参政党の演説に在日コリアン3世の私が共感してしまった理由

大阪府民に刺さるメッセージ, 観光地化した大阪の現状, 観光客が増えて大阪は良くなったのか?, 参政党の提起した問題を真正面から議論するべき

2025年の参院選で街頭演説する参政党代表の神谷宗幣氏。大阪・難波の高島屋前で撮影(資料写真、2025年7月5日撮影、写真:Pasya/アフロ)

(韓光勲:ライター、社会学研究者)

 先の参議院選挙では参政党が14議席を獲得し躍進した。比例代表では約742万票を集め、政党別では3位となった。

 私の地元、大阪選挙区(定数4)では、新人・宮出千慧氏が初当選を果たした(約51万票、3位)。参議院比例選においては、大阪府で約52万票(得票率約13%)を獲得した。自民党(約48万票、得票率約11%)を抜いて2位だった。1位は日本維新の会で、115万票(得票率約27%)。それでも維新は前回より約29万票減らした。

 参政党躍進の理由として、梅村みずほ参議院議員(元日本維新の会)が入党し政党要件を満たしてメディア露出が増えたこと、地方議会で存在感を高めていたこと、各紙のファクトチェックが逆効果だったことなどが指摘される。そのほか、「陰謀論的な主張が根強い支持者を生み出した」「SNS活用が巧みだった」「いろんな政策をつぎはぎしている」など、様々な論評がなされている。

 どの説もしっくりこない。決め手に欠ける。参政党支持者の傾向とかマインドを客観的に分析するのみで、「当事者の話」という感じがしないのだ。出口調査やアンケートの統計データを分析するだけでは取りこぼされる部分がある。

 私は大阪市で生まれ育った在日コリアン3世(32歳)である。韓国籍のため投票はできない。だが、大阪府民として選挙戦を見ていて、参政党が大阪の住民の心を掴んだ理由が分かる気がする。以下では、なぜ参政党が支持を増やしたのか、大阪府民の立場から考えてみたい。

大阪府民に刺さるメッセージ

 まず、神谷宗幣代表の街頭演説の一部を書き起こしてみる。2025年6月1日に神谷氏が京橋駅(大阪市都島区)で行った演説である(YouTube動画の8分36秒から)。

「大阪府民はカジノいらないって言ってるんですよ。一部の人たちが無理やりメディアと組んで、なんかね、IRだカジノだなんてやってるわけですよね。身を切る改革の出てきたお金をそんなところに使うなって話じゃないですか。それだったら税金下げてくださいよ。大阪の府民税下げてくださいよ。大阪の学校の先生の給料をもっと上げてくださいよ。公立高校潰さないでくださいよ。なんで公共サービスを削ってカジノを作るんだよ!」

 この演説を聞いて、大阪の現状に不満を持つ有権者の心情を深く理解したメッセージだと思った。実は、私も共感した。私が普段感じていたモヤモヤがはっきりと言語化されていたからである。順に説明していこう。

 大阪府では定員割れの府立高校を募集停止とする政策が進んでいる。2012年以降、大阪府は定員割れが続く府立高校を募集停止し再編している。府立高校募集停止のニュースは、今や大阪府教育委員会の発表をただ伝えるだけのベタ記事扱いである。社会面ですらなく地域面に小さな記事が載るだけ。新聞社はすでに府立高校募集停止を重要なニュースとしては扱っていない。

 私は生まれてこの方、大阪市内に住んできた。大阪市内の府立高校を卒業した。府立高校がなくなるのは地域住民にとっては大変なことである。まちから高校生がいなくなると如実に活気が失われる。高校の文化祭には地域住民も参加する。地元の祭りでは高校生が担い手として活躍する。府立高校が地域に与えるプラスの影響は甚大なものがある。

 大阪府は少子化が見込まれるとして、現在136校ある府立高校を今後15年間で32校減らすことが適正だとする試算を発表している。これは府立高校と地域との関係を完全に無視した驚くべき試算だが、反対運動が盛り上がっているわけでもない。行政の決めたことには誰も逆らえない。少子化の波には勝てない。大阪府民はそう諦めていた。

 そうかと思うと、国政政党である日本維新の会は自民党に取り入り、莫大な税金を投入して全国的な私立高校無償化政策を実現してしまった。これは大阪府で行われていた政策を全国化しただけである。

