川崎ストーカー殺人 被害相談打ち切りを署長が判断 署と本部の連携「機能不全」 警察庁と県警43人処分
4月に川崎市の住宅で元交際相手からのストーカー被害を訴えていた岡崎彩咲陽(あさひ)さん=当時(20)=の遺体が見つかった事件で、神奈川県警は4日、検証報告書を公表した。署員らがトラブルの危険性や切迫性を「過小評価」し、相談対応の終了を署長のみで判断、県警本部との連携体制は「機能不全」だったと指摘した。再三の救いを求める声に真剣に向き合わず、最悪の結果を招いた組織的責任が浮き彫りになった。(西川侑里)
◆和田県警本部長「不適切な対応、深くおわび」
この日会見をした県警の和田薫本部長は、3日に遺族に直接謝罪をしたことを明かした上で、「不適切な対応について深くおわび申し上げる」と陳謝した。警察庁と県警は4日付で、署長ら5人の懲戒を含む43人を処分・処分相当とした。県警は今後所轄署への指導などを含め、本部の管理体制や手続きを明確化する。
会見で「対処体制に組織的、構造的な問題点があった」などと語る和田薫本部長=神奈川県警本部で
報告書によると、署は昨年6月に岡崎さんの通報で元交際相手の白井秀征被告=殺人罪などで起訴=によるDVを認知。同9〜11月には暴行の被害届を受理し、姉から「(被告が)自宅マンションの駐輪場にいた」などと通報を受けた。
しかし岡崎さんが被害届を取り下げ、また復縁したという申告を受け、署は対応を終えた。報告書では「被害届の取り下げは慎重に扱うべきだった」と指摘し、白井被告への警告などを行う機会を逸したとした。
同12月には、9回にわたり、岡崎さんから「(被告が)自宅付近をうろついていて怖い」などと電話があった。当直署員らは「途中で切られたので真意が分からない」などの理由で、署長への連絡や記録化を怠り、ストーカー事案として岡崎さんや白井被告に接触せず、「組織的な初動対応がなされなかった」。
◆「体制が形骸化、本来の機能が発揮できなかった」
同月下旬には岡崎さんが行方不明となり、身を寄せていた祖母宅の窓ガラスが割れていたが、署員が目視のみで「自分でいなくなった可能性がある」などと親族に伝えた。報告書は「犯罪を視野に入れた捜査を開始する機会を逸しつづけた」とした。
神奈川県警本部=横浜市中区
これに先立つ同年9月、県警本部は、ストーカー被害などの「人身安全関連事案」への対処要領を県内各署に通達。事案対応を終える場合に本部の指導、助言を必要とする内容だったが、通達後も署長判断で事案への対応を終える運用が常態化。11月の相談対応終了後は署内に「解決済み」という認識が広がり、「体制が形骸化、本来の機能が発揮できなかった」という。
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◆現場任せのストーカー相談、見直しを
川崎市のストーカー事件の検証報告書について、ストーカー問題に詳しい紀藤正樹弁護士に話を聞いた。
署長が県警本部に相談をせずに事案への対応を終了する運用が常態化していたことに、紀藤弁護士は「驚いた。現場任せにすれば(問題が解決したなどの)先入観が働く可能性は排除できない」と批判した。
ストーカー問題に詳しい紀藤正樹弁護士
ストーカー被害について「いったん終息しても、継続して行われる傾向があり、今回のように重篤な結果につながり得る。また、被害者が報復を恐れて『大事にしたくない』という判断が働きやすい特徴を理解する必要がある」と話す。
一方で、ストーカー事件の捜査を巡っては、現場で判断する難しさをこう指摘する。「警察に寄せられる相談の中には妄想などによるものが含まれているのも事実で、偏見を持たれやすい」
再発防止に向け、「新たに被害の相談があればすべて本部に報告するなど、個人の主観に頼らない体制を整備しなければ、また同じことが起こる」と警鐘を鳴らしている。
川崎市のストーカー事件 昨年12月から行方不明になっていた川崎市川崎区のアルバイト岡崎さんの遺体が今年4月、元交際相手で川崎区の白井被告=当時(27)=の自宅で見つかった。県警は死体を遺棄したとして、5月3日に白井被告を逮捕。ストーカー規制法違反容疑、殺人容疑でも再逮捕した。いずれの罪状でも横浜地検が起訴している。遺体発見後、臨港署などが岡崎さんや家族から再三のストーカー被害相談を受けていたことが分かり、批判を浴びた。
被害者や親族の相談への不適切な対応を認め、「深くお詫び申し上げます」と頭を下げる和田薫本部長=4日午前、神奈川県警本部で
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