「失神するくらい振れ」 強い女子ゴルファーを多数輩出、48勝・中嶋常幸が今も見せ続ける育成術

中嶋常幸が主宰する「ヒルズゴルフトミーアカデミー」【写真:編集部】

ヒルズゴルフトミーアカデミーの第7期生選抜テスト

男子ゴルフの中嶋常幸が主宰する「ヒルズゴルフトミーアカデミー」の第7期生選抜テストが17日、茨城・静ヒルズCCで開催された。合格率3.7%だった2024年度の日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)プロテストで、合格者26人のうち7人を輩出。今回は中学1年~大学2年の114人(男子48人、女子66人)が参加した。中嶋は「合格者は20人程度」と明かし、アカデミーのテーマである「海外で活躍できる選手」「強く優しい人間」に育てるポイントなどを語った。(取材・文=柳田通斉)

降りしきる雨の中、中嶋が参加者たちの打撃練習を見守った。テストの緊張感が漂う中、「今、コーチは誰なの?」と質問。参加者が「お父さんです」と答えると、笑みを浮かべて「それでいい。俺もプロになって23歳まで親父がコーチだったから」と返した。

「今の女子プロが華やかなのもあって、ポテンシャルのある子は昔に比べて増えましたね。前は100人いたら20~30人だったけど、今は70~80人。でも、面倒を見られるのは20人程度だから、選ぶのが大変です。今日の参加者はみんな基本ができていました」

テストのメディア公開は初。今回は打撃練習、パット、フィジカルチェックの3項目だった。松山英樹のトレーナーを務めてきた飯田光輝氏がフィジカルチェックの責任者となり、バランス、瞬発力、腹筋を測定。瞬発力のテストについてこう明かした。

「立ち幅跳びの距離を見ました。これは飛距離を出せるかの重要なポイントになりますので。ただ、今回の参加者については、大半が全国平均以上でした」「合宿での厳しいトレーニングに耐えられるかどうかも選考ポイントになります」

中嶋も「合宿のメニューに耐えられるのか、そこはとても大事です。打撃練習を見ていても、そうした情熱があるかどうかは端々でわかってくるものです」と言った。

振り返ると、同アカデミーは立ち上げから13年が経った。中嶋が静ヒルズCCのコース改造をサポートしていた縁で、同コースを運営する森ビルの森稔会長に「ここで海外に出て活躍できる選手を育てられたら」と話したところ、森氏が「やりましょう」と快諾。様々な支援を受けて準備が進み、2012年6月に高校生男女4人ずつ、中学生男女8人ずつが選抜された第1期生によって同アカデミーがスタートした。

「合宿に耐えられるのか」厳しいメニューも【写真:編集部】

「失神するぐらい振ってもらうよ」 厳しい指示の狙いとは

森氏はその3か月前に心不全のため、77歳で天国に旅立ったが、2人の熱い思いは1期生にも伝わった。その一人だった畑岡奈紗が高3で日本女子オープンを制し、世界で活躍するプロに成長した。

その後も女子では小滝水音、蛭田みな美、安田彩乃、政田夢乃。男子では河本力、杉原大河らがプロになってツアーで躍動。超難関で知られるJLPGAプロテストに関しては、24年度合格者のうち7人(平塚新夢、都玲華、入谷響、中村心、山口すず夏、前田羚菜、六車日那乃)が同アカデミー出身者となった。

この結果も受けての選抜テストをメディア初公開。中嶋は「アカデミー生で活躍するプロも多くなってきたし、(24年度は)7人が通って『トミーアカデミーを知りたい』という声が多くなってきたので」と意図を明かした。

中嶋がチェックした打撃練習では男女とも設定した距離のショットを打たせ、ドライバーショットではフルショットを指示。「とにかく振りなさい。トミーアカデミーでは6球で失神するぐらい振ってもらうよ」と大げさな例えもしながら、「しっかり振って」と呼びかけた。

その狙いは「特に男子は25歳を超えてから飛ばし屋になるのは無理だし、振れるうちに振っておかないと。振れる体をつくっていくことも大事だから」と説明した。

アカデミーでは年10回程度の合宿(2泊3日)を実施。1人につき年3、4回の参加になるが、特に合宿2日目は午前6時30分から午後9時15分でゴルフ、トレーニング漬けのメニューが組まれている。

「スイングにアドバイスをすることもあります。まずはどうすれば本当のドローを打てるかを教えます。分厚いドローが打ってこそ、フェードヒッターもその後に捕まったフェードが打てるようなる。蛭田も小滝も入谷も今の飛ぶフェードが打てるようになりました」

70歳・中嶋の今の情熱は「強くて優しい人間になって」【写真:編集部】

ツアー通算48勝、70歳…今の情熱は「強くて優しい人間になって」

プロゴルファーの中には、ジュニア時代に培った感覚をプロ転向後に失ってスランプに陥るケースも少なくない。その大半が「感覚だけでやってきたので、理論がわかっていなかった」と打ち明けるが、中嶋は「うちでは『こう振った方がいいよ』と伝えます。それをヒントとして出して、その理由も伝えます。もちろん、スイングのメカニックも伝えます」と言った。

ただ、中嶋の考えは「ゴルフが上手ければそれでいい」ではない。

「僕が思っているのは『ゴルフを通して強くて優しい人間になってほしい』ということです。仮に目標に届かなくても、『ゴルフをやっていて良かった』という場面には必ず巡り合います。ゴルフを通して豊かな人間になってほしいということです」

卒業生でルーキーの中村心、入谷響は既にツアーで優勝争いを演じ、ことあるごとに連絡をくれるという。「いい子たちですよ。あとは最終日のバックナインまで、次のバーディーを狙い続ける攻めの姿勢を持てれば、優勝できるでしょう」。2人とも中嶋が理想とする「強くて優しい」タイプ。ツアー通算48勝、世界でも名をはせた70歳の情熱は今、そうしたゴルファーを育てることにある。

<トミーアカデミー出身のプロ>

【女子】

畑岡奈紗(1~3期) 米国女子ツアー6勝、国内女子ツアー5勝

小滝水音(1~3期) 国内女子ツアー1勝、ステップ・アップ・ツアー1勝

蛭田みな美(2~3期) 国内女子ツアー1勝、ステップ・アップ・ツアー1勝

安田彩乃(1~2期) ステップ・アップ・ツアー1勝

竹山佳林(1期)

立浦葉由乃(1期)

山路晶(1~3期)

工藤優海(2~3期)

政田夢乃(3~4期)

鶴瀬華月(4期)

上久保実咲(6期)

平塚新夢(1期) ステップ・アップ・ツアー1勝

都玲華(6期) ステップ・アップ・ツアー1勝

入谷響(4~6期)

中村心(6期)

山口すず夏(3~4期)

前田羚菜(6期)

六車日那乃(4~5期)

【男子】

吉田歩生(1~3期)

河本力(3~4期) 国内ツアー2勝

杉原大河(3期)

田中章太郎(3~4期)

山路幹(3期)

THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida