いよいよメジャーのスカウト陣も真剣モード 注目は「抑えより先発にしたい投手」「日本代表未経験のリリーバー」
シーズンも終盤となり、日本で活動するメジャー球団のスカウトの動きも真剣さを増してきた。
まずスカウトたちの視線を集めているのは2人の強打者だ。今オフ、ポスティングシステムを利用してメジャー挑戦の可能性がある村上宗隆(ヤクルト)と岡本和真(巨人)。村上は上半身のコンディション不良で長期離脱していたが、7月下旬に復帰後は30試合で14本塁打と量産体制に。左肘靭帯損傷で3カ月以上離脱していた岡本も8月中旬に復帰以降は14試合で3本塁打、打率3割をマーク。2人ともこれだけ長い間、故障で実戦から離れたことはなかったので心配されたが、鋭いスイングで懸念を吹き飛ばしている。メジャー東地区球団のスカウトはこう語る。
「村上はバットが出る角度がいいので、センターから逆方向に本塁打が出ている。岡本はまだ患部の状態が万全でないように感じますが、試合を重ねることでバットが振れてきている。打撃タイトルの常連として活躍してきた選手ですが、改めていい打者だなと感じさせられます。高い評価は変わらないですね」
■あるスカウトが絶賛したリリーバー
ただし、米国で活躍する日本人野手は少ないため、日本人投手のほうがスカウトたちの注目度は高い。興味深いのは、球団によって評価基準が違うことだ。メジャーリーガーの代理人が明かす。
「大谷翔平(ドジャース)、ダルビッシュ有(パドレス)など日本で飛び抜けた実績を持つ選手は別として、選手によって球団の評価が分かれることは珍しくありません。例えば、今永昇太(カブス)は回転数の多い直球を武器にDeNA時代から三振奪取率が高いことは魅力でしたが、故障が多くコンスタントに活躍していなかったこと、メジャーに挑戦したのが30歳と決して若くなかったこともあり、獲得のリストから外した球団が少なくなかった」
そして今、一部のスカウトから高評価を得ているのは侍ジャパンに選出されたことがない投手だという。
■中継ぎを志願して覚醒
「メジャーのあるスカウトは、ソフトバンクで守護神を務める杉山一樹を『今のNPBで最高のリリーバー』と絶賛していましたね」(前出の代理人)
192cmの長身から最速160キロの直球を投げ込む杉山は、2018年のドラフト2位で入団したときから期待が大きかったが、度重なる故障と制球難で1軍に定着できないシーズンが続いた。大きな転機は中継ぎ転向を志願した昨年だ。救援陣に故障者が相次ぐ中、チーム最多タイの50試合登板で4勝0敗14ホールド1セーブ、防御率1.61をマーク。4年ぶりのリーグ優勝の原動力になった。今年は抑えのロベルト・オスナが不調のため、6月以降に守護神に抜擢された。55試合登板で3勝3敗22セーブ10ホールド、防御率1.83をマークしている。常時150キロを軽く超える直球と落差の鋭いフォークを武器に、53イニングで73三振と打者を圧倒している。
パ・リーグ球団の打撃コーチはこう杉山を評する。
「以前は状態が悪いとボール球先行で自滅するケースがありましたが、昨年あたりから走者を出しても修正できるようになり、攻略が一気に難しくなった。制球力を磨けばさらに安定感が高まるし、日本球界を代表する抑えになるでしょう」
■「前に飛ばすことすら難しい」
この杉山を上回る安定感を誇る抑えとして活躍し、メジャーのスカウトたちが注目しているのが平良海馬(西武)だ。救援陣が手薄なチーム事情により今年は抑えに固定され、44試合登板で3勝1敗26セーブ6ホールド、防御率1.45。抑えは少ない球種で勝負する投手が多いが、平良は違う。スライダー、カットボール、チェンジアップ、スプリット、ツーシームと多彩な変化球を織り交ぜ、直球も150キロ台を連発する。対戦した打者は「平良はモノが違う」と苦笑いを浮かべる。
「球種が多いだけでなく、すべての変化球の質が高いんですよね。走者を背負ってトップギアに入った時は打てる球がこない。パ・リーグは好投手が多いですが、平良、今井達也(西武)、モイネロ(ソフトバンク)は別格です。状態が良い時は前に飛ばすことすら難しい」
■メジャー挑戦なら複数球団が争奪戦
様々な役割で結果を残していることも強みになる。高卒3年目の20年からセットアッパーとして3年連続防御率1点台以下を記録。21年は62試合登板で防御率0.90。翌22年は34ホールドで、最優秀中継ぎ投手のタイトルを受賞した。希望して先発に転向した23年は23試合登板で150イニングを投げて11勝7敗、防御率2.40をマーク。メジャー西海岸の球団編成担当が絶賛する。
「平良は何年も前からチェックしています。先発、セットアッパー、クローザーとあらゆる場所で結果を出していますが、一番力を発揮できるのは先発だと思います。変化球を操る能力が非常に高いので、打者を打ち取るパターンをいくつも持っている。直球もストライクゾーンで抑え込める速さと強さがあるので、長いイニングを投げられる。入団以来、肩や肘に大きな故障がないこともプラスです。凄い球を投げていても、故障が多く稼働率が低かったらチームへの貢献度は低いですから。彼がメジャーに挑戦するタイミングになったら、複数球団の争奪戦になることは間違いない」
平良は以前からポスティングシステムでのメジャー挑戦を球団に要望している。チームは現在5位で、3位・オリックス、4位・楽天とCS圏に進出する熾烈な戦いを繰り広げているところ。平良も絶対的守護神としてチームの勝利に集中しているが、オフの動向には注目が集まりそうだ。
(ライター・今川秀悟)