コーチ経験ゼロの新人指揮官4人目の優勝へ 阪神OBも絶賛する藤川球児監督の手腕と武運

抑えの岩崎優(右)をねぎらう阪神・藤川球児監督。コーチ経験のなさを懸念されながら、見事な手腕でチームを首位快走に導いた=5月17日、甲子園球場(水島啓輔撮影)

異例ずくめの独走劇で藤川球児監督(45)率いる阪神がセ・リーグの頂点に立つ。リーグの貯金を独り占めにし、2位の巨人に16ゲーム差をつけて優勝マジックは4。6月の交流戦で7連敗を喫したが、リーグ戦再開後には11連勝を飾り独走態勢を築くと、その後も順調に勝ち星を積み上げ、最短で6日にもVゴールに飛び込む。

就任会見で抱負を語る阪神の藤川球児監督=2024年10月15日、大阪市内(甘利慈撮影)

落合、栗山、工藤の3氏のみ

藤川監督はコーチ経験なしの新人監督として、1950年の2リーグ分立以降で4人目となるリーグ制覇を成し遂げる。過去にコーチ経験なしで優勝した新人監督は2004年の中日・落合博満監督、12年の日本ハム・栗山英樹監督、15年のソフトバンク・工藤公康監督の3人しかいない。

阪神は今季、球団創設90周年を迎えたが、新人監督がチームを優勝に導くのは初めて。球界でも2リーグ分立後、新人監督の優勝は20人目。過去には大毎・西本幸雄監督(1960年)や巨人・川上哲治監督(61年)、広島・古葉竹識監督(75年)、西武・森祇晶監督(86年)ら名将の名をほしいままにした指揮官の名前がズラリと並ぶ。

コンディション管理を重視

昨年10月15日に行われた監督就任会見。藤川監督は「(就任要請を受諾した)自分の決断には自信を持っている。大丈夫だと思っている。(1年目から)勝ちに行く」と言い切り、「普通にやればいい。岡田監督が築いた素晴らしい流れがある。(チームの強みは)3点取ったらゲームをきっちり終わらせてくれる安定の野球」と自信満々だった。

だが、周囲の受け止め方は懐疑的だった。2年前にチームを18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶり2度目の日本一に導いた岡田彰布前監督との比較論もあり、指導経験のなさを危惧する声は少なからずあった。それが蓋を開けてみると、見事な戦いぶりで圧勝。さえわたる〝球児流〟について、球界関係者や阪神OBの声を拾うと…。

39試合連続無失点のセ・リーグ記録を達成した石井大智(左)とフォトセッションに臨む阪神・藤川球児監督=8月13日、マツダスタジアム(中井誠撮影)

「開幕戦は3番・佐藤輝、4番・森下で臨んだが、1~3番に左打者が並ぶデメリットを感じると、開幕14試合目の4月15日のヤクルト戦(松山)から2人の打順をスパっと入れ替えた。考え方が臨機応変で柔軟だ」

「リリーフとして活躍しただけあって、継投策がうまい。投手の球質や相手打者との相性、ゲームの流れを感じ取って投入する投手の順番を変え、回またぎも躊躇(ちゅうちょ)しない」

「自身が現役生活の中で故障に苦しんだ時期もあったからか、選手のコンディション管理をすごく重視している。佐藤輝や近本ら主軸も体調面を考慮してスタメンから外すこともある。今までの監督では見られなかった起用法だ」

V2、V3を視野に

まさに絶賛の嵐。勝負事は結果がすべてであることを改めて痛感させてくれるが、そうした声の中で「勝負運」を強調する関係者もいた。

「球児は勝負運を持っている。巨人の岡本やヤクルトの村上、DeNAのオースティンら敵の主軸が故障して長期離脱した。阪神も強かったが、相手も弱すぎた。これは球児の持っている武運。阪神がいくら強くても、相手がもっと強ければペナントレースは勝てない。過去に好成績を残しても優勝できなかった阪神の監督を何人も見ている。武運だけはどうにかなるものではない」

中日戦で2ランを放ち、森下翔太(左)とエルボータッチする阪神・佐藤輝明。主軸の2人はシーズンを通して活躍した=2日、バンテリンドームナゴヤ(中井誠撮影)

つまり、藤川監督は勝負の世界で最も大事な「武運」を持っているという。手腕もあり武運もある。藤川阪神はこの先、2連覇、3連覇を視野に入れて突き進むはずだ。

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て客員特別記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。