【家計への影響は?】ガソリンの暫定税率廃止により年間で全国平均1.3万円程度の減税効果が見込める試算に

暫定税率廃止は▲1.0~▲1.5兆円以上の減税効果, 車保有世帯当たり平均▲1.3万円の負担減, 減税規模ほど悪化しない財政収支, 今年度の税収は見通し通りの経済成長で+2.7兆円程度上振れの可能性

【家計への影響は?】ガソリンの暫定税率廃止により年間で全国平均1.3万円程度の減税効果が見込める試算に

要旨

与党(自民・公明)と野党4党(立憲民主、国民民主、維新、共産)が共同でガソリンの暫定税率(1リットルあたり約25.1円)の年内廃止で合意。国・地方分を合計して 軽油を除くと▲1.0兆円、軽油が含まれれば▲1.5兆円以上の減税効果があることになる。家計は暫定税率廃止によって2025年度当初予算を基にすれば▲0.6兆円強の減税となる一方、企業は軽油も廃止となれば▲0.9兆円程度、軽油が廃止されなければ▲0.4兆円以上の減税規模となる。

2024年における地域別のガソリン消費額や世帯数、自動車保有比率等を用いて一世帯当たりの負担減額を試算すると、年間減税額は全国平均で▲1.3万円程度となる。特に、地域別では四国、東北、沖縄、北陸といったガソリンの支出が高い地域では減税額が大きく、ガソリンの支出額が低い関東、近畿の大都市圏では減税額が小さい。

暫定税率廃止がマクロ経済に及ぼす影響を内閣府の最新マクロ経済モデルの乗数を元に試算すると、軽油を除いた場合は1年目には名目GDPを+0.3兆円程度押し上げる効果を持つ。更に2年目には乗数効果が拡大することにより同+0.5兆円、そして3年目には同+0.6兆円程度押し上げられることになる。軽油を含めれば、名目GDP押上効果は1年目+0.5兆円、2年目、3年目は各+0.9兆円と、軽油抜きに比べて約1.6倍程度押し上げ効果が拡大することになる。

一方、財政赤字拡大効果は、軽油を除けば、1年目約▲1.0兆円の財政赤字拡大要因となるが、2・3年目は▲0.9兆円弱の赤字拡大にとどまる。そして軽油を含めれば、地方税収が約▲0.5兆円追加で減ることから、1年目約▲1.4兆円の財政赤字拡大要因となるが、2~3年目は▲1.3兆円程度の赤字拡大にとどまることになる。

ガソリンの暫定税率が東日本大震災の復興財源の確保に支障をきたすために一般財源化されて恒久化されてきたことを勘案すれば、軽油も含めたガソリンの暫定税率廃止を実現させるには、財源を含めた議論が不可欠。そして、政府は地方税収を人質に暫定税率廃止をガソリンに限定するのではなく、他の歳出入策とのセットで効果等を含めて議論すべきであり、例えば毎年度の税収上振れ分や予算の未執行分を一部使って暫定税率廃止の恒久財源とすることも検討に値する。

はじめに

与党(自民・公明)と野党4党(立憲民主、国民民主、維新、共産)が7月30日に共同で、ガソリンの暫定税率(1リットルあたり約25.1円)の年内廃止で合意し、8月1日召集の臨時国会において法案審議の準備を整える方針が明記された

そもそも、ガソリン税の暫定税率は1974年のオイルショックを契機に導入された。現在では租税特別措置により名目上は「暫定」ではないが、国民の間では「暫定税率」の名称で広く認知されている。現行のガソリン税は、本則税率28.7円/Lに暫定税率が25.1円/L上乗せされ、合計で53.8円/Lとなっている。

ガソリン税の暫定税率廃止が審議される背景には、物価高騰による生活圧迫がある。というのも、ロシアのウクライナ振興を契機とした世界的な原油価格の変動や円安の影響により、ガソリン価格は2022年以降、長期的に高止まりしている。そして、これに対して政府は「燃料補助金(激変緩和措置)」で抑制を続けているが、補助金には限界があり、抜本的な負担軽減策として「税そのものを下げるべき」という声が強まっていることがある。特に地方では車が生活の必需品であり、ガソリン価格の上昇は実質的な「地方税増税」に近い影響を与えていることも無視できない。

