セ5球団が苦悩する〝4番壊滅症候群〟 虎の主砲・佐藤輝の好調維持の鍵は5番大山が握る 鬼筆のトラ漫遊記

中日戦で右翼フェンス直撃の適時二塁打を放つ阪神・佐藤輝明。ここまで本塁打、打点ともに両リーグ最多を誇る=11日、甲子園球場(中井誠撮影)

各チームが〝4番壊滅症候群〟ともいえる苦境にあえいでいるセ・リーグで唯一、虎の4番・佐藤輝明内野手(26)は元気溌剌(はつらつ)にプレーし、阪神の首位快走の立役者となっています。今後の重要ポイントは、背後の5番を打つ大山悠輔内野手(30)のバットでしょう。12日現在、3割3分3厘を誇る得点圏打率が低下すれば、相手バッテリーによる佐藤輝へのマークは厳しさを増し、現在の好循環が断ち切られる心配があります。巨人・岡本、ヤクルト・村上、広島・モンテロ、DeNA・オースティン、中日・細川と、各チームの4番が次々に故障離脱や打撃不振に陥っている現象が今後、虎にも及ばないことを祈ります。サトテルが現在の好調を維持すれば、阪神は独走しそうな気配ですよ。

岡田氏の監督復帰を主導

〝4番壊滅症候群〟…という本題に入る前に、またしても伝わってきた訃報について書きたいと思います。今年は2月3日に元阪神監督の吉田義男さんが91歳でお亡くなりになられました。続いて「精密機械」と呼ばれた通算320勝の大投手、小山正明さんも4月18日に90歳で鬼籍に入られ、今度は阪急阪神ホールディングス(HD)の元会長、角和夫さんが4月26日、兵庫県宝塚市の自宅で死去したことが明らかになりました。76歳でした。

吉田さんや小山さんとは違い、角さんはタイガースの野球史にプレーヤーとして名前を刻まれた方ではありませんが、2022年オフに早大の先輩後輩として以前から親交のあった岡田彰布氏を監督に復帰させたキングメーカーでした。

角さんは03年に阪急電鉄(現阪急阪神HD)の社長に就任。村上ファンドによる株式大量取得問題に揺れた阪神電鉄との経営統合を決断し、06年には阪急阪神HDの社長に就きました。その後は「阪神タイガースは阪神のもの」というスタンスを貫いていましたが、経営統合から16年が過ぎてもリーグ優勝がなく、チームの管理運営方法に疑問を抱いたことから、22年のシーズン終了後に「2年間だけ、私に任せてほしい」と阪神首脳が描いていた平田勝男2軍監督の昇格プランを退けて、岡田氏の15年ぶりの阪神監督復帰を主導しました。すると就任初年度の23年、18年ぶりのリーグ優勝と38年ぶり2度目の日本一という成功を収め「結果として私が岡田さんに頼んだのは大成功でした」と角さんは語っていました。

阪神-巨人戦で甲子園球場を訪れた阪急阪神HDの角和夫社長=2007年7月17日、甲子園球場

「タイガースは阪神のもの」

阪急阪神の経営統合の直後、角さんを阪急電鉄本社で取材したことがあります。産経新聞経済部の取材に同行して、1点だけ質問しました。「今後のタイガースに対するスタンスはどうなるのか? 例えば監督問題など人事にも影響力を行使するのですか?」と。

すると角さんは「阪神タイガースは阪神のものです。タイガースのことは阪神がお決めになります」と言い切りました。それでも新型コロナウイルス禍における阪神球団の対応や、経営統合後、16年も優勝がなかったことでしびれを切らしたのでしょう。矢野燿大(あきひろ)監督が春季キャンプの前夜に「今季限りでの退任」を表明した22年は、シーズン中から岡田氏の監督復帰に向けた根回しを行っていました。

阪急と阪神の間で監督人事をめぐって微妙な空気が流れ、阪神球団はマスコミに対して「監督問題を書いたら半永久的に出入り禁止」を通達してきました。しかし、取材の成果としてトップニュースである阪神の新監督が分かれば記事にするのは当たり前です。

