大河「べらぼう」終盤へ 蔦重に影響、松平定信演じる井上祐貴「地味で面倒な〝敵役〟」

「読書が趣味で、休日は台本か定信に関する本を読んでいます」と話す井上祐貴(松井英幸撮影)
NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(総合、日曜午後8時)が終盤に入った。今後のキーマンは、江戸幕府の老中・田沼意次(渡辺謙)の後任、松平定信(井上祐貴)だ。商業重視で庶民文化を後押しした田沼から一転、倹約に徹する「寛政の改革」で知られる。定信役の井上は「敵役に見えるが、すべて国をよくするため」と信念を貫く人物ととらえる。

「べらぼう」で井上が演じる松平定信
面倒くさく地味…
「衣装が質素で、汚れが目立たない黒や茶色ばかり。倹約精神を表していて地味で、お堅い面倒な人物です」と苦笑する井上。
田沼政治で腐敗が進み、天明の飢饉(ききん)も重なった江戸後期、定信は幕府の財政難脱却のため、寛政の改革を断行した。その一環として出版統制を行い、主人公の江戸のメディア王、蔦屋重三郎(横浜流星)に影響を及ぼしていく。

大河に全力投球中だが、息抜きは「格闘技を見ること」と話す井上祐貴(松井英幸撮影)
「蔦重目線だと対立してしまう人物ですが、定信自身、(蔦重も出版した)黄表紙が好きで、蔦重と敵対したいわけではない。あくまで国をよくするため、行動した人物です。蔦重と会わなくても、対立できるのが面白いところですね」
大河出演は、令和5年の「どうする家康」で家康の部下を演じて以来。時代劇は撮影前の準備にメークなど2時間近くかかり、所作の習得も求められるためハードルは高いが、大河出演を一つの目標としていただけに全力で取り組んだ。「前回出演で、特に年長の視聴者からの認知度が上がり、とてもうれしかった」

目力の強い井上祐貴。難解な長ぜりふは「お風呂や散歩中に覚えています」(松井英幸撮影)
定信役の打診を受け、「普段の自分とは正反対の役だからこそ、最も挑戦的な仕事になる」と確信。11代将軍、徳川家斉に仕える老中首座という高位ゆえの難しさがあるという。
「老中は基本的に動かないので、内面から出る圧力をどう表現するか、目の表現など研究しています。定信は理屈っぽく、文学オタクで言葉も特殊。演じる上でそれが大変」
難解なせりふを早口でまくし立てるため、風呂の中で呪文のようにせりふを唱える毎日だ。
渡辺謙との攻防
政敵・田沼を演じる大ベテラン、渡辺との丁々発止の攻防の場面も多く、それは「大きな財産」と話す。
「こちらが台本から想像したイメージを、謙さんは撮影で『こう来る!?』といい意味で裏切ってくる。その緊張感、張り詰めた空気が楽しい。歴史上、定信は田沼より強くなければいけませんが、井上祐貴としては負けそうでした」
平成8年、広島県出身。大学時代、ホリプロの新人オーディションを経て、平成30年に俳優デビュー。NHKのドラマ「大奥」(令和5年)や連続テレビ小説「虎に翼」(6年)の星朋一役など、NHKドラマへの出演で確実にステップアップしてきた。
「井上祐貴なら、どう演じるかと思われる俳優になりたい」。爽やかな素顔とは正反対の役どころに注目だ。(飯塚友子)
都内5館で「蔦重手引草」
秋の展覧会シーズンを迎え、専門性のある東京都内5館が連携し、蔦重の世界をそれぞれの切り口で見せる「蔦重手引草」が始まった。
浮世絵専門の太田記念美術館(渋谷区)は11月3日まで、「蔦屋重三郎と版元列伝」を開催。蔦重を中心に、江戸から明治にかけ活躍した12の版元の業績を、作品とともに紹介する。
東洋の古典籍コレクションで知られる大東急記念文庫(世田谷区)は10月19日まで、「蔦屋重三郎-江戸には江戸の風が吹く」展で吉原細見などの書物や黄表紙を展示。印刷博物館(文京区)も11月3日まで、「あれもこれも蔦重! お江戸の名プロデューサー蔦屋重三郎」と題し、印刷史における蔦重の役割を、常設展と絡めて見せる。
10月以降も、たばこと塩の博物館(墨田区)と国文学研究資料館(立川市)で、それぞれ子供を対象としたおもちゃ絵、蔦重版印刷物を展示する予定だ。