米国債市場で債券自警団の動きが活発化、格下げきっかけに警鐘鳴らす

(ブルームバーグ): 財源のない減税を巡る議論が米議会で本格化する前から、米国債投資家は明確かつ声高にメッセージを発している。米政府が歳入を上回る支出を続けるなら、重大な結果を伴うことになるというメッセージだ。

  格付け会社ムーディーズ・レーティングスがついにしびれを切らし、米国の信用格付けを最上位の「Aaa(トリプルA相当)」から引き下げたが、これは案の定と言うべきだろう。ムーディーズは、政治が深刻な二極化に陥る中で、長年繰り返される債務増加と財政赤字のパターンに改善の兆しが見られないと指摘した。

  米国が赤字にどっぷり漬かっていることを踏まえれば、ムーディーズの決定に意外感はなく、S&Pグローバル・レーティングなど他社は既に米国の格付けを引き下げている。それでもムーディーズの格下げに投資家は反応し、19日の取引で米30年債利回りは5%を超えた。

  これは、金融市場関係者の間で以前からささやかれてきた懸念を裏付ける。つまり、米国が早急に財政を立て直さなければ、米国債に対するリスク認識が高まり、長期の借入コストは一段と上昇するだろうという懸念だ。そうなれば財政赤字の削減はいっそう困難になり、家計や企業など経済全体で資金調達コストが上がる。

  ムーディーズの格下げ発表後、JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「財政問題を先送りにすれば高くつく、という現実を突きつけられた格好だ」と述べた。

  米10年債利回りは今月だけで約0.3ポイント上昇。米長期債を保有するリスクを引き受ける見返りに投資家が要求するプレミアムは市場でますます織り込まれるようになってきたが、2年やそれ未満の短期債ですら、利回りは一時4%を上回った。

Investors Demand Extra Yield to Hold Longer-Term US Debt | Gauge of term premium trending higher from mid-2023

  「トランプ政権と共和党が財政赤字の問題に対処するのか、債券市場は懐疑的に見ている」と、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのチーフ投資ストラテジスト、マイケル・アローン氏は指摘。このため、一部の投資家が現在想定しているよりも「金利は高止まりし、変動も大きくなるだろう」との見方を示した。

  金融市場は財政規律を緩めた国に審判を下す役割を果たしてきた歴史があり、最近の利回り急騰は、いわゆる債券自警団が放漫財政に抗議して力を行使した過去の例と重なり始めている。理論的には、投資家が団結して借り入れコストを上昇させれば、最終的に政府は圧力に屈して支出削減に回帰せざるを得なくなる。

  今回は事態がはるかに深刻だ。米国は世界の金融市場でまだ優位を保つが、米国債とドルの世界的な需要にはますます陰りが見られるようになり、政府の借り入れの柔軟性は低下している。

  ムーディーズは「債務負担能力」の低下を挙げ、米国債利回りの上昇は財政の持続可能性を損ねる要因だと指摘した。

  現在の米国債利回りは4-5%で、2007年や金融危機の前に見られた水準に近く、米国は過去にこれよりはるかに高い金利を支払っていた時期もあった。だが、現在は債務と財政赤字が当時に比べ桁違いに大きく、それが決定的な違いを生んでいる。

  2007年以降に、米国の財政状況は驚くほど変化した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期間の大幅な発行もあり、米国債の残高は4兆5000億ドルから30兆ドルに膨らんだ。年間の発行額も膨張。米証券業金融市場協会(SIFMA)によると、07年は3620億ドルだったが、昨年は2兆6000億ドルに上った。

A US Treasury Market Heading for $30 Trillion | Outsize federal deficits force Treasury to sell more and more securities

  さらに危険なのは、債務残高の国内総生産(GDP)比が上昇していることだ。米議会予算局(CBO)によると、米国の公的債務は07年に対GDP比で約35%だったが、今や100%に達し、昨年は利払いだけで8800億ドルに上った。

Treasury Secretary Scott Bessent Testifies Before House Appropriations Subcommittee

  そのような中で、最新の予算案には十分な支出削減やそれを補う歳入の裏付けのない減税が盛り込まれ、GDP比6.5%に相当する数兆ドル規模の財政赤字が定着しそうな様相だ。この減税案は財政見通しを悪化させるため共和党内でも反対があるが、トランプ大統領が強く推進している。

  「現在議論されている予算案では、財政赤字を大きく削減することはないというのが自分の見解だ」と、ブラックロックのファンダメンタル債券グループのポートフォリオマネジャー、デービッド・ローガルは述べた。「財政赤字が現在の見通しにとどまれば、来年と再来年に2兆ドル近くの穴埋めが必要になる。これにどう対処するかが、極めて重要だ」と続けた。ローガル氏は有力な市場参加者で構成する米財務省借入諮問委員会(TBAC)のメンバーでもある。

  ベッセント財務長官も今月、米国の債務は持続可能な道筋にないと認めた。債券自警団の力を認識していることも示唆し、投資家が「反乱」を起こす転換点がどこなのか「見いだすのは極めて難しい」と語った。

原題:Bond Vigilantes Detect Trouble in US Debt Stripped of AAA Rating(抜粋)

--取材協力:Ye Xie.

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