なので、22年9月27日付の産経新聞朝刊(大阪本社発行)1面に「阪神次期監督に岡田氏」と書きました。そこから1カ月半の出入り禁止。ニュースを抜いた喜びと出禁になった憤りが合わさって、今でも当時のことが懐かしく感じます。角さんは岡田氏の監督招聘(しょうへい)によって、タイガースに緊張感や危機感を与えた辣腕(らつわん)の経営者でした。

一塁守備の際に右わき腹を押さえるヤクルト・村上宗隆。翌日、出場選手登録を抹消された=4月17日、神宮球場(根本成撮影)

村上に岡本も

少々、ディープな話になりましたが、本題に入ります。阪神は35試合消化時点で20勝14敗1分けの貯金6で首位を快走しています。チームを牽引(けんいん)しているのは4番・佐藤輝です。打率2割7分8厘、11本塁打、33打点。得点圏打率は3割8分5厘で、本塁打&打点は両リーグ最多です。

「母の日」だった11日の中日戦(甲子園球場)でも、一回2死一塁で右翼フェンス直撃のタイムリー二塁打を放ち、「初回からいいバッティングができてよかったです。母の日なんでね。母のためにという思いを込めて打ちました」と二塁ベース上では両手をハートマークに。これが決勝点となって阪神は快勝です。

セ・リーグ全体に目を移せば、これほど4番が受難なシーズンもないでしょう。6日の巨人-阪神戦(東京ドーム)では、巨人の4番・岡本が一回の守備の際、一塁ベース上で打者走者の中野と交錯。「左肘の靱帯(じんたい)損傷」で全治3カ月と診断されました。ヤクルトの4番・村上も上半身のコンディション不良で開幕から出遅れ、4月17日の阪神戦(神宮)で4番・右翼でようやく復帰しましたが、九回の第5打席でスイングした際に再び上半身を痛めて交代。翌18日に1軍登録を抹消されました。

打者走者の阪神・中野拓夢(右)と交錯する巨人・岡本和真=6日、東京ドーム(水島啓輔撮影)

リーグを代表するスラッガーの岡本&村上が長期離脱したばかりか、中日の細川も5日のDeNA戦(バンテリンドームナゴヤ)の走塁中に右太もも裏を痛め、出場選手登録を外れました。DeNAのオースティンは下半身のコンディション不良で4月6日に戦線離脱。今月5日の中日戦(バンテリンドームナゴヤ)で復帰しましたが、今季はここまで打率2割2分、本塁打ゼロと本調子ではありません。開幕4番を務めた広島のモンテロも3月30日の阪神戦(マツダ)で左脇腹を痛めて、やっと13日の巨人戦(マツダ)から復帰予定。これほど各チームの4番に異変が起きるシーズンはないでしょう。

勝負強さ健在

なにやら阪神が独走気配のペナントレース序盤ですが、他球団との大きな差はズバリ4番の存在感。4月15日のヤクルト戦(松山)から森下に代わって4番に座った佐藤輝のバットが快音を響かせています。4番の違いが今後のペナントレースでも際立つならば、阪神の貯金は増え続けるでしょう。

ただし、相手球団も佐藤輝に打たれ続けるわけにはいかないので、対策を練るでしょう。もっと厳しいボールが来るはずです。場合によっては勝負を避けられるかも…。自然とポイントになるのは背後を打つ大山のバットになります。

現在の成績は打率2割4分2厘、1本塁打、14打点です。大山の本来の力を考えると物足りないですが、得点圏打率は3割3分3厘とチャンスでは打っているのです。大山の打撃の調子がもっと上向けば、佐藤輝や3番・森下との相乗効果は恐ろしいことになりますが、一方で大山がチャンスでも打てなくなると…。リーグを覆う〝4番壊滅症候群〟に虎がのみ込まれるのか、それとも無関係でいられるのか。大山が大きな鍵を握っているといえます。

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て特別客員記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。