天下一品「大量閉店」の跡地にできたラーメンチェーンの「低評価レビュー」が目立つ…その理由とこれからの勝算

いささか、辛口では?

今年6月末をもって、ラーメンチェーン「天下一品」の首都圏店舗が多数閉店した。天下一品は鶏ガラと野菜をじっくり煮込んだスープが特徴で、ラーメン界に「こってり」ブームを起こした時代の寵児とも言える存在だ。「強火の」ファンが多く、そのこともあり、SNSやネットメディアでは閉店ラッシュを惜しむ声が相次いだ。ちなみに筆者も5月に〈天下一品「閉店ラッシュ」がSNSで話題に…ラーメン原価高で「つけ麺ブーム」に取って代わられた過酷な現実〉という記事を執筆している。

その閉店ラッシュから間髪入れず、跡地に次々と「伍福軒」ブランドのチェーンが入居した。背脂黒醤油ラーメンを軸にした、天下一品とは少し異なるテイストのラーメン店だ。

いささか、辛口では?, マイナスポイントはそんなに多くない, 「中毒性」が人気チェーンのカギに, 舌の肥えたレビュワーが増加, 伍福軒の大きなアドバンテージ

池袋にできた「伍福軒」/編集部撮影

運営会社は、かつて天下一品のフランチャイズを手掛けていた「エムピーキッチンHD」。つけ麺チェーン「三田製麺所」を展開する有名企業が満を持して新ブランドを立ち上げたかたちだ。

だがーー。どの店舗も開店からまだ半年も経っていないが、Googleマップ上での評価は芳しくない。執筆時点でもっとも評価が低い店舗は★2.6、★3.8を獲得している店舗もあるが、軒並み★は3前後で推移している。

あくまで筆者の主観だが、飲食店のGoogleレートは他の口コミサイトのそれとは別基準で考えている。★4.6~5.0は新店か身内の客で回している店、超高級店なので縁がない(と判断する)ことが多く、★4.3~4.5くらいだと超人気店(予約の取りやすさと兼ね合い)、★4.0~4.2くらいだと使いやすい人気店(予算次第)という印象で店を眺めている。

★4を下回るとなんらかの「至らなかった点」がレビューされているケースが多く、★3.8からそれが顕著になり、★3.6以下くらいから「他に選択肢があればそちらに行く」決断をするようになる。なお、逆に一部レビュアーの執拗なネガキャンにより不当に評価を落としている良店もあるので、いちばんレビューを読みこむのはこのレンジだのだが。

チェーン店はGoogleで高評価を得づらいのは事実だ。外国人従業員の接客や衛生面、混雑によるオペレーションのミスなど、ケチのつけどころはいくらでもある。だからレビューの判断基準も7掛けくらいで見るのが適切だと思うが、それにしても、伍福軒に対していささか辛口(低評価が多すぎ)なのではないか…というのが、筆者が最初に抱いた感想だ。その原因を推察するべく、筆者は池袋店を訪れた。

マイナスポイントはそんなに多くない

池袋北口から歩いて程なくして到着する池袋店は、たしかに天下一品の跡地に軒を構えている。入り口でキャッシュレス(交通系、ID、タッチ決済など)に対応していることを確認した。これはキャッシュレス時代に抗い続けた天下一品との大きな違いである。また、製麺のトップブランドである「菅野製麺所 特製」の看板が立てかけられていた。

平日の11時台に入店したが、客は10人ほどでそこそこの入りだ。QRコードで注文するのは天下一品と同じ。背脂黒醤油ラーメン(並)と黒ヤキメシがセットになっている黒ヤキメシ定食(税込1055円)を注文した。

10分ほどで定食が運ばれてくる。ラーメンにはチャーシュー2枚、メンマ、ネギ、そして背脂がトッピングされている。真っ黒いスープをすすると、見た目ほど風味やパンチは強くない。背脂もそこまで押してくるテイストではなく、スープと黒ヤキメシそれぞれから、やや強い塩気を感じた。

いささか、辛口では?, マイナスポイントはそんなに多くない, 「中毒性」が人気チェーンのカギに, 舌の肥えたレビュワーが増加, 伍福軒の大きなアドバンテージ

黒ヤキメシ定食/編集部撮影

筆者が繊細な味覚を持ち合わせないためか、感じたマイナスポイントはそれくらいだった。想像していたよりもオペレーションは普通で、キャッシュレス決済も利用可能、セットで1000円をわずかに上回る「1000円の壁」に向き合う価格設定など、ポジティブに捉えていい部分も多いのではないだろうか。

