俳優・中嶋朋子さんが山荘にもつ本棚の中身。「本の世界にひたり続ける」夢のような時間に
テレビドラマ『北の国から』で人気を博し、現在も多数の作品で活躍する俳優・中嶋朋子さん。自身がもつ山荘に造りつけた壁一面の本棚は、 “自分のなかの新しい窓を開く場所”なのだそう。中嶋さん流の読書の楽しみ方やお気に入りの本を教えてもらいました。
俳優・中嶋朋子さんに「本との関わり」について伺いました
【写真】かわいらしい本と動物の小物たち
演じる仕事のなかで、読書が「自分の時間」だった
―心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ―
『星の王子さま』の有名な一節が、静まり返った山荘に柔らかに漂います。広い窓の外には、青々と茂る夏の木立。本をめくり、それを読み上げる声以外、聞こえてくるのは鳥のさえずりだけ…。まるで映画のワンシーンのような、でも本当に起こったこと。俳優・中嶋朋子さんの山の家でのひと時です。
「ずっとずっと読書は好き。小さいころから演じる仕事をしていて、そのなかで『自分の時間』をいつでももてるように本を読んでいたのかもしれません。待つことが多い仕事だしね」
セリフを与えられ、いろいろな人格になり生きる。あの人この人の人生を行き来する中嶋さんを、本の世界は悠然と受け止め、感情や想像力を豊かに育んでくれたのでしょう。
高揚した気持ちを留めるために、メモをとる
写真中央は洋書が主に並ぶ棚。手前のブルーの本は自著『めざめの森を めぐる言葉』(講談社)。心を目覚めさせてくれた64の言葉についてていねいに綴った美しいエッセイです
「願わくは、本の、その世界に浸り続けていたい。(中略)素敵なフレーズに涙したり、深遠な思想に感銘を受けたり、猛烈に心はつかまれまくる。そんなだから、もう! 私の読書は、忙しくて仕方ない」。
自著『めざめの森をめぐる言葉』(講談社刊)のなかで、読書について語った言葉が印象的です。あちこちに動く感情に身を委ねつつ、気になった言葉をノートに書きとめるのが、中嶋さん流の読書です。
「あの本のあのシーンの言葉ってなんだったっけ? って、歯がゆい思いをしないために。何冊もの本を『渡り読み』するから、ワッてインスピレーションを受けたときの高揚した気持ちをちゃんと留めておきたいんです。そして、その言葉の蓄積が、私の思想のマップになるというか…」
演じるために「読む」わけではない
写真は文庫が「みっちり」詰まったコーナー。「いまの私をつくってくれる本が並んでいます」。背表紙を色別に重ねるアイデアがすてき
演じるということは、自分がもたない感情をもつ人間になるということ。
「こんな考え方するの?」「どうしてこういうことしちゃうわけ!?」。自分の脳では理解できない価値観や行動でも、これまで読んできたたくさんの物語のどれかとすり合わせて、合点がいくことがあるのだといいます。
だからといって、演じるために読書をしているわけではありません。楽しいから読む。知らない世界を見たいから読む。
理想と夢を詰め込んだ、絵本に登場するようなかわいらしい本棚
「黒ネコジェニー」や「ムーミン」のシリーズの原書など、かわいらしい本が並ぶコーナーも。一緒に飾られた動物モチーフの小物が楽しさを盛り上げています。
言葉のメモが「思想のマップ」と話してくれましたが、山荘の本棚も中嶋さんを表すマップです。自分らしい本棚が欲しくて、山荘を建てるときにあつらえました。
壁一面を埋める大きさであること、背の高い本も収まること、灯りがつくこと、可動式のはしごを備えること。はたして、絵本に登場するようなかわいらしい本棚ができ上がったのです。
雑音のない静かな場所で、「本の世界にひたり続ける」夢のような時間がここにはあります。
目的のない読書は、自分の新たな「窓」をあけてくれる
本棚の前のガラスのテーブルに、好きな本を並べて。山荘はとてもリフレッシュでき「ガッツリ本を読むぞ」と来ることもしばしば。取材の日は、自身でプロデュースする朗読劇のために本の選定作業中だった
絵本など自由な物語を味わうコツを伺うと、少し間をおいてつぶやきました。
「余白を楽しむということかな。想像の世界上の不思議なこと、途方もないこと。そんな『余白』のなかにたゆたっていると、ぽっかりなにかが浮かんできませんか? そうしたら、ふわ~って温かな気持ちになるはずです」
「なにかのために」読むのではなく、物語の世界を「たゆたう」。これこそが中嶋さんの読書。
「物語のなかにダイブすると、いままで自分のなかには存在しなかった窓が開く気がします。そこに心地よい風が通るのを感じられるのです」
※ この記事は『別冊天然生活 本は友だち 人生を変える一冊と出合うために』(扶桑社刊)より一部抜粋、再構成のうえ作成しています