パワハラで転落、低年金で生活苦、やることがない…「終わりのない夏休み」を過ごす定年おじさんたちの「絶望の日々」
前編記事『再就職先で会社の先輩OBにイジメられる…「暇」を持てあました定年おじさんたちの悲劇』より続く。
会社への「復讐」を思いつく
CASE3:パワハラで転落し、転職にも失敗
中堅メーカー・元事業本部長(64歳)
「まさか私が部下からパワハラで訴えられるとは……。手塩にかけて育て、部長昇進も後押しした部下だったのに」
こう言って嗚咽を漏らしたのは、浜中徹治さん(仮名)。事業本部長としての任務を着実にこなし、執行役員や子会社社長のポストも視野に入っていた58歳のとき、パワハラ被害を受けたと営業部の部長から訴えられた。
営業成績が悪いとして、業務時間外の深夜や週末に電話をして注意したり、部下がいる前でも大声で叱責するなどした結果、その部長はうつ病を発症したと主張した。

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「その訴えは、私がかつて上司から受けた指導と何ら変わりません。私自身、そうやって鍛えられたおかげで、事業本部長まで上り詰めることができた。それが今の時代は、指導ではなく、懲戒処分を受ける不当行為とみなされる。最後の最後で、出世の階段を転げ落ちるとは、思ってもみませんでした……」
役職を解かれ、人事部付のヒラ社員となって、「窓際で時間が過ぎるのを待つだけの日々」を送った浜中さん。会社に対する「復讐」として思いついたのが、転職だった。転職エージェントに登録し、人脈を駆使して仕事を探す。しかし、転職活動は難航した。
図書館をハシゴする毎日
「まったく、私をバカにしている。有名企業で事業本部長まで務めた人間ですよ! 賃金などの待遇やポジションを落とすことは到底できません。やり取りをすればするほど、腹が立ってきて、話が前に進みませんでした」
結局、転職先は見つからないまま、定年退職を迎えた。それから4年が過ぎ、現在の生活を振り返る。

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「同居する息子2人が出勤する前に家を出て、近所の人に会わないように、電車で30分ほど離れた公立図書館をハシゴする毎日です。どこの図書館にも、決まって私と似たような境遇の男性がいるもんですね。彼らと経済紙を取り合ったり、時には譲ったり。
今のところ、預貯金を取り崩して生活はできていますが、これからどうすればいいのか。遅ればせながら、人生設計を含めて練り直し、そのうえで、少しでも働くことができれば……そりゃ図書館で時間を潰すよりはいいですけど、さあどうでしょうか」
はたして浜中さんが満足する仕事は見つかるだろうか。
※浜中氏のエピソードは『等身大の定年後 お金・働き方・生きがい』(光文社新書・奥田祥子著)より
命の危険を感じて……
CASE4:猛暑のなか、チラシ配りで熱中症に
通信関連会社・元広報課長(65歳)
「新卒から10年勤めた会社が倒産し、その後、フリーランスで働いたため、年金が少なくて生活に余裕はありません。ただ、最後の15年間勤めた通信関連会社は大きい会社で、企業年金もありますし、妻はまだ生保レディとして働いているので、なんとか夫婦二人で生活できています」
こう話す佐伯健三さん(仮名)は定年を迎えたとき、一時は再雇用を考えたが……。
「元部下の尻拭いのようなことをたくさんさせられそうだと想像がついて、やめました。現役時代は朝も夜もないような仕事でしたから、退職後、1年半ほどは燃え尽きたように家でぼーっとしていた。
といっても、余裕があるわけではないので、2年ほど前から働き始めました。ただ、人と直接関わるのはもううんざりなので、一人でできる仕事はないかと考え、目についたのが、チラシ配りでした」

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1枚3円ほどでチラシを住宅に3000枚ほど配る。GPS機能の付いた端末をもたされ、移動ルートは監視される。そんな仕事だった。
「他人に煩わされることもなく、働く場所も近所を選べるので、通勤の必要もない。近所とはいえ歩いてみると、知らない道や風景を発見したりして意外と楽しかったんです。ただ真面目に働いていると、会社側がどんどんエスカレートして、1万枚とか実働時間では配りきれない枚数のチラシを届けてくるように。必死で配っていたら、昨年の夏、熱中症で倒れてしまって……。さすがに命の危険を感じて、辞めてしまいました。
あれから1年。そろそろ現実を見て、私のような年齢でもできるバイトでもしようかと思っています。本当は宝くじでも当たってくれるといいのですが……」
そう言って佐伯さんは発泡酒をチビチビ飲むのだった。
やることがなさすぎて
CASE5:百均やホームセンターを見て回る毎日
インフラ企業・元総務局長(67歳)
インフラ企業で総務局長まで務めた水田則夫さん(仮名)は大学教授のような風格だ。
「仕事一筋だったため、これといった趣味はありません。定年になってからやることがなく、朝起きたらとりあえず喫茶店に行き、昼は公園でサンドイッチを食べ、午後は図書館に行くのがルーティン。夕方になったら近所の100円ショップに行って、その日見た面白い商品を妻に報告していました。妻しか話し相手がいないので。今は百均よりも規模の大きいホームセンターを見て回っています」
一方、水田さんの妻は地元の自治会で活動し、近隣の人と歌舞伎に出かけるなど活発な日々を送っているという。
「やることのない私がコロナ禍で覚えたのが、フェイスブックです。とはいえ、投稿する内容もないので、会社の知り合いやその知り合いの投稿を読むだけ。この前の兵庫県知事選挙はフェイスブックで得た情報を元に斎藤元彦知事に投票しました。そうそう、最近、妻の自治会つながりで、麻雀デビューしました。メンバーの一人が認知症になって空きが出たのです。老後は妻の働きかけにしたがって生きていくのでしょうね……」

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『ほんとうの定年後』著者の坂本貴志氏が総括する。
「定年退職後、365日が日曜日という生活を楽しむためには、趣味や人脈、金銭的余裕があるに越したことはありません。しかし、それらを十分に備えた人はそう多くない。夏休みも1ヵ月程度なら楽しめますが、終わりのない夏休みは逆に絶望的です」
絶望に陥らないためには準備が必要だ。次章『定年後にもっと稼ぎたい人へおすすめの資格10』で役立つ資格を紹介する。
「週刊現代」2025年09月01日号より