日本帰国の前田健太に広島復帰待望論 森下暢仁に「エースの哲学」伝授を期待する声

 ヤンキース傘下の3Aスクラントンで奮闘する前田健太が、来年の日本球界復帰を希望していることが報じられた。8月31日にテレビ東京で放送された「スポーツ リアライブ~SPORTS Real&Live~」にVTR出演し、「今年でアメリカは終わりと決めている。メジャーで20勝しても今年でアメリカは最後と決めていた」と語った上で、「来年は日本に帰りたい。オファーをもらえないとプレーできないので僕が決めることではないですけど」と胸中を吐露した。

「前田は常々、応援してくれていた日本のファンの前で日米通算200勝を達成したいと話しています。米国でプレーして今年で10年なので、メジャー挑戦に終止符をつける考えが以前からあったのでしょう。日米通算165勝を挙げて実績十分ですが、日本の球団の評価は分かれます。近年のパフォーマンスを見るとエース格でなく、先発で4、5番手の位置づけになると思います」(スポーツ紙デスク)

 今年はタイガースで先発から中継ぎに配置転換されたが、7試合登板で防御率7.88と結果を残せず、5月にキャリア初のマイナー降格を経験。自由契約になって、カブス、ヤンキースのマイナーを渡り歩いたが、メジャー昇格への道は険しい。3Aのスクラントンで8月29日に先発した際は、3回を11安打10失点の大乱調。米国駐在の通信員はこう指摘する。

「年齢による衰えを指摘する声がありますが、直球の球速は出ているんですよね。フォームの微調整など細かい点でしっくり来ていないように感じます。3Aで結果を残していないので日本球界での活躍に懐疑的な声が聞かれますが、まだまだ通用すると思いますよ。経験値のある投手だし、打者を抑える術を知っている」

 日本球界に復帰するとして、気になるのは獲得オファーを出す球団だ。先発陣の層が薄いヤクルト、先発陣の助っ人外国人依存度が高いDeNAのほか、巨人も先発で開幕から稼働し続けている投手が山崎伊織のみとピリッとしないので可能性がある。パ・リーグでは大阪府出身の前田の地元球団であるオリックスが獲得に動くかもしれない。複数球団による争奪戦も予想される中、本命視されるのは古巣の広島だ。

■「前田は森下の良きお手本になる」

 広島を長年取材するスポーツ紙記者が語る。

「今の広島に足りないのはチームを引っ張るリーダーです。先発陣は床田寛樹、森下暢仁、大瀬良大地、森翔平に加えて高太一、佐藤柳之介、常廣羽也斗など将来が楽しみな若手がいますが、もう一つ殻を破り切れていない投手が多い。特に森下ですよね。能力の高さを考えると、エースになってもらわなければ困る。前田が広島を退団後に入団したため一緒にプレーした時期はないですが、オフの自主トレを共にするなど絆が深い。広島に復帰して森下にエースの哲学を伝授してほしいです」

 前田がメジャー挑戦後の2016年から球団史上初のリーグ3連覇を飾った広島だが、その後は6年間で5度のBクラスとリーグ優勝から遠ざかっている。今年も7月に4勝16敗3分と大きく負け越したことが響き、借金8と苦戦している(9月3日時点)。

 その中で、今年プロ6年目で自身初の開幕投手を務めた森下は、22試合登板で6勝14敗、防御率2.48。8月24日に右肩の張りで登録抹消された。クォリティー・スタート率が86.4%という数字が示す通り、決して投球内容は悪くない。打線の援護に恵まれない登板が少なくないが、前出のスポーツ紙記者は違った見方を示す。

「森下が一生懸命投げているのは誰もが理解していますが、相手のエースと対戦するケースが多いので我慢比べに勝たないとなかなか白星はつきません。今年は先に失点したり、リードしている展開でこらえきれずに逆転を許したりするケースが目立ちます。並の投手なら試合を作ればOKですが、森下はエースとして期待されているので要求は高くなります。黒田博樹(現球団アドバイザー)や前田は、チームが強くない時期でも先発で高水準の活躍を見せ、球界を代表するエースになりました。森下がもう1ランク、2ランク上の投手を目指すために、前田が広島に復帰すれば良きお手本になるはずです。もちろん、他の投手も学ぶことがたくさんあるでしょう」

■広島優勝に貢献した黒田の再来に

 広島のエースとして活躍し、メジャーでプレーして再び復帰する。思い浮かぶのが黒田だ。メジャーで5年連続2ケタ勝利と先発の軸として稼働していたが、14年オフにヤンキースを退団して広島に復帰。15年に11勝を挙げると、翌16年も10勝を挙げて25年ぶりのリーグ優勝に貢献した。この年に日米通算203勝をマークし、現役引退している。

 広島の民放テレビ関係者が振り返る。

「黒田さんが広島に復帰しなければ、その後のリーグ3連覇は達成できなかったでしょう。マウンド上の投球だけでなく、野球に向き合う姿勢でプロ意識の高さを示してくれた。黒田さんの背中を追いかけた野村祐輔(現広島3軍投手コーチ兼アナリスト)、大瀬良らが先発で一本立ちし、左腕エースだったクリス・ジョンソンも慕っていました。マエケン(前田)も黒田さんのように広島に戻って若手投手たちに経験を伝え、日米通算200勝を達成して欲しい」

 前田は今年1月に広島ホームテレビで放送された独占インタビューで、メジャーでも「(広島)カープの名を汚さないようにと頑張っていた」「カープの試合はめっちゃ見てる」などと広島愛を語っていた。移籍先を決断する上で、条件面や家族の意向も重要になってくるだろうが、果たして前田の決断は――。

(ライター・今川秀悟)