「妻夫木聡さんが出てくれるなら…」中園ミホが設定を変えた!サンリオ創業者の評価に納得しかない【あんぱん第107回】

『あんぱん』第107回より 写真提供:NHK
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第107回(2025年8月26日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
モデルのサンリオ創業者が八木に好感触
茶碗や皿に絵と詩を書いて売るビジネスを考えた八木(妻夫木聡)。
あっという間に嵩(北村匠海)の絵と詩付きカップと皿が完成。のぶ(今田美桜)は、それで飲む紅茶は味が変わらないがなんだか元気になると感想を述べる。
健太郎(高橋文哉)の家では絵皿をトイレに飾っている。せめて玄関に飾ってあげてーと思ったりもするけどトイレに教訓を飾る習慣はわりと一般的だ。
例えば、相田みつを。メッセージ付きグッズビジネスはやがて彼の時代になっていく。相田の本はダイヤモンド社でもたくさん出版している。
余談だが、大正生まれの彼もまた不遇な時代、戦争を経た人物だ。そのうち朝ドラになるかもしれない。
商売上手の八木のモデルは、サンリオ創業者で現会長の辻信太郎だと中園ミホはインタビューで語った。
「朝ドラでは短期間で役割を終えていなくなるキャラクターも多いですが、妻夫木聡さんが出てくださるなら、できるだけ長い間出ていただきたい。でも、八木のモデルの一部はサンリオの創業者で現会長の辻信太郎さんで、そうなると、ドラマの後半3分の2くらいからの登場になってしまう。それはもったいないなと思って、嵩と戦地で出会い、その後、長いつきあいになるキャラクターにしました。
辻さんもやなせさんと同じく反戦の気持ちの強いかたで、やなせさんとはその思いで繋がっています。それならば、一緒に戦地で出会っていたことにしたら、関わりもより深まるのでないかと思いました。妻夫木さんは辻さんにお話を伺いに行っているんですよ。そのとき辻さんは『かっこいいね』と喜んでいらっしゃいました」
かつてサンリオが出版部門を立ち上げた理由

「売れるものを見抜く才能がある」と健太郎は八木の嗅覚に感心する。その八木が、嵩の詩の才能を見抜き、詩を書くように言う。
漫画を描かなくていいのかとのぶは相変わらず心配するが、漫画を描くように詩が沸いてくると嵩は
新たなフェーズに入ったようだ。
亡くなった父・清(二宮和也)、育ててくれた叔父・寛(竹野内豊)や叔母・千代子(戸田菜穂)、大切な弟・千尋(中沢元紀)、ヤムさん(阿部サダヲ)……これまで出会った人たちが、嵩に詩を書かせている。当然、そこにはのぶも存在している。まぶたの裏にはいつものぶがいる。
嵩が書いた詩を読んだ八木は、突如、出版部門を立ち上げることにする。その最初の作品は柳井嵩の詩集。戦争を体験した自分たちは人を幸せにすることで、そのためには優しさや思い入れの気持ちを伝えることだと八木は考えていて、嵩の詩はまさにそれができるものだと太鼓判を押す。
「愛することがうれしいんだもん」
嵩はたくさんの人たちと触れ合いあふれだす言葉を詩に書く。
八木は「これはすばらしい叙情詩だ」「メルヘンだ」と絶賛。そして今度は自費出版ではなく、商業ベースの嵩の詩集『愛する歌』が発売された。このタイトルを八木に伝えるとき、『手のひらを太陽に』のアレンジ曲が柔らかく流れていた。嵩の作品にはどれも生きることや愛する喜びが詰まっている。
八木のモデルの辻信太郎も自社で出版部門を作っている。
彼の著書『これがサンリオの秘密です』によると、出版部門の立ち上げは1967年。きっかけはやなせたかしに、コップや茶碗につけるキャラクターの絵を頼みにいったとき、やなせからガリ版刷りの詩集を見せられたことだった。
「すごいよ、先生、これが叙情詩だ」と言って出版を提案したという。
八木のほめ言葉「叙情詩」はまんま辻の言葉であった。ただ、辻は昭和2年生まれ。やなせは大正8年生まれ。実際は辻のほうが年下だ。
本は好きでも出版のイロハを知らない辻だったが、ガッツで売って回って、結果、この手の本(詩集)としては売れた。次に出版したのはサトウハチローの作品『美しきためいき』だった。
辻が目指したのは「本を贈る」という行為。「ギフトブックシリーズ」と銘打って、やなせの『愛する歌』とサトウの『美しきためいき』の2冊でそのコンセプトを軌道に乗せた。
八木と蘭子の関係が急接近

