飲酒運転で時速125キロ、死亡事故起こした少年が持論展開「運転に集中するためスピード出した」

●さいたま地検、異例の訴因変更を請求, ●少年は「危険運転致死罪」の成立を否認, ●「焼酎をロックでコップ3杯飲んだ」, ●「スピードを出せば、事故を起こさないために人や車に注意する」, ●同乗していた友人は「もう行くわ」と言い放ち立ち去った, ●「制御が困難」という検察側の指摘は否定

事件現場の交差点。被害者の車両は、右から左へと横切ろうとしていた(2025年9月1日/筆者撮影)

埼玉県川口市で2024年9月、飲酒後に車を運転し、一方通行の道を逆走して男性を死亡させたとして、危険運転致死などの罪に問われた中国籍の少年(19)の公判が9月3日、さいたま地裁(江見健一裁判長)であった。

被告人質問で、少年は「運転に集中できないと危ないので、一旦考えごとをすべて忘れたいと思ってスピードを出した」などと述べ、時折、涙を流し声をつまらせる一幕もあった。(ライター・学生傍聴人)

●さいたま地検、異例の訴因変更を請求

起訴状などによると、少年は2024年9月29日午前5時43分頃、酒気帯び運転をして、法定速度「時速30キロ」の一方通行の道路を制御困難な高速度で逆走し、通行人や交差点を進行する車や通行人を妨害する目的で、時速125キロで交差点に進入。

交差点を通行していた男性(当時51歳)が運転する車の左側に車の前部を衝突させ、男性を外傷性大動脈解離によって死亡させたとされている。

事件は異例の展開をみせた。

埼玉県警は少年を「危険運転致死」の疑いで逮捕し送検したが、さいたま地検は、法定刑が軽い「過失運転致死」などの容疑でさいたま家裁に送致。家裁は昨年11月、刑事処分が相当として逆送(検察官送致)する決定をし、さいたま地検は過失運転致死罪などで起訴した。

しかし、地検は今年3月、法定刑の重い「危険運転致死罪」を立証できるだけの十分な証拠を得られたとして、さいたま地裁に訴因変更を請求。裁判所がこれを認めて、裁判員裁判で審理されることになった。

●さいたま地検、異例の訴因変更を請求, ●少年は「危険運転致死罪」の成立を否認, ●「焼酎をロックでコップ3杯飲んだ」, ●「スピードを出せば、事故を起こさないために人や車に注意する」, ●同乗していた友人は「もう行くわ」と言い放ち立ち去った, ●「制御が困難」という検察側の指摘は否定

●少年は「危険運転致死罪」の成立を否認

9月2日の初公判、少年は白色のワイシャツに、黒色のズボン姿で現れた。終始下を向いていたが、あどけなさの残る雰囲気があった。

少年は、罪状認否で酒気帯び運転は認めたものの、「私は当時、直前まで交差点に気づいておらず、車が来ていることに気づいていませんでした。私がいつも運転しているときと同じ感覚で車を運転することができていました」と危険運転致死罪の成立を否認した。

弁護人も、危険運転致死罪ではなく、注意義務を怠った過失運転致死罪にとどまると主張。もう一度家裁に送り、刑罰ではなく少年院送致などの保護処分が相当であるとうったえた。

この裁判の争点は、次の3つに絞られた。

(1)危険運転致死罪が成立するか

(2)少年に刑罰を科すべきか保護処分にとどめるべきか

(3)刑罰を科す場合の量刑はどの程度であるか

検察側の証拠によると、少年の車は、被害者の車両と衝突するわずか1.65秒前の時点で時速116キロ出ており、アクセルを100%踏み込み、ブレーキはかけていなかったという。

さらに、衝突直前の0.65秒前には時速125キロで、アクセルは87%の踏み込み、ブレーキはかけていなかった。

検察側は、これらの証拠や道路が幅員2.8メートルと狭いことなどの事情から「車の制御は困難だった」などとして危険運転致死罪に該当すると主張した。

●さいたま地検、異例の訴因変更を請求, ●少年は「危険運転致死罪」の成立を否認, ●「焼酎をロックでコップ3杯飲んだ」, ●「スピードを出せば、事故を起こさないために人や車に注意する」, ●同乗していた友人は「もう行くわ」と言い放ち立ち去った, ●「制御が困難」という検察側の指摘は否定

●「焼酎をロックでコップ3杯飲んだ」

検察側や弁護側の冒頭陳述によると、事件の詳細はこうだ。

少年は、事件を起こす3カ月前の2024年6月に運転免許を取得。事件前日から交際相手などと静岡県熱海市に旅行しており、その際にレンタカーを借りた。

事件当日、旅行を終えて交際相手などと別れたあと、さらに別の友人を誘ってカラオケ店に向かった。そこで未成年であるにもかかわらず飲酒。逮捕時、警察に「焼酎をロックでコップ3杯飲んだ」と供述している。