ただ、この暫定税率が廃止されれば、消費者負担の軽減と企業コストの低下が予想される一方で、財政への影響も無視できないだろう。そこで本稿では、ガソリンの暫定税率廃止がマクロ経済に及ぼす影響を定量的に考察する。

暫定税率廃止は▲1.0~▲1.5兆円以上の減税効果

仮に暫定税率が廃止されれば、様々な税目を通じて税収に影響を及ぼす。資料1は、2025年度当初予算をもとに、暫定税率が年間を通じて発動された場合の影響を示したものである。

まず暫定税率の廃止は、ガソリンに課せられる揮発油税と地方揮発油税をそれぞれ 24.3 円/ℓ 、0.8 円/ℓ 引き下げる。そして、トータル 25.1 円/ℓ のカソリン値下げを通じて、国税を約▲1.0兆円、地方税を▲0.03兆円程度それぞれ減らすことになる。また、対象に軽油が含まれれば、軽油引取税の17.1 円/ℓ引き下げを通じて地方税を▲0.5 兆円程度抑えることになる。

以上より、ガソリンの暫定税率が廃止されると、2025年度予算を基にすれば、国・地方分を合計して 軽油を除くと▲1.0兆円、軽油が含まれれば▲1.5兆円以上の減税効果があることになる。

暫定税率廃止は▲1.0~▲1.5兆円以上の減税効果, 車保有世帯当たり平均▲1.3万円の負担減, 減税規模ほど悪化しない財政収支, 今年度の税収は見通し通りの経済成長で+2.7兆円程度上振れの可能性

車保有世帯当たり平均▲1.3万円の負担減

続いて、ガソリン暫定税率廃止の影響のうち、各部門別の収支に及ぼす影響について検証する。暫定税率廃止に伴う政府の税収減は、家計や企業の税負担を軽減することにより、公的部門から民間部門への所得移転を意味する。そこで、先に試算した各税目の影響額とガソリンや軽油の部門別需要比率等を用いて企業と家計の減税規模を推計すると、家計は暫定税率廃止によって2025年度当初予算を基にすれば▲0.6兆円強の減税となる一方、企業は軽油も廃止となれば▲0.9兆円程度、軽油が廃止されなければ▲0.4兆円以上の減税規模となる(資料2)。

暫定税率廃止は▲1.0~▲1.5兆円以上の減税効果, 車保有世帯当たり平均▲1.3万円の負担減, 減税規模ほど悪化しない財政収支, 今年度の税収は見通し通りの経済成長で+2.7兆円程度上振れの可能性

そこで、この結果をもとに2024年における地域別のガソリン消費額や世帯数、自動車保有比率等を用いて一世帯当たりの負担軽減額を試算すると、年間減税額は全国平均で▲1.3万円程度となることがわかる。特に、地域別では四国、東北、沖縄、北陸といったガソリンの支出が高い地域では減税額が大きく、ガソリンの支出額が低い関東、近畿の大都市圏では減税額が小さいといった特徴がみられる(資料3)。このように、地域の違いによって一世帯当たりの負担減少額が 年間0.5万円程度も変わってくることになる。

暫定税率廃止は▲1.0~▲1.5兆円以上の減税効果, 車保有世帯当たり平均▲1.3万円の負担減, 減税規模ほど悪化しない財政収支, 今年度の税収は見通し通りの経済成長で+2.7兆円程度上振れの可能性

減税規模ほど悪化しない財政収支

続いて、これまでの結果をもとに、暫定税率廃止がマクロ経済に及ぼす影響を試算した。具体的には、内閣府の最新マクロ経済モデルの乗数を元に、暫定税率廃止が名目GDPに与える影響について先行き3年間の影響を試算した(資料4)。

