タコを食べる風習【半夏生】って?タコの栄養とおすすめの食べ方
タコの栄養を栄養士が解説
季節の移り変わりを把握するための日本独自の暦で雑節(ざっせつ)の一つ、「半夏生(はんげしょう)」をご存知でしょうか。2025年は7月1日から5日間が該当します。農作業の大切な節目で、関西地方などでは半夏生にタコを食べる風習があります。その意味やタコの栄養について解説したいと思います。
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「半夏生(はんげしょう)」とは?
半夏生の由来になった「半夏」(別名:カラスビシャク)。薬草であり毒草としても知られています。
半夏生は毎年同じ日ではなく、太陽の位置によって決まります。夏至から数えて11日目頃からの5日間にあたり、7月1日または2日に始まることが多いようです。不思議な名前は、「半夏(はんげ)」と呼ばれる薬草(別名:からすびしゃく)が、この時期に生えることが由来とか。
半夏とは別に「半夏生」という植物も存在します。葉の色が変化する時期が半夏生に重なることから名付けられたと言われています。
この半夏が咲く頃までに田植えを終わらせる合図として活用され、天候不順などで農作業が遅れた場合も半夏生以降は田植えを行わないそうです。半夏生以降に植えられた稲は、秋までに十分実らず収穫量が減ってしまうとされてきました。昨年からの米不足と価格高騰を実感している一人として、どうか無事に滞りなく田植えが終わりますようにと祈りたくなります。
半夏生の頃の雨には要注意
また、半夏生は「天から毒が降る」物忌みの日とされてきました。地域によって、「働くことを控える」「この日に収穫した野菜は食べない」「竹やぶに入ってはいけない」など、さまざまな禁忌が言い伝えられてきたそうです。半夏生に降る雨は「半夏雨(はんげあめ)」とも呼ばれ、「この日に降ると大雨が続く」などの言い伝えも。農作業に励んできた人々に休息をすすめ、梅雨明け間近の大雨は河川の氾濫などの水害が起こりやすいので警戒せよという意味が込められているのかも知れません。
半夏生にタコを食べる理由は?
日本近海に60種類ほどのタコが生息し、代表的なのがマダコ(写真)、ミズダコ、イイダコ、ヤナギダコです。
半夏生の行事食として主に関西地方でポピュラーなのが「タコ(蛸)」です。半夏生が近づくとスーパーなどでよく見かけるようになります。半夏生にタコを食べる意味には諸説ありますが、「田植えを終えた稲が、8本足のタコのように八方へ根を張り、豊作になりますように」との願いが込められているそうです。
栄養面では、タコは低脂質かつ良質なたんぱく質が含まれ、疲労回復や血中コレステロール低下作用、肝臓の解毒機能を強化するタウリン(アミノ酸の一種)も豊富です。また、不足すると味覚障害を起こしやすい亜鉛、口内炎や肌荒れなどを和らげるビタミンB2、アルコールの分解を促すナイアシンなども含まれています。タウリン豊富で解毒作用があるタコを食べて、農作業の疲れを癒し、天から降ってくる半夏雨の毒を洗い流そうと考えられてきたのかも知れません。
タコの栄養を効果的にいただく食べ方
タコに含まれるタウリンは水溶性なので、炊き込みごはんにして食べる「たこ飯」は理にかなった食べ方です。
また、「酢の物」「カルパッチョ」「マリネ」にすると食酢やレモンに含まれるクエン酸との相乗効果で、より高い疲労回復作用が期待できます。
具体的には、ビタミンCとカリウム豊富なキュウリと組み合わせたタコとキュウリの酢の物、抗酸化作用のあるβカロテン豊富な大葉やバジル、トマトをトッピングしたカルパッチョやマリネなどがおすすめです。
まとめ
なお、タコを食べる以外にも半夏生の風習として、この時期に収穫された新麦で作ったうどんを振る舞う(香川)、小麦を使った半夏生餅を食べる(奈良)、サバの丸焼きを食べる(福井)、餅を食べる(関東)といった地域ごとに異なる養生フードがあるようです。
いずれにしろ、秋に収穫する新米の豊作を祈願し、体の中に毒(疲れ)をためないよう願いが込められたもの。田植えを終えた農家さんに感謝を込め、今秋の新米の豊作を願いながらいただきましょう!
※参考文献:杉田浩一ほか監修『新版 日本食品大事典』医歯薬出版株式会社,2017、久保田紀久枝・森光康次郎編『食品学-食品成分と機能性-』東京化学同人,2017、藤原昌高著『からだにおいしい 魚の便利帳』高橋書店,2010、上西一弘ほか監修『健やかな毎日のための栄養大全』NHK出版,2022、レジア編『日本の食材図鑑』新星出版社,2018
(野村ゆき)