トランプ関税によってウォール街のボーナスはどれだけ減るのか

Business Insider

  • ウォール街のボーナスは今年、減少に向かっているとする新たなレポートが発表された。
  • ジョンソン・アソシエイツの年末ボーナスに関する年次レポートは、ウォール街の動向を示す重要な先行指標とされている。
  • 同レポートの予測によれば、投資銀行部門のボーナスは前年比7.5%減、ヘッジファンドでは10%減となる可能性があるという。

いわゆる「トランプ・バンプ(押し上げ)」はもはや過去の話だ。

報酬に関するコンサルティングを手がけるジョンソン・アソシエイツ(Johnson Associates)が5月8日に発表したレポートによれば、トランプ関税が市場に影響を及ぼしていることから、企業の取締役会はM&Aや資金調達に対する慎重な姿勢を崩しておらず、ウォール街のボーナスは今年、大幅な減少が見込まれている。

その影響は、投資銀行が手がける業務から未公開株を扱う取引に至るまで、幅広い分野に及ぶとレポートは警告している。影響を免れる数少ない例外は、大口投資家に代わって売買を実行するトレーディング部門であり、そこでは株式・債券市場のボラティリティ(価格変動)の高まりを受けて、取引量が増加しているという。

レポートによれば、銀行や投資会社のボーナスは昨年の目がくらむような高水準と比べて、横ばいか、2.5%〜10%の減少となる可能性があるという。ニューヨーク州会計監査官が4月に発表した報告書では、2024年におけるニューヨーク市の証券業界の平均ボーナスは、前年比31.5%増の24万4700ドル(約3540万円)に達したと推計されていた。

ウォール街の年末ボーナスは、M&Aの先行き不透明感や投資家によるリスク回避の動きといった逆風にさらされているとジョンソン・アソシエイツは警告している。

今年の期待が打ち砕かれるようなこの状況について、ジョンソン・アソシエイツの創業者、アラン・ジョンソン(Alan Johnson)は、「誰もこうなるとは思っていなかった」とBusiness Insiderに語っている。

「人々の落胆は非常に大きなものになるだろう。というのも、今回の状況は『自分たち(=アメリカ)が招いたものだ』という認識が広がっているからだ。この不確実な状況が続くと、『これは終わるのか?』『それはいつ? どのように?』と企業や社員たちのストレスはますます高まっていくだろう」

ジョンソン・アソシエイツは、ウォール街における各金融部門について、2025年のボーナスがどう変動するかを予測している。

トランプが政権の座に就いた当初、ウォール街は景気の好転を織り込んでいた。だが実際には、彼の政策判断が世界の株式指数を混乱させ、投資家や取締役の信頼を蝕む結果となった。こうした影響で、多くのM&Aや資金調達が停滞している。

ジョンソン・アソシエイツは、今後の展開として3つのシナリオを提示している。

その中心にあるのは可能性が50%と見込まれている、「関税と通年にわたる貿易摩擦の不透明感が続くものの、経済成長は控えめながら維持される」というシナリオで、この場合、ウォール街のボーナスは5〜10%減少すると、ジョンソン・アソシエイツは推定している。

「広範な貿易戦争および景気後退が発生し、市場の大幅な下落や人員削減を招く」というさらに深刻な展開のシナリオは可能性30%と見込まれ、その場合、ウォール街のボーナスは15〜20%減少するとしている。

ジョンソン・アソシエイツのレポートを、以下に詳しく紹介する。

投資銀行部門:前年比5〜10%減

ジョンソン・アソシエイツのレポートは、投資銀行部門のボーナスが「広範囲で減少する」と予測している。

なかでも、M&Aを手がけるアドバイザリー部門では、前年比で5〜10%減少するとしている。M&Aブームが期待されていたにもかかわらず、「経済の不確実性」によって市場関係者の期待感が萎んでしまったことが背景にある。

そのほかの部門も厳しい状況になると見込まれている。株式引受業務部門ではIPO(新規株式公開)市場の停滞により、ボーナスが10〜20%の大幅減になるとしている。

ウォール街のさまざまな分野における2025年のインセンティブ報酬の見通し。

トレーディング部門: 5~25%増

銀行業でボーナス減を免れる部門としてジョンソン・アソシエイツが挙げたのは、株式および固定収入資産を扱うトレーディング部門だ。「トレーダーたちは確かに勝者だ。彼らは常にボラティリティの恩恵を受ける」と、アラン・ジョンソンはBusiness Insiderに語っている。

相場の変動を警戒した投資家が、資産の配分や保有銘柄を見直していることから、ここ数週間でトレーディング収益が急増していると、さまざまな投資銀行が直近の決算で報告している。

特に、株式トレーディング部門のボーナスは15〜25%もの増加が見込まれている。また、固定収入資産トレーディング部門では10〜20%、債務引受業務では5〜10%の増加が予想されている。

アセットマネージャー:2.5~10%減

財務アドバイザーのボーナスについては、2.5〜7.5%の減少にとどまると見込まれている。他の部門より減少幅が小さいのは、顧客が短期的な市場の変動に左右されにくく、長期的な視点で資産運用を行っているためだと、ジョンソン・アソシエイツは述べている。

一方で、ETFやインデックスファンドといった商品を通じて顧客の退職口座を運用しているアセットマネージャーには、より厳しい状況が予想されるという。株式から債券へと資産を移し、リスクを抑えようとする投資家が増えているからだ。この分野では5〜10%のボーナス減が見込まれている。

「シナリオ」ごとの変動。