映画『バレリーナ』はスピンオフだからとナメてはならない! 『ジョン・ウィック』と並ぶ3つの魅力

『ジョン・ウィック』シリーズ初見でもOK!, R15+だけど「中学2年生の心を持つ大人」におすすめ, 1:殺し屋の組織で育ち、復讐を目指す物語, 2:危なっかしい戦いがエスカレート!「笑える」理由は?, 3:舞台と物語に感じる「美学」とは?

映画『バレリーナ:The World of John Wick』がとてつもなく面白い作品でした! ナメてはならないスピンオフになった3つの理由を解説しましょう。(画像出典:(R), TM & (C) 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.)

映画『バレリーナ:The World of John Wick』が8月22日より上映中です。本作はサブタイトルから分かるように、2014年(日本公開は2015年)から続くキアヌ・リーブス主演のアクション映画『ジョン・ウィック』シリーズのスピンオフにして最新作です。

『ジョン・ウィック』シリーズ初見でもOK!

まず断言しておきたいのは、本作は『ジョン・ウィック』シリーズを知らなくても問題なく楽しめます。基本的なプロットはシンプルですし、何よりアクションの「笑ってしまう」ほどのエクストリームさは分かりやすい面白さに満ちているのです。

それでいて、「『ジョン・ウィック』の魅力とは何か?」という問いに見事に答えた、シリーズのファンこそが納得できる「世界観」と「美学」もしっかり打ち出されています。一方で、スピンオフ作品だからこそ「これまでとは違う」マンネリズムを打破する要素も備えているのです。

そのおかげでシリーズの「縮小再生産」ではまったくない、「ナメてはいけないスピンオフ」になっていました。

R15+だけど「中学2年生の心を持つ大人」におすすめ

『ジョン・ウィック』シリーズ初見でもOK!, R15+だけど「中学2年生の心を持つ大人」におすすめ, 1:殺し屋の組織で育ち、復讐を目指す物語, 2:危なっかしい戦いがエスカレート!「笑える」理由は?, 3:舞台と物語に感じる「美学」とは?

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注意点は、「刺激の強い銃器および刀剣等による殺傷・流血の描写がみられる」という理由でR15+指定がされていること。とはいえ、バイオレンス描写はそれほど「後を引く」タイプではなく、「あっさりと人間が殺される」ある種の「無情さ」をも示しているようなもの。よほど残酷描写が苦手でなければ問題なく楽しめる範囲であるとは思います。

筆者個人として、本作はいい意味で「中学2年生の心を持つ大人」にこそ見てほしい快作でした。R15+指定のバイオレンスアクション映画のはずなのに、「まるで子どもが考えたようなアイデア」にもおおはしゃぎして楽しめる内容だったのですから。さらなる魅力を記していきましょう。

1:殺し屋の組織で育ち、復讐を目指す物語

本作の基本的なあらすじは、「父を殺された少女が暗殺者として育てられ復讐(ふくしゅう)を目指す」というシンプルなものです。

劇中のロシア系犯罪組織「ルスカ・ロマ」では、孤児を集めて暗殺者およびバレリーナを養成しており、そこで殺しのテクニックを磨いてきた主人公・イヴはやがて組織の意向に背き、「1000年の長きにわたって続く暗殺教団」の存在にたどり着きます。

『ジョン・ウィック』シリーズ初見でもOK!, R15+だけど「中学2年生の心を持つ大人」におすすめ, 1:殺し屋の組織で育ち、復讐を目指す物語, 2:危なっかしい戦いがエスカレート!「笑える」理由は?, 3:舞台と物語に感じる「美学」とは?

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まず、ある種のファンタジーともいえる「殺し屋の組織」こそが、『ジョン・ウィック』シリーズらしいところであり、中学2年生の心を持つ大人こそが好きなポイントでしょう。

例えば、シリーズでは「殺し屋が集うホテルには掟(おきて)があり、それを破るとほかの殺し屋から命を狙われる」という設定があります。今回はそれをさらに発展させ、組織に育てられた女性暗殺者が、理不尽で不条理な出来事に巻き込まれながらも、復讐のために、より巨大な組織にほぼ孤軍奮闘で立ち向かうという、不謹慎さとアンダーグラウンド感が魅力の設定が描かれています。

また、『ジョン・ウィック』の主人公であるジョンは殺し屋の生活から足を洗おうとしていた(しかし愛犬が殺されたことにより果てしない殺し合いから降りられなくなる)のに対して、『バレリーナ』のイヴは父の復讐のため、自ら進んで殺し屋の世界に入り込んでいます。

『ジョン・ウィック』シリーズ初見でもOK!, R15+だけど「中学2年生の心を持つ大人」におすすめ, 1:殺し屋の組織で育ち、復讐を目指す物語, 2:危なっかしい戦いがエスカレート!「笑える」理由は?, 3:舞台と物語に感じる「美学」とは?

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その時点でスピンオフに求められる「これまでのシリーズとの差別化」がありますし、ジョンとイヴというキャラクターの「対比」もまた、シリーズを追っていた人こそが楽しめるでしょう。今回の劇中でも登場するジョンが、果たしてイヴにとっての敵となるのか、または味方になるのかにも、ぜひ注目してほしいです。

なお、今回の時系列は、3作目『ジョン・ウィック:パラベラム』と4作目『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の間になるとのこと。シリーズファンはそちらも念頭に置くと、ジョンの心のうちを想像しやすく、より楽しめるかもしれません。

シリーズを見ていない人は、「愛犬を殺され、ロシアンマフィア(タラソフ・ファミリー)を壊滅。 家を爆破されイタリアンマフィアを壊滅させて裏社会の掟を破り逃走中」というジョンのとんでもなさすぎる来歴を知っていれば、十分に楽しめるでしょう。

2:危なっかしい戦いがエスカレート!「笑える」理由は?