結果をみると、軽油を除いた場合は1年目には実質GDPを+0.3兆円程度押し上げる効果を持つ。更に2年目には乗数効果が拡大することにより名目GDPが+0.5兆円、そして3年目には同+0.6兆円程度押し上げられることになる。

一方、軽油を含めれば、名目GDP押上効果は1年目+0.5兆円、2年目、3年目は各+0.9兆円と、軽油抜きに比べて約1.6倍程度押し上げ効果が拡大することになる。

暫定税率廃止は▲1.0~▲1.5兆円以上の減税効果, 車保有世帯当たり平均▲1.3万円の負担減, 減税規模ほど悪化しない財政収支, 今年度の税収は見通し通りの経済成長で+2.7兆円程度上振れの可能性

ただ、暫定税率廃止の影響は、財政収支の動向と切り離して評価することはできない。そこで続いては、同様に内閣府の最新マクロ経済モデルの乗数を元に、暫定税率廃止が財政収支に与える影響について先行き3年間の影響を試算した(資料5)。

得られた結果によれば、暫定税率廃止に伴う財政赤字拡大効果は、軽油を除けば、1年目約▲1.0兆円の財政赤字拡大要因となるが、2・3年目は▲0.9兆円弱の財政赤字拡大要因にとどまることになる。そして軽油を含めれば地方税収が約▲0.5兆円追加で減ることから、1年目約▲1.4兆円の財政赤字拡大要因となるが、2~3年目は▲1.3兆円程度の財政赤字拡大要因にとどまることになる。

以上より、少なくとも内閣府の最新マクロモデルの乗数に基づけば、暫定税率廃止は、発動時には財政赤字の拡大要因となるが、民間部門からの自然増収の効果で直接的な税収減少額(除く軽油年1円、含む軽油年1.5兆円)ほどは財政赤字を悪化させないことになる。

暫定税率廃止は▲1.0~▲1.5兆円以上の減税効果, 車保有世帯当たり平均▲1.3万円の負担減, 減税規模ほど悪化しない財政収支, 今年度の税収は見通し通りの経済成長で+2.7兆円程度上振れの可能性

求められる他の歳出入も含めた視点

以上見てきたとおり、ガソリンの暫定税率廃止は軽油を除くか否かで、その効果に大きな違いが出ている可能性がある。特に、軽油需要の9割以上が企業の運輸関連業界に集中していることなども勘案すれば、幅広く物流コストの抑制を通じた間接的な家計負担軽減も意図して、暫定税率廃止に軽油も含めることは検討に値しよう。

というのも、近年は税収の上振れが続いている。実際、当初予算との対比でみれば、2021~2024年度にかけて4年連続で上振れており、平均上振れ額は+5.9兆円にも上る。また、補正後予算との対比では2021~2024年度にかけて4年連続で上振れしており、平均上振れ額は+2.5兆円となっている(資料6)。

暫定税率廃止は▲1.0~▲1.5兆円以上の減税効果, 車保有世帯当たり平均▲1.3万円の負担減, 減税規模ほど悪化しない財政収支, 今年度の税収は見通し通りの経済成長で+2.7兆円程度上振れの可能性

中でも、2024年度は大規模な定額減税が実施されたにもかかわらず、税収が上振れしている。具体的に同年度の税収を見ると、当初予算時点で69.6兆円だったのが、補正後予算で73.4兆円に上方修正されている。そして決算時点に至っては75.2兆円にまで上振れしている。

特に注目すべきは、2024年度の名目GDP成長率は+3.7%となっているが、大規模定額減税があったにもかかわらず税収は+4.4%も増加していることである。つまり、名目GDPが1%変化したときに税収が何%変化するかを示す税収弾性値は定額減税があったにもかかわらず24年度は1.2となり、これまで一般的に税収弾性値は1.1~1.2とされてきたことからすると、少なくとも近年の税収弾性値は政策当局の想定よりも高いことになる(資料7)。

暫定税率廃止は▲1.0~▲1.5兆円以上の減税効果, 車保有世帯当たり平均▲1.3万円の負担減, 減税規模ほど悪化しない財政収支, 今年度の税収は見通し通りの経済成長で+2.7兆円程度上振れの可能性