その後、友人を車に乗せて9.3キロの距離を運転し、事件を起こすに至った。

●さいたま地検、異例の訴因変更を請求, ●少年は「危険運転致死罪」の成立を否認, ●「焼酎をロックでコップ3杯飲んだ」, ●「スピードを出せば、事故を起こさないために人や車に注意する」, ●同乗していた友人は「もう行くわ」と言い放ち立ち去った, ●「制御が困難」という検察側の指摘は否定

●「スピードを出せば、事故を起こさないために人や車に注意する」

9月3日には被告人質問があった。

法廷通訳人も出席していたが、少年は日本での生活が長いことから、日本語は不自由なく話せるようで、はっきりとした口調で質問に答えた。

少年によると、カラオケ店で飲酒したあと、一度は徒歩で帰宅したという。だが、帰宅後に交際相手からもらったブレスレットがなくなっていることに気づいた。

カラオケ店に忘れてきたと考え、店の電話番号を知っている友人に連絡。「お酒飲んだんだから運転やめなよ」と注意されたが、聞く耳を持たずに車を使ったという。

当時の心境について、少年は法廷で「(運転に)気をつければ大丈夫だろうと思っていました。その時間はまだ電車が動いていなくて、歩くと1時間くらいかかるので」と語った。

また、弁護人から当時の体調を問われると、「自分の感覚では、逆にいつもよりも目がさえていて、フラフラしていなかったので、気をつけて運転すれば大丈夫だと思っていました」と答えた。

友人宅に着いたあと、さらに別の友人に電話し、再び車を走らせて合流。助手席に乗せ、ドライブをはじめた。

しばらく車を走らせて直線道路に差しかかったとき、助手席から「踏んで」と声をかけられたといい、少年は「いいよ、少しくらいなら」と返答し、アクセルを強く踏んだという。

また、加速した理由について問われると、「いろんな考えごとや悩みごとがあって、あまり運転に集中できませんでした。運転に集中できないと危ないので、一旦考えごとをすべて忘れたいなと思い、スピードを出しました」と話した。

●さいたま地検、異例の訴因変更を請求, ●少年は「危険運転致死罪」の成立を否認, ●「焼酎をロックでコップ3杯飲んだ」, ●「スピードを出せば、事故を起こさないために人や車に注意する」, ●同乗していた友人は「もう行くわ」と言い放ち立ち去った, ●「制御が困難」という検察側の指摘は否定

●同乗していた友人は「もう行くわ」と言い放ち立ち去った

そして、少年は持論を展開するようになる。

「スピードを出せば、事故を起こさないために人や車に注意して運転に集中できると思いました」

大きく左にカーブして事件現場の交差点につながる一方通行の道路に進入。その道路には、左側に一方通行の標識が設置され、路面にも大きく描かれていた。

少年はその標識に気づいたというが、さらにアクセルを踏み、時速約90キロ以上のスピードで通過し、加速を続けた。

「(逆走していることに)焦っちゃって、バックするのが苦手なので、人や車がいないなら、早く抜けようと思い、スピードを上げました」

「この道には、交差点はない」と思い込んでいた少年だが、ふと目線を下方に移したところ、「止まれ」の文字に気づいたという。

「足元を見たら『止まれ』とあって、交差点だと思いブレーキを踏みました」

だが、この時点で少年の車は時速125キロ。ブレーキが間に合わず、車の前を横切ろうとした別の車に衝突した。少年は自ら警察や救急に通報した一方、同乗していた友人は「もう行くわ」と言い放ち、その場を立ち去ったと話した。

●さいたま地検、異例の訴因変更を請求, ●少年は「危険運転致死罪」の成立を否認, ●「焼酎をロックでコップ3杯飲んだ」, ●「スピードを出せば、事故を起こさないために人や車に注意する」, ●同乗していた友人は「もう行くわ」と言い放ち立ち去った, ●「制御が困難」という検察側の指摘は否定

●「制御が困難」という検察側の指摘は否定

警察や検察は、道路のくぼみなどを計測するなどの捜査を進め、危険運転致死罪の適用のために証拠を収集していた。

これに対して、少年は「揺れはありましたが、ハンドルが持っていかれるほどの大きな揺れは感じませんでした」と当時を振り返った。

被害者の遺族に対しては、「自分のせいでさみしい思いをさせてしまい、とても申し訳ないことをしたと思います」と涙ながらに謝罪を述べた。

次回は9月5日に検察側の論告などが予定されている。

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