株は割安株が勝つ傾向にあると考えています。

◆新興国株部門 最優秀賞

「アジア好配当投信」とは

アジアの中から配当利回りが高い銘柄を選んで投資する投資信託。配当利回りを重視し、割安な銘柄に投資するため、市場全体が大きく値下がりする局面でも、下落幅を小さく抑えられる傾向がある。高配当株といえば銀行や建設・不動産関連をイメージしがちだが、この投信には台湾企業などを中心に、半導体やIT関連株も含まれているのが特徴。成績が安定しており、いつでも安心して持ちやすい。

ダイヤモンド・ザイ NISA投信グランプリとは

ダイヤモンド・ザイでは1年に1回、「NISAで買える本当にイイ投資信託」を部門別にランキングし、上位のファンドを表彰している。人気や知名度ではなく、データを最重視した完全実力主義のアワードだ。「1.どれだけ上がったか(上昇率)、2.どんな時も下がらない(下がりにくさ)、3.ずっと優等生(成績の安定度)」の3つの独自基準で評価を行う。また、非常に人気があり多くのお金を集めているにもかかわらず成績が振るわない投資信託も、「もっとがんばりま賞」として発表している。

<ダイヤモンド・ザイNISA投信グランプリ2025>

[2025年]受賞投資信託30本一覧

▼日本株総合部門

▼日本中小型株部門

▼米国株部門

▼世界株部門

▼新興国株部門

▼リート部門

▼フレッシャー賞

▼もっとがんばりま賞

▼(番外編)インデックス型「最安ランキング」

▼当グランプリの「選定基準」はこちら⇒https://diamond.jp/articles/-/363017