「造船」「地銀」…構造不況業界もついに底打ちへ

かつては構造不況の代名詞だった造船業界。雨続きだった天気予想が変わり始めている(写真: やんちんぐ/PIXTA)
中国や韓国との競争に敗れた造船業界、人口減少による融資先減少に悩む地方銀行業界……。構造不況の代名詞だった業界の様相が変わり始めた。
【画像】トランプ大統領も注目する「造船業界」激動の最新業界地図
造船の天気予想に好転の兆し
造船業界は、国内最大手の今治造船をはじめとした地場系と、重工系に大別される。かつて日本の基幹産業だったが、1990年代以降に中韓勢との価格競争に巻き込まれて体力を消耗。現在の新造船竣工量のシェアは中国が5割、韓国が3割の一方で、日本はわずか1割にとどまる。
価格競争力で劣る日本勢は、2010年代から再編を続けてきた。最新の業界地図には、地図には載せきれない業界再編史などを詳しく解説した「深読み」欄も掲載。当欄を読めば、こうした再編の歴史も見えてくる。
一方で市場環境は変わり始めた。海運市況の動向に合わせ、タンカーやコンテナ船といった商船の受注はやや回復傾向にある。もう1つ見逃せないのが、安全保障分野だ。
アメリカのトランプ大統領は、中国の海運支配に懸念を示しており、日本と韓国に協力を求めている。
韓国勢はハンファオーシャンが2024年にアメリカ・フィリー造船所を買収したり、アメリカ艦艇のMRO(修理や整備)を受注したりするなど攻勢をかける。
日本も韓国勢に比べて劣勢ぎみだが、関税措置見直しと引き換えに造船技術での協力を提案している。
またオーストラリアは、三菱重工が建造する護衛艦「もがみ」型をベースとした護衛艦を次期フリゲート艦として採用し、今後10年間で11隻、100億オーストラリアドル(約1兆円)で導入すると公表している。
こうした状況下で、2025年6月には最大手で地場系の今治造船が、重工系のジャパンマリンユナイテッドを子会社化する方針を発表している。
過去10年ほど、業界地図における造船業界の天気予報は「雨」か「大雨」が続いていた。最新の26年版では「薄曇り」となっており、今後さらに好転する可能性もある。

金利ある世界で地方銀行も復活
人口減少と長年にわたる超低金利政策で厳しい経営環境が続いていた地方銀行業界。2024年3月の日本銀行によるマイナス金利解除以降、「金利ある世界」に突入し、状況が大きく変わり始めている。
地方銀行の稼ぎ方は大きく分けて2つある。まず「資金利益」といって、預金の利子と融資の貸出金利息の差額、株式や債権の運用利益などで構成される。もう1つは「役務利益(役務取引等利益)」で、信託や保険販売、為替手数料、コンサルティング料などが主な内容だ。

利上げによって収益拡大を期待できるのが貸出金利息だ。貸出金には、利上げに連動する「変動金利型」の貸し出しと、そもそも連動しない「固定金利型」の貸し出しが存在する。
固定金利型の割合が高ければ、利上げの恩恵をそれほど受けられないことになる。一方で預金金利は利上げに連動してすぐに引き上げられるため、場合によっては利上げがむしろマイナスに働く場合もある。
銀行にとって貸出金利息に次ぐ収益源が株式や債券などの有価証券運用だ。国債や地方債などの債券の多くは固定金利のため、すでに保有している分については利上げの恩恵を受けられない。むしろ、債券価格が下落するため含み損を抱えることになる。
実際、2024年度は多くの銀行で国内債の含み損が膨らみ、栃木銀行のように大幅な損切りに動く銀行もあった。

とはいえ、業界地図の天気予想は2017年度から一貫して雨だったものが、ここにきてようやく薄曇りに転換した状況は見逃せない。
経営環境の変化を受けて、一時は落ち着きつつあった業界再編の動きも、再び活発化し始めている。
群馬銀行と第四北越フィナンシャルグループは2025年4月に経営統合の基本合意を発表。2027年4月をメドに統合を完了する予定だ。ほかにも千葉銀行が千葉興業銀行の株式19.9%を取得した。
業界にも、投資家にとっても大きなチャンス
かつて構造不況の代名詞だった造船、地方銀行業界の転換は、業界にとっても、株式投資家にとっても大きなチャンスだ。
国内の産業構造が人口減少で沈下する中、再編集約することで、成長余地の大きい海外進出の余力や、コスト削減による統合効果が期待できる。業界をより強くしたり、大きな投資機会が生まれるかもしれない。