蘭子(河合優実)は八木の会社で事務仕事を手伝っていた。新鋭と注目されていたとしてもフリーライターだけで生活するのはなかなか大変なのであろう。ちなみに史実では、やなせたかしが映画評論の仕事もしていた。ドラマではそこを蘭子に振り分けているようだ。
蘭子が八木の会社で仕事をしていると、子どもたちが遊びに来た。手作りのカードを携えて。八木は子どもたちをギュッと抱きしめる。
蘭子は、八木にいつもそうしているのかとたずねる。
人間に必要なもののひとつに「人の体温」があると八木は説く。孤児たちは親からの無条件の愛情を知らない。代わりに八木が抱きしめているのだ。
蘭子「そういう八木さんを誰か抱き締めてくれる人は……」
八木「いや…俺は…」
蘭子「すみません 変なこと聞いて。失礼します」
蘭子は部屋を出ると、なんてことを言ってしまったのかというように困惑した顔になる。夕方の明かりと相まって妙に湿度の高い場面で、『あんぱん』と違うドラマが始まったのかと思った。向田邦子ドラマのような……。
中園はインタビューでこう語っていた。
「蘭子と豪ちゃんがあまりにも人気で、豪に生きて帰ってきてほしいと複数の人に言われるほど。俳優さんの演技の素晴らしさがそう思わせているのだと思います。でも蘭子をなんとか幸せにしてあげたいですね」
一生分の恋をしたと言っていた蘭子も長年、ひとりで生きてきて人の体温が欲しくなっているのかもしれない。八木と蘭子は孤独を抱えている者同士、引き合っているように見える。
誰かと一緒にいると元気が出ることは、嵩とのぶが証明している。
「愛することがうれしいんだもん」
詩を書き終えて仲良く腕を組んで銭湯に向かうふたりの影が建物の壁に大きく伸びる。それもまた詩のようだった。
第107回は、アパートの2階から階下が映る。これまで平坦だった画が急に立体化したのは、愛によって嵩とのぶの世界が広がった表現だろうか。
見方を変えれば、すてきなところはいくらでも見つかる。屋根、階段、塀、植わっている木に太陽光が注ぎ、光っている。あじさいが咲き、カエルが鳴く。立てかけたはしごまでが愛おしく見える。みんなみんなセットだって生きてるんだ。
フォトギャラリー、主なシーンより

第22週(8月25〜29日)
「愛するカタチ」あらすじ
八木(妻夫木聡)は嵩(北村匠海)の詩の才能を見抜き、八木の会社「九州コットンセンター」で出版部を作って詩集を出さないかと声をかける。最初は断る嵩だが、八木の熱意に押されて詩集『愛する歌』を出版することになる。
みんな売れないと思っていたが、想像を覆しヒットする。ある日、『愛する歌』に救われたという小学生の女の子が柳井家にやってきて――。
連続テレビ小説『あんぱん』
作品情報

連続テレビ小説「あんぱん」。“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった二人の人生。何者でもなかった二人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描き、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語です。
【作】中園ミホ
【音楽】井筒昭雄
【主題歌】RADWIMPS「賜物」
【語り】林田理沙アナウンサー
【出演】今田美桜 北村匠海 江口のりこ 河合優実 原菜乃華 高橋文哉 大森元貴 妻夫木聡 松嶋菜々子 ほか
【放送】2025年3月31日(月)から放送開始