犬や猫が飼い主の手をペロペロ舐めるのは、愛情表現ではなく…? “手作りごはん派”が陥りやすい落とし穴
動物にとって、塩は大切な栄養素です。
犬猫のドライフードには、実は塩がしっかり入っています。例えば、生のイワシよりも濃い味付けです。そうじゃないと身体が塩分不足になりますから。
塩分が不足すると、血圧を保つことが出来ないので力が入らなくなります。低血圧になると朝起きにくく、起きても体がだるいという症状を訴えるようになります。症状が進行すると、立ち上がることもできなくなり、けいれんが起こったり、意識を失ったりして、命の危険が迫ります。私たちのような陸生動物の祖先は、海から陸に上がるときに、海の環境を体内に封じ込めました。それが細胞の周りや血管の中にある体液なのです。ですから、塩分は絶対に必要なのです。
ドライフードにトッピングでお肉やお野菜を載せたり、手づくりごはんを与えておられる方は、追加で塩を足さないと、塩分不足になる可能性があります。
我が家の猫のミネラル検査をしたら、散々な結果でした!塩が足りない!
我が家は最近、猫達に試験的にドライフードを一粒も与えずに、手づくり…というか素材を出来るだけ加工せずにいろいろ与えております。先日、それで塩の摂取が適正かどうか検査をしたところ、全然足りていない!…散々な結果でした。お恥ずかしい。ヒトですと毛髪、犬猫ですと被毛を切り取って、検査センターに送ると、身体の必須ミネラルと有害ミネラルがどんな様子なのかを探る検査結果が得られます。
このチワワちゃんは訳あって毎週点滴に通院しておられますが、以前は塩が足りていませんでした。
写真のチワワちゃんは、毎日美味しい手作りごはんをドッグフードにトッピングしてもらって、食べていました。お母さんは以前「犬に塩を与えてはいけない」「犬にお肉の油は与えてはいけない」と言う都市伝説を聞き、お魚やお肉を与えるときには、塩と油を抜いて与えていたそうです。
当時、このチワワちゃんはお父さんがいつも座る座椅子の背を、ずっとずっといつまでもペロペロ舐めていたそうです。お父さんは汗かきなので座椅子の背に汗がついていたのでしょう。その汗を懸命に舐めて、少ないミネラルを補っていたようです。
当院の看板猫、澄ちゃんとチワワちゃん
お母さんが当院に来られて、犬には塩がとても大切なことを知り(肉の油も)、ごはんに塩を入れるようになってからは、チワワちゃんは座椅子をペロペロする事は全くなくなったそうです。家畜として飼われている牛たちも、塩が足りなくなると床をペロペロ舐め出します。
先日、診察させていただいた柴犬さんは、まだ5歳という若さで慢性腎臓病になってしまいました。お話をうかがうと、柴犬さんにありがちなアトピー性皮膚炎になり、その後手づくりごはんにして皮膚のトラブルは無くなったそうです。主にお魚を中心にメニューを作っておられて、その方も「犬に塩を与えてはいけない」と言う都市伝説にのっとり、魚を炊いたときは茹でこぼして塩を抜いて与えておられました。茹でこぼすと脂肪分やアクや臭みが落ちるので、お料理をするときには「さっぱりと上品な味に仕上がる」ということなのですが、栄養的にみるとその茹でこぼしたお湯の中には水溶性のビタミンやミネラルがどっさり入っています。柴犬さんは、慢性的に塩分が不足して腎臓の機能が低下したのかも知れません。
そういえば、我が家の猫も…以前はヒトの手をやたらとペロペロ舐めてたなぁと思いだしました。犬猫が飼い主の手を舐めるのは、愛情表現ではなく、「塩が足りなんだよぉ」という悲痛な叫びかも知れません。あなたの飼っておられる犬猫が、塩気のあるものをペロペロ舐めていたら要注意です!塩が足りていないかもしれません。
人間の食べもの、特にジャンクフードは濃い味付けになっていて塩分濃度も高いので、犬猫に与えてはいけませんということになっていますが、人間も出来るだけ避けた方が好ましい食べものではありますね。
スイカを食べるときは塩を振りましょう!
とはいえ、野菜や果物には塩分がほとんど含まれていないので、これらに「塩を足す」のはバランス的に理にかなっています。野菜や果物にはカリウムが多く含まれていて塩分の元、ナトリウムはほぼ入っていません。ナトリウムとカリウムはペアで「ブラザーイオン」と呼ばれ、体内でお互いに協力し合って働きますので、同時に摂ることは有益です。写真はスイカですが、スイカにも塩分はほぼありません。塩を振って食べましょう!
◆小宮 みぎわ 獣医師/滋賀県近江八幡市「キャットクリニック ~犬も診ます~」代表。2003年より動物病院勤務。治療が困難な病気、慢性の病気などに対して、漢方治療や分子栄養学を取り入れた治療が有効な症例を経験し、これらの治療を積極的に行うため2019年4月に開院。慢性病のひとつである循環器病に関して、学会認定医を取得。