 大阪府では2024年度から私立高校を含めたすべての高校が段階的に無償化となり、2026年度は完全に無償化される(参考:「授業料『完全無償化』 知事は意義強調、財政負担は?府外の高校は?」朝日新聞)。

 この政策は強烈だった。反動として府立高校の志望者が激減したのである。なんと、公立全日制高校128校のうち、約半数の65校で倍率が1倍を下回った(参考:「私学無償化の衝撃、大阪の公立高校の約半数が倍率1倍以下に 人気校の寝屋川、八尾も」産経新聞)。

 私立高校の無償化によって公立高校の志望者を減らす。定員割れを理由として府立高校を募集停止とする。正直、全くわけが分からない。自作自演ではないか。私立高校に投入するお金は府立高校に配分した方がいいのではないか。府立高校の再編は「維新が決めたことだから仕方ない」のだろうか。

 いま、大阪ではIR・カジノの建設が決まり、すでに既成事実として扱われている。カジノは確かにお金を生み出すだろうし、税収にもつながるのかもしれない。しかし、地域の治安が良くなるとはどうしても思えない。漠然とした不安が正直ある。

「夢洲は人が住んでないからよい」ということなのかもしれないが、カジノ目当ての観光客ばかりになると、大阪はどうなってしまうのか。私の最寄り駅は夢洲につながっている。電車がカジノ目当ての観光客で埋め尽くされると考えると、正直うんざりする。カジノができても住民に恩恵があるとは思えない──。こういう不安を抱えた人は一定数いるはずだ。

大阪府民に刺さるメッセージ, 観光地化した大阪の現状, 観光客が増えて大阪は良くなったのか?, 参政党の提起した問題を真正面から議論するべき

大阪市内の民家に掲げられた参政党の旗(筆者撮影)

観光地化した大阪の現状

 ここで、維新政権下の大阪の現状に触れておきたい。

 私の住む大阪市内の区では、外国人の比率が15%を超えている。移民社会がすでに到来しているのだ。住民と外国人観光客との軋轢は私の身の回りでも生じている。

 最近、大阪では、維新政権が推進した「特区民泊」のあり方が大きな問題となっている。通常の民泊は年間で180日までしか営業できないという制限があるが、国家戦略特区に基づく特区民泊は制限がない。大阪市は2016年に特区民泊を導入し、なんと全国の約9割の特区民泊(約6000施設)が集中している。

 私の家の近くにも特区民泊がいくつかある。ここ数年、私自身が特区民泊の生み出すゴミ問題、騒音問題に悩まされてきた。

 家から30メートルほどの場所にある特区民泊は制度導入からほどなくして作られた。最初の1年間、宿泊客はゴミの日でもないのにゴミを出して帰った。ゴミの分別さえしていなかった。私はその様子を見つけて観光客に注意したこともあったが、らちがあかなかった。大家は全く姿を見せない。掃除は業者に頼んでいるのか、中国人の女性が来て掃除をしていた。日本語が通じなかった。グーグル翻訳を使って、ゴミの日が決まっていること、分別が必要なことを伝えた。このやり取りを5回くらい繰り返してやっと分かってもらった。1年後にようやく改善された。

 最近、また別の箇所の特区民泊に泊まっている外国人観光客が、隣の家の前でタバコを吸っていた。夜10時。家の周辺は本来は静かな場所で、こんな時間に出歩く人はまれ。タバコを吸いながら大声で通話をしていた。うるさい。見た目と言葉で判断すると欧米人だった。

 タバコをその辺に捨てるのは目に見えている。隣の家に住むおじさん(日本人)は身体障害があり、路上に落ちた小さな吸い殻の掃除はできない。その人は私が幼い頃からの顔馴染みでいつも大きな声で挨拶をしてくれる。昔から優しくしてくれたおじさんだ。「おじさんの家の前でタバコを吸ってほしくない」と強く思った。観光客に対してタバコを吸わないよう注意をしようと思ったが、韓国出身の父に止められてやめた。父はもめ事を嫌う。次の日に見ると、やはりタバコはポイ捨てされていた。「一見さん」の観光客が知るはずはないが、大阪市内では2025年から条例によって屋外喫煙は禁止されている。やり切れない思いが募った。「特区民泊は無くなってほしい」と心底思った。

 私は韓国籍を持つ在日コリアンである。大阪市内で生まれ育ったとはいえ、自分も外国籍だから、外国人観光客にはなるべく寛容でありたいと思っている。でも、最近はちょっと我慢できなくなってきた。家の近くで明らかにポイ捨てのゴミが増えたのだ。

 観光客は大きなワンボックスカーに乗って大勢やってくる。明らかに「白タク」(無許可タクシー)である。関西国際空港では白タクが横行している(参考動画:MBS NEWS)。関空から直行で大阪の中心部まで来ることができたら確かに便利かもしれない。でも違法である。こんなに堂々と違法行為がまかり通っていいのか。警察は取り締まりをしないのか。

観光客が増えて大阪は良くなったのか?

