実はバブル高値より6割高い? “身の丈”日本株に投資先として再評価の兆し
実はバブル高値より6割高い? “身の丈”日本株に投資先として再評価の兆し
投資に疑問はつきものです。しかし、調べようとしてSNSやネットを見てみると、みんなの意見はバラバラで、かえって不安になってしまうこともあります。
そんななか、投資の不安に豊富なデータでこたえる1冊が登場しました。『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』。著者は、ニッセイ基礎研究所 主席研究員・チーフ株式ストラテジストの井出真吾氏です。
今回は、同書から、「S&P500とオルカン(全世界株式)、どっちを買えばいい?」「最近は日本株も上がっているけど、本当に投資していいの?」といった、投資家なら誰もが抱く疑問に対して、Q&A形式でわかりやすく解説していきます。(全2回の2回目)
●第1回:投資家を悩ませてきた「S&P500か全世界株式か」論争…決め手となる“投資判断”とは
※本稿は、井出真吾著『井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
バブルの清算を終えた日本株市場
Q. 日本株はやめておくべき?
Ans. バブル崩壊後の日本株は投資先として不適切だった。バブルの清算が済んだので、今後は投資に値する。
日経平均は2024年に史上最高値を更新し、一時4万円を超えました。それでも「日本株なんて買ってもムダだよ」といわれることがあります。バブル崩壊を経験した世代の方々に多いのですが、確かに、以前の日本株は投資対象として不適切でした。
しかし、少なくとも10年以上前にそのような状況は終わり、短期投資・長期投資どちらの対象としてもふさわしくなったと考えています。
私がこのように考える最大の理由は「日本株市場がバブルの清算を終えた」からです。
図3-12は拙著『株式投資 長期上昇の波に乗れ!』(日本経済新聞出版、2018年)で詳しく説明している「身の丈グラフ」です。
折れ線が日経平均株価、帯状のシャドウ部分は予想PER14~16倍に相当する日経平均の水準で、適正レンジとされています(もう少し高い水準を適正とする人もいます)。
1989年末のバブルのピーク時、日経平均は約4万円だったのに対して、適正水準は約1万円しかありませんでした。つまり、“身の丈”の4倍にも株価が水ぶくれしていたのです。まさにバブルでした。
その後、平成の二十数年間、株価下落局面が長く続きました。この間はバブルの清算を強いられていたのです。この時代に投資していた人が「日本株なんて買ってもムダ」と考えるのも無理はありません。株価が本格的に上昇するはずがなかったのですから。
しかしリーマンショック後の2012年頃、株価の水準が身の丈に合いました。バブルの清算を終え、日本株市場が〝普通の市場〟に戻った瞬間です。
ちょうど同じ時期、日本の企業体質もバブルの清算を概ね終えました。バブル当時、日本企業は「3つの過剰」を抱えているといわれました。設備の過剰、債務の過剰、人員の過剰です。
バブル崩壊後の二十数年間という長い年月をかけて、日本企業は設備・債務・人員の適正化を進めたのです(その過程では財務構造の過度な保守化、研究開発投資の不足、非正規雇用の増加など、負の側面を多く生んだことも事実です)。
日本株への投資、今後の見通しは?
Q. 日本株への投資、今後の見通しは?
Ans. 長期的には年率平均6~8%くらいのリターンが見込める。それでも米国株に少し見劣りする可能性がある。
前項で、2012年頃にバブルの清算を終え、日本株市場が“普通の市場”に戻ったこと、同時に日本の企業体質もバブルの清算を概ね終えたことをご説明しました。
その後、日銀の大規模金融緩和による円安などアベノミクス効果もあって、企業収益が改善(図3-12のシャドウ部分=日経平均の〝身の丈〟が上昇)、これと歩調を合わせるように日経平均も上昇しました。
バブル崩壊後は一時的に企業収益(身の丈)が上昇しても株価が下落する局面も少なくありませんでした。これはバブルの清算が済んでいなかったことが原因です。日本企業の“稼ぐチカラ”と比べて株価がまだ割高だったため、業績改善したにもかかわらず株価が下落したわけです。
ところが2012年以降は企業収益と株価がほぼ連動しています。株価の根幹ともいえる日本企業の業績が改善すれば株価も上昇し、業績が悪化すると株価も下落するという、ごく当たり前のことが繰り返されています。これこそが、日本株市場がバブルの清算を終えたと私が考える最大の根拠です。
2024年末の日経平均は3万9894円で、年末終値ベースでは実に35年ぶりに最高値を更新しました。バブル再来と心配する人もいるかもしれませんが、予想PERは16.1倍でほぼ身の丈に合っています。
つまり、株価の水準だけをみればバブル時の最高値(1989年末)の3万8915円とほぼ同じ水準ですが、中身がまったく違います。今回は実力に見合った4万円ということです。
バブル高値より実質6割以上高い日経平均
実力通りの4万円といっても株価水準はほぼ同じなので、「バブル時に買っていたらまったく儲かっていない」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。投信を保有していると分配金(個別株なら配当金)を受け取ることができます。
通常の日経平均は配当金を除外して(配当金はゼロとして)計算されています。配当金を考慮して算出しているのが「配当込み日経平均(日経平均トータルリターン・インデックス)」で、インデックスファンドなど投信の投資成果に近いのはこの「配当込み」です(手数料や税金などの影響で完全一致はしません)。
図3-13は「配当込み日経平均」と通常の日経平均株価の推移です。
2024年末の日経平均は1989年末のバブル高値と比べて2.5%しか上昇していませんが、配当込み日経平均は64.9%上昇しました。1989年末に買ったとしても資産が約1.6倍に増えたわけですが、株価はほぼ横ばいだったので、ほとんどが配当金とその再投資による増加です。
1.6倍に増えたといっても年率換算すると1.4%上昇と物足りないですが、これは前述のようにバブルの清算による株価下落局面が長かったことが影響しています。実際、2000年以降だと年率4.7%上昇、2012年以降では年率14.9%上昇となっています。
今後も2012年以降のように年率10%を超える投資成果を得られるかは不確実ですし、正直S&P500など米国株と比べたらリターンは少し低いと思いますが、日本株も投資対象として十分魅力があると思います。長期的には年率平均で6~8%くらいを見込んでよいと思います。
井出真吾の投資相談室 63のQ&Aでわかる安心運用
著者名 井出 真吾
発行元 日経BP 日本経済新聞出版
価格 1,760円(税込)
井出 真吾/ニッセイ基礎研究所 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト
1993年東京工業大学卒業、日本生命保険入社。1999年ニッセイ基礎研究所、2023年より現職。専門は株式市場、株式投資、マクロ経済。新聞・テレビ等メディアへの登場も多数。著書に「40代から始める 攻めと守りの資産形成」「本音の株式投資」「株式投資 長期上昇の波に乗れ!」(いずれも日本経済新聞出版)等。