F1分析|角田裕毅にとって”逆風だらけ”だったオランダGP。その中での9位入賞は評価すべき結果
F1第15戦オランダGPで、レッドブルの角田裕毅は9位入賞を果たした。第7戦エミリア・ロマーニャGP以来8戦ぶりの入賞であり、なんとか目に見える結果を残せたことで、とりあえずホッとしたという部分もあろう。
しかし角田にとっては、数多くの不運、そしてライバルの戦略に翻弄され、上位進出を逃した一戦だったと言えよう。
角田はソフトタイヤを履いて12番手から72周の決勝レースをスタート。チームメイトのマックス・フェルスタッペンも同様にソフトタイヤを選んだが、これは少数派。スタートにソフトタイヤを選んだのは、全20台中わずか4台のみだった。
ただこの選択は、決して的外れなものではなかった。ソフトタイヤの高いグリップを活かし、ミディアムタイヤを履くライバルをスタートで出し抜く……オーバーテイクが難しいとされるザントフールト・サーキットでなら、スタートは順位を上げる最大のチャンス。ある意味当然の選択だったとも言える。
そして実際、フェルスタッペンはマクラーレンのランド・ノリスを抜き、角田もひとつポジションを上げた。この選択はある意味一定の効果を発揮した。
ただレッドブル陣営にとっては、ひとつ誤算もあった。当初は、レース開始早々に雨が降るという予報もあった。実際、雨雲がサーキットに近づき、パラパラと雨粒も落ちた。
ミディアム勢が優勢になる前に雨が強まり、インターミディエイトタイヤが必要になったら、早々にピットに飛び込める……陣営としてはそう考えていたかもしれない。しかし雨足はなかなか強まらず、デグラデーション(性能劣化)の傾向が見えてペースが落ち始めても、なかなかタイヤ交換するという判断を下せなかった。そうこうしているうちに、前を行くアレクサンダー・アルボンと角田の差は広がっていった。
そして角田は、ここで出し抜かれた。相手は、アストンマーティンのフェルナンド・アロンソである。アロンソは10番グリッドからスタートしたものの、1周目に13番手までポジションを落としていた。そのため、早々(18周目)にピットインし、新しいタイヤのパフォーマンスを活かして前を行くマシンを抜く……いわゆるアンダーカットを成功させようとしたのだ。
角田はこれに反応し、翌19周目にピットイン。しかしアロンソにはアンダーカットを許してしまった。これはレッドブル陣営としてはある意味”後手に回ってしまった”状況であったように思う。
ただアロンソと角田のペースは凄まじく、ピットイン前にポジションを争っていたアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)との差を削り取っていった。

F1オランダGPギャップ推移分析:中団グループ
このグラフは、オランダGP決勝レースでの、5番手を先頭にした後続との差の推移をグラフ化したものである。赤丸で囲った部分を見ると、アロンソと角田は急速に前を行くマシンとの差を縮めている。
今回のオランダGPのピットストップ時のロスタイムは20秒ほど。つまりアロンソは実質的には既にアルボンをもアンダーカットが可能、角田もあと1〜2周もあればアンダーカットできる、そういうペースであった。
しかしここで、角田に不運が待っていた。フェラーリのルイス・ハミルトンがクラッシュしたことで、セーフティカーが出動。SC中は各車のペースが大きく落ちるため、ピットストップした際のロスタイムは当然小さくなる。各車が続々とタイヤ交換を済ませた結果、アロンソと角田はアルボンとアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)をアンダーカットすることができなかった。そればかりか、ステイアウトを選んだハードタイヤスタートのハースの2台にも先行を許す形となってしまった。
角田はリスタート直後にアロンソを抜いたが、このハース勢2台が、角田にとっての次なる障壁となった。
ハース勢は2台が連なって走り、前を行くエステバン・オコンが後を走るチームメイトのオリバー・ベアマンをDRS圏内に留め、ふたつのDRSゾーンで最高速が伸びるようサポートした。ハース勢のペースは、既に使い古されたタイヤを履いていたこともあり遅かったが、オーバーテイクのチャンスとなるストレートではDRSを使って加速し、角田を封じ込めた(グラフ青丸の部分)。
攻め手がないと悟ったアロンソは、早々に戦略を変え、2度目のピットストップを実施。再度アンダーカットを狙った(グラフ緑丸の部分)。
その後、53周目に2度目のセーフティカーが出動。このタイミングも、角田にとっては絶妙に厳しい状況になった。もし1周でもこのセーフティカーが遅かったら、少なくともベアマンの前には出ることができていただろう。
というのも52周目を走り切ったところで、オコンがピットインしていた。おそらくベアマンは、その次の周にピットストップを行なう予定だったはずだ。しかしそのドンピシャのタイミングでセーフティカーが出動。オコンは大きく順位を落としたが、ベアマンはほとんど順位を落とすことなくタイヤ交換を済ませることができた。
角田もここでピットインし、終盤のバトルに向けてソフトタイヤに履き替えた。これにより、アストンマーティン勢2台の後方で、再スタートを迎えることになった。
当初角田は、ストロールを追いかける展開だった。しかしアストンマーティンは、ストロールを先行させ、アロンソが角田以下を抑える役目に徹した。その上角田は、スロットルマッピングの問題に悩まされることになり、思うようにペースを上げられず……アロンソを攻略することはできなかった。
アントネッリへのタイムペナルティの関係で最終的には10番手から9位に繰り上がった角田だが、こうして並べていくと、セーフティカーのタイミングも、ライバルとの位置関係も、全てが角田にとって逆風だったように見える。そんな中でポイントを獲得できたのは、最低限の仕事はこなしたと言うことができるだろう。逆に全てが追い風、もしくは無風であれば、角田はアルボンの前でフィニッシュできていた可能性も十分にあろう。
確かに同じレッドブル・グループの一員であるアイザック・ハジャー(レーシングブルズ)が予選4番手、決勝3位というもの驚異的な結果を手にしたため、大きく株を上げたことには違いないだろう。しかし状況を考えれば、角田の奮闘も評価すべきだ。
今週末には、モンツァ・サーキットを舞台にイタリアGPが開催される。角田には今回の入賞を糧に、さらなる活躍を目指してほしいところだ。
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