 やるせないのは、私は韓国籍なので、日本人からは「外国人」として一括りにして見られてしまうことである。「外国人観光客が日本のルールを守っていない」という言説は一定の真理を含んでいる。私も身近な場面でよく遭遇する。これに反論はできない。

 では、「“外国人”が日本のルールを無視している」という言説はどうか。「観光客」が抜け落ちているが、最近はこれに反論するのも難しいと思ってしまう。短期滞在の外国人観光客と私のような定住外国人は本来は全く違う存在だが、その説明はややこしい。両者を混同してしまう人がいるのは仕方ないと諦めている。定住外国人に日常で接する人はそんなに多くないと思うからだ。

 実は、私自身が「外国人観光客に地元を奪われてしまった」という感覚を持っている。私が幼い頃からよく遊んだ難波・道頓堀付近は観光客が多すぎてもう近づけなくなった。

 小学生の頃は両親によく連れて行ってもらった。人はそんなに多くなかった。「なんばグランド花月」で吉本新喜劇を見るのが大好きだった。待ち時間にたこ焼きを食べて、吉本を見た帰りには立ち食いの「金龍ラーメン」に行く。「551」のアイスキャンデーを食べる。「りくろーおじさん」のチーズケーキを買って帰る。今や、これらの店は観光客が長い行列を作り、地元住民は利用できなくなった。私の家族はもう道頓堀には近寄らなくなった。

 観光客が増えて大阪は良くなったのか。大阪市内に30年以上住む私にとって答えは「NO」である。

 私立高校を無償化して府立高校を募集停止に追い込む。IR・カジノをつくる。特区民泊で街中全体をホテルのようにする。住民の居場所をなくす。「観光客ファースト」のまちづくり。これが維新政権下の大阪で起きていることである。

大阪府民に刺さるメッセージ, 観光地化した大阪の現状, 観光客が増えて大阪は良くなったのか?, 参政党の提起した問題を真正面から議論するべき

大阪市内の民家のシャッターに書かれた参政党の理念(筆者撮影)

参政党の提起した問題を真正面から議論するべき

 私は「日本人ファースト」といった標語を支持したいわけではない。しかし、観光客ファーストのまちづくりが進められた結果、住民は置いてけぼりになってしまった。

 大阪に来て楽しんでくれることは別にいい。大いに消費してもらって構わない。でも、せめて生活する場所と観光地は分けてほしい。特区民泊が生み出すゴミ、騒音問題にはほとほとウンザリしている。私の愛した大阪はかつての姿とは変わり果ててしまった──。参政党はそんな住民心理をうまく掴んだ。

 本当に大阪のIR・カジノをやめさせ、府立高校削減をやめさせ、「観光客ファースト」のまちづくりをやめさせてくれるのか? 神谷氏がどこまで本気で言ってるのかは正直分からない。でも、演説を聞いた限りでは「この人は今の大阪の現状への不満を代弁してくれる人だ」という印象を持った。有権者の心に響くメッセージを効果的に届けたのが躍進の理由であろう。

 神谷代表としては「住民ファースト」と言ってもよいのだろうが、現在の日本で選挙権を持っているのは日本国籍の日本人のみである。この事実は動かせない。そうなると、「住民ファースト」を選挙用に言い換えると「日本人ファースト」になってしまう。ここまで考えると、「日本人ファースト」という標語にもあまり反対できなくなる。それがたとえ韓国籍を持つ私にとって差別的なものであろうとも、だ。

 繰り返しになるが、参政党の躍進は有権者を揺さぶるメッセージを効果的に発信しているからだ。シンプルな理由である。参政党は今後の日本政治において重要な位置を占めるはずだ。そうであるならば、参政党が提起した問題を政界も国民も真正面から議論していくべきだろう。それが民主主義の作法だからである。

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