この背景としては、物価や株価が上昇していることや、所得税が累進課税になっていることに加え、繰越欠損金や欠損法人割合の変化等が指摘できる。実際に、過去の欠損法人割合は名目GDP成長率と非常に連動性が高くなっている(資料8)。そして、過去には50%を切る時期もあった欠損法人割合が、直近2023年度時点でも依然として61.0%の水準にあることからすれば、当面は欠損法人割合の変化によって税収弾性値が高水準を維持することが予想される。

暫定税率廃止は▲1.0~▲1.5兆円以上の減税効果, 車保有世帯当たり平均▲1.3万円の負担減, 減税規模ほど悪化しない財政収支, 今年度の税収は見通し通りの経済成長で+2.7兆円程度上振れの可能性

今年度の税収は見通し通りの経済成長で+2.7兆円程度上振れの可能性

そこで以下では、デフレに突入して欠損法人割合の水準が高まった98年度以降の平均的な税収弾性値を計算してみた。すると、過去の関係に基づけば、98~2024年度の平均的な税収弾性値は約2.13となる。つまり、欠損法人割合がまだ低下する余地がある局面では、名目GDPが1%増加すると、政府が想定するよりも1.8(=2.13/1.2)倍程度の税収の伸びが平均的に期待できることを示している。

暫定税率廃止は▲1.0~▲1.5兆円以上の減税効果, 車保有世帯当たり平均▲1.3万円の負担減, 減税規模ほど悪化しない財政収支, 今年度の税収は見通し通りの経済成長で+2.7兆円程度上振れの可能性

一方、トランプ関税の影響を受けて今月改定された政府の経済見通しに基づけば、25年度の名目GDP成長率は+3.3%となっている。つまり、仮に25年度の名目成長率が政府の見通し通りとなり、税収弾性値を98年度以降の平均となる2.13程度になるとすれば、今年度の税収は、昨年度の75.2兆円から+3.3%×2.13=+7.0%程度増加する計算となる。

つまり、この結果を用いて今年度の税収を計算すると、75.2兆円×1.07=80.5兆円となる。そして、これを今月内閣府が公表した中長期の経済財政に関する試算における税収見通しと比較すれば、25年度の税収見通し77.8兆円を+2.7兆円程度上回ることになる。

従って、今後の税収を見通すうえでは、少なくとも欠損法人割合にまだ低下余地がある局面では過少推計になる可能性があり、欠損法人割合の低下などに伴う税収弾性値の上振れも考慮に入れるべきと考えられる。

いずれにしても、ガソリンの暫定税率が東日本大震災の復興財源の確保に支障をきたすために一般財源化されて恒久化されてきたことを勘案すれば、軽油も含めたガソリンの暫定税率廃止を実現させるには、財源を含めた議論が不可欠と言える。そして、政府は地方税収を人質に暫定税率廃止をガソリンに限定するのではなく、他の歳出入策とのセットで効果等を含めて議論すべきであり、例えば毎年度の税収上振れ分や予算の未執行分を一部使って暫定税率廃止の恒久財源とすることも検討に値するといえよう。

永濱 利廣/第一生命経済研究所首席エコノミスト

早稲田大学理工学部工業経営学科卒、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年より日本経済研究センター出向。2000年より第一生命経済研究所経済調査部、16年4月より現職。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。景気循環学会常務理事、衆議院調査局内閣調査室客員調査員、跡見学園女子大学非常勤講師などを務める。景気循環学会中原奨励賞受賞。「30年ぶり賃上げでも増えなかったロスジェネ賃金~今年の賃上げ効果は中小企業よりロスジェネへの波及が重要~」など、就職氷河期に関する発信を多数行う。著書に『「エブリシング・バブル」リスクの深層 日本経済復活のシナリオ』(共著・講談社現代新書)、『経済危機はいつまで続くか――コロナ・ショックに揺れる世界と日本』(平凡社新書)、『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)など多数。