「自民党は話にならん」 北陸新幹線“大阪延伸”迷走、もはや小浜派・米原派ともにうんざり――党内混乱で前に進めない現実とは

党4役辞任の意向で混乱がさらに深刻化

 北陸新幹線の大阪延伸ルート再検証が「石破おろし」による自民党内の混乱で暗礁に乗り上げている。沿線地方自治体の小浜派、米原派とも頭が痛い。

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「国民の期待に応えられなかった点をおわびする。党として課題に立ち向かい、道筋を示すのが私の責任であり、責任から逃げることなく、然るべきときに決断するのが私の責務」

東京都内の自民党本部で9月2日開かれた両院議員総会。あいさつで自民党総裁の石破茂首相はあらためて出席議員に頭を下げたが、退陣の意向は示さなかった。

 総会の議題は惨敗を喫した7月の参院選総括。「解党的出直しが必要」とする総括結果が報告され、森山裕幹事長、小野寺五典政調会長、鈴木俊一総務会長、木原誠二選対委員長の党4役が参院選敗北の責任を取って辞任する意向を石破首相に伝えた。

 党内は石破首相に退陣を求める「石破おろし」の動きが広がっている。事実上の退陣勧告といえる前倒し総裁選実施の是非は8日に判断される見通しで、党内の混乱はさらに深刻さを増してきた。その余波は北陸新幹線大阪延伸にも及んでいる。

再検証迫られる延伸ルート問題

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小浜・京都ルート延伸を待ち望む小浜市(画像:高田泰)

 大阪延伸は2016年、福井県の敦賀市から小浜市経由で京都府に入り、京都市と京田辺市に駅を置いて大阪市へ向かう小浜・京都ルートと決まった。

 しかし、京都府民の反対で着工できないなか、延伸ルートの是非が争点に浮上した参院選京都選挙区で、他ルート検討を訴える日本維新の会新人が大差でトップ当選し、ルートを再検証することになった。

 再検証の対象は小浜・京都ルート、敦賀市と滋賀県米原市を結ぶ米原ルート、小浜市から京都府舞鶴市を経て京都市へ向かう舞鶴ルート。与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)で8月中に始める方向だったが、PTの下部組織に当たる与党整備委員会が国土交通省に工期や費用などの試算を求めただけで、再検証が始まらないまま9月に入った。

 与党整備委員会の西田昌司委員長は8月末の自民党整備新幹線等鉄道調査会で「総裁選前倒しを実施するかどうかなど与党の方向性が決まるまでPTの開催が難しい」と報告した。

大阪府が米原ルート検討を国交省に要請

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米原ルートの終着駅となる米原駅(画像:高田泰)

 沿線と周辺の府県では、福井、富山、滋賀の3県が小浜・京都ルートを推す。これに対し、石川県では小松市など南加賀地方の自治体、金沢経済同友会などに米原ルートへの変更を求める声があり、大阪府は参院選京都選挙区の結果を踏まえ、

「米原ルート再考」

を訴えている。

 勢いを増しているのは米原派だ。石川県金沢市で8月に開かれた北陸新幹線建設促進石川県民会議の総会では、小浜・京都ルートでの認可・着工が3年連続で見送られていることを問題視、京都の課題解決について年内にめどをつけるか、解決のめどが立たないなら米原ルートを含めて方策を早急に検討するよう求めることを決議した。

 馳浩石川県知事は小浜・京都ルートを否定していないが、「いつまでも待っていられない」としている。金沢市片町の飲食店主は

「北陸新幹線は京都、大阪とつながって初めて意味を持つ。参院選後、ルートを再検証すると聞き、すぐに米原ルートで決着すると思っていたのに」

と与党の動きがストップしていることに首をかしげる。

 小松市総合政策部は「建設コスト上昇など着工の前提条件が変わってきた以上、米原ルートがよい。全国的な議論のうえで1日も早い全線開業を望んでいる」と述べた。

 大阪府は8月上旬、米原ルートの再検討を求める要望書を国交省に提出した。小浜・京都ルートで建設費の上振れが想定されるためで、吉村洋文知事は記者会見で「米原ルートも比較検討をして判断するほうが1日も早い全線開業につながる」と述べている。

 しかし、再検証は一向に進まない。大阪市西成区の会社役員は

「小浜・京都ルートが動かない以上、早期開通できそうなところを探す知事の動きは当然。それに比べ、国政そっちのけで党内抗争に明け暮れる自民党は話にならん」

と憤りを隠さない。

 小浜・京都ルートを推してきた大阪府が米原ルート検討にかじを切ったこともあり、関西広域連合や関西経済連合会などは8月下旬に大阪市で開催を予定していた小浜・京都ルート推進のシンポジウムを中止した。

小浜市はルートの詳細決定待たずにまちづくり検討

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大阪方面の延伸ルートが決まらない敦賀駅(画像:高田泰)

 小浜・京都ルートの推進派は2026年度の認可・着工を目指している。しかし、京都府市の説得に進展はないまま。国交省はやむなく、2026年度予算の概算要求を金額を示さない形にした。京都府市を説得し、2026年度認可・着工を実現する時間は残り少ない。それなのに、自民党内の混乱でさらにその時間が失われている。

 福井県新幹線建設推進課は「自民党関係者も残り時間のことは考えていると思う」と援護するが、敦賀市神楽町の商店主は

「嶺南活性化には小浜へ新幹線を通すことが欠かせない。大事な時間を党内抗争に費やさず、京都を早く説得してほしい」

と不満を訴えた。

 JR東小浜駅近くに北陸新幹線の新駅設置が予定されている小浜市は、詳細な位置決定を待たずに新駅周辺のまちづくり検討を始めた。3年続けて事業を先延ばししてきたが、「もう待てない」という思いが市役所内にあるからだ。

 小浜市では小浜商工会議所が中心となった住民団体や嶺南地方の若手経営者らで組織する有志団体が今春発足し、署名集めやイベント開催などで小浜・京都ルート推進を訴えている。小浜市新幹線・交通政策課は「推進に向けた市民の動きが高まってきたが、今は自民党内の状況を注視するしかない」と困惑する。

 2024年の衆院選、6月の東京都議選に続いて参院選でも大敗を喫しながら、首相の椅子にしがみついて退陣を拒む石破首相、自民党支持者を大量に失うきっかけをつくったにもかかわらず、「石破おろし」に奔走する裏金議員。

「国民目線とかけ離れた自民党内の抗争」

に、小浜派、米原派とも厳しい目を向け始めた。