さらに差別化している点としては、主人公が女性であることと、「だからこそ」のアクションが描かれています。主演のアナ・デ・アルマスは『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で大注目されており、今回は小柄な体を生かした女性ならではのCQC(近接戦闘)アクションを披露しています。それでいて、ベテラン殺し屋ジョン・ウィックが体術と銃撃を組み合わせた近接戦闘術「ガン・フー」を駆使していたのとは少し異なり(あるいはそのスタイルを受け継ぎつつも)、イヴは「殺し屋としての人生を歩み始めたばかり」だからこそ見せる「危なっかしい戦い」が、むしろスリリングで面白く描かれていました。

何しろ彼女は、「その場にあるもの」を駆使してギリギリの戦いを続けるのです。例えば、「手榴弾で敵に確実な致命傷を与えるには?」という問いに対し、「そんな豪快な方法があったの!?」と驚かされる場面もあります。そのほかでも「地の利を生かした戦い」が目白押しで、イヴと敵の双方が「手元の武器を失った」時の「お互いに必死で武器を見つけようとする」シチュエーションは「完全にコメディー」になっていました。

『ジョン・ウィック』シリーズ初見でもOK!, R15+だけど「中学2年生の心を持つ大人」におすすめ, 1:殺し屋の組織で育ち、復讐を目指す物語, 2:危なっかしい戦いがエスカレート!「笑える」理由は?, 3:舞台と物語に感じる「美学」とは?

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さらに笑ってしまうのは、終盤にイヴが見つける「ある武器」です(本編映像などで見られますが、ここでは秘密にしておきます)。その武器で「無双」を始める様は痛快ですし、“武器”VS“武器”、さらにはその武器と正反対の要素を持つ「あるもの」を持ち出したバトルが勃発する様に至っては大爆笑。「これは小学生が考えたんですか?」と思ってしまうほどでした(褒めています)。

そうした戦い方が「トンデモ」だからこそ笑ってしまうわけですが、一方で主人公が「殺し屋としてはまだまだ未熟だからこそ工夫して戦う」からこそ、ある程度の説得力があったりもします。 「肉体的な強さ」では到底敵わない相手に対して、知恵と工夫、そして時には創造(あるいは想像)力までも駆使し、不利な状況を武器に変えていく姿がとても面白いのです。

3:舞台と物語に感じる「美学」とは?

「アクションがエクストリームになりすぎて、もはや笑ってしまう」領域になっていることが『ジョン・ウィック』(2作目以降の)シリーズの魅力ですが、一方で荒唐無稽な世界観や設定に説得力を持たせる「世界観」を、圧倒的な映像美でも表現しています。

『ジョン・ウィック』シリーズ初見でもOK!, R15+だけど「中学2年生の心を持つ大人」におすすめ, 1:殺し屋の組織で育ち、復讐を目指す物語, 2:危なっかしい戦いがエスカレート!「笑える」理由は?, 3:舞台と物語に感じる「美学」とは?

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これまでのシリーズでは、ニューヨーク、ローマ、モロッコ、日本、パリと、世界を股にかけた舞台も魅力的でした。今回はチェコ・プラハのほか、クライマックスの舞台は「雪に覆われた東欧の街」という、これまでにないシリーズの新基軸も打ち出されています。

その東欧の街とは、オーストリアの世界遺産である「ハルシュタット」(ハンガリーの「ブダペスト」でも撮影)のこと。氷河湖のほとりにあるのどかな村で、山々に囲まれた風景は、積もる雪も相まって、とてつもなく美しく映っています。丘の斜面にあるハルシュタットは「激しい高低差」もあり、それを生かした「立体的」なアクションも展開されます。 観光シーズンのハルシュタットには数週間にわたって撮影に入ることができなかったため、実際はチェコ各地の映像も組み合わせていたそうですが、とてもそうとは思えない工夫にも恐れ入るものがあります。

ともかく、「世界各地の観光気分を味わいながらも、巻き起こるのは殺し屋たちの血で血を洗う殺し合い」というギャップも『ジョン・ウィック』シリーズの魅力。さらには、暗めの室内でも青く輝く、ある種の「ネオン」的な背景での戦いもスタイリッシュです。そうしたルックでの美しさだけでなく、殺し屋という存在の「儚さ」や、「自分が生きる道を選ぶ」物語にも、確かな「美学」を感じさせます。

どこまで行っても殺し屋とは人殺しであり、絶対的に正しい存在であるわけがありません。それでもなお、劇中で告げられる「人は自ら決めた人生を生きる」「過去を奪われても未来を失ってはならない」といった格言は、誰の人生にも通ずる「矜持」として、響くものにもなっていると思えるのです。

『ジョン・ウィック』シリーズ初見でもOK!, R15+だけど「中学2年生の心を持つ大人」におすすめ, 1:殺し屋の組織で育ち、復讐を目指す物語, 2:危なっかしい戦いがエスカレート!「笑える」理由は?, 3:舞台と物語に感じる「美学」とは?

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ちなみに、今後の『ジョン・ウィック』シリーズは、4作目『ジョン・ウィック:コンセクエンス』に登場した盲目の武術の達人・ケインを主人公にしたスピンオフ作『CAINE』のほか、『ジョン・ウィック』シリーズ5作目や、若き日のジョン・ウィックを描くアニメシリーズも制作され、さらにはラスベガスに『ジョン・ウィック』をテーマにした没入型アトラクションまで導入が予定されているのだとか。

今後の『ジョン・ウィック』シリーズを楽しむためにも、その「入門」としてもうってつけな本作を、ぜひ劇場でご覧になってほしいです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール

All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。