オープン直後のオペレーションへのクレームを差しひいたとしても、このような評価に沈んでいるのはなぜなのか。伍福軒各店のレビューを読んでいると、ひとつが筆者と同じように、スープに「塩気の強さ」を感じる一方で「コク」不足を指摘している向きが多かった。

「中毒性」が人気チェーンのカギに

こうした指摘をするレビュワーの一部の脳裏にあるのが、おそらく京都の名店「新福菜館 本店」の中華そばとヤキメシのセットだろう。土日には2時間待ちにもなる京都ラーメン界の雄も、黒いスープと黒いチャーハンが印象的だ。伍福軒は「東京背脂黒醤油ラーメン」を名乗り一線を画すが、このセットをチェーンの軸にしておきながら新福菜館の存在を知らないと言うには無理がある。

京都の名店と新興チェーン店のスープを比較してしまえば、たしかに及ばないところもあるだろう。はっきり「東京」と銘打っていることも含め、着想だけ拝借したものではないと、差別化を打ち出す必要が今後出てくるのは確かだ。

またチャーシューの質と量について触れられるレビューも多い。これは輸入豚肉の高騰が止まらないことも影響しているだろう。チェーン店に限らず、原材料の価格高騰で閉店を余儀なくされるラーメン店は多い。

優勝劣敗が進むラーメン界で、勝ち残っている店とはどこかーーというと、ひとつの勝ち筋は「中毒性」である。俗に言うG系ラーメンや「蒙古タンメン 中本」のような旨辛系、そして「こってり」系だ。

いま関東圏で強い勢力となっているラーメンチェーンといえば、濃厚豚骨スープが特徴の「山岡家」、京都発祥の「魁力屋」、そして味噌ラーメンで覇権を狙う「味噌らーめん専門店 麺場 田所商店」ではないだろうか。こってり度合いには濃淡があるが、いずれも「コク」を重視し、分量的にも満腹感の高い盛り付けになっている。

舌の肥えたレビュワーが増加

伍福軒もスープの旨味と背脂(のコク)を打ち出しているが、病みつきになるかと言えばもう一歩足りていない印象がある。また公式サイトを比較すると、他のチェーンでは食材や工法への「こだわり」をやりすぎと言うほど打ち出している中で、伍福軒は「毎日食べたくなる、至福の一杯」と当たり障りのないコピーにとどまっている。熱狂的なファンを生み、「天下一品芸人」まで話題になったチェーンの「後釜」を務めるのであれば、もう少し強くてもいいのではないか。 

喜多方ラーメンのようなあっさりとした醤油スープが持ち味の「ちゃん系ラーメン」、ホンビノス貝など貝の旨みを重視した貝出汁ラーメンもニュースタンダードになっている。また近年の街中華ブームで昔ながらの中華そばが見直されている部分もあるだろう。

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天下一品のこってりラーメン/筆者撮影

チェーンから個人店まで、さまざまなジャンルのラーメンが街中にあふれ、日常的に食べ歩く人も多いーーつまり、かつてないほど「グッとくるラーメンを知っている」、つまり「舌が肥えている」人が増えている状況にあるのではないだろうか。

いわば下積みゼロでラーメン界という大舞台(しかも首都圏)でメジャーデビューし、ぶっつけで厳しい世間(レビュワー)の目に晒される。伍福軒の登場に冷たい洗礼が浴びせられたのは、このような要因があったのかもしれない。

では伍福軒は、今後勝機をどこに見出すのだろうか。ひとつには、国内のライト層を手堅く押さえることが挙げられる。

折しも牛丼チェーンの吉野家HD、松屋HDが相次いでラーメン業態の展開を前面に押し出している。世界進出で一定の成功を収めた「一風堂」などに対抗するクローバル戦略の布石としての出店、との見方が強い。

伍福軒の大きなアドバンテージ

それに対し、あくまで国内で、オーソドックスに価格帯と立地を武器にライト層を獲得し続ける戦略は十分にありえる。同じくエムピーキッチンが運営する三田製麺所が着実に都内の一等地で客を獲得しているゆえ、伍福軒にもそのノウハウを活かすことができるはずだ。

近年、ラーメン開発は日進月歩である。スープのOEM開発もさかんで、ラーメン店開店をのぞむオーナーのイメージに合わせて数百種類のスープレシピから好みの味を作り出すメーカーもあると聞く。

新宿や渋谷、池袋といった超一等地に店を構えていること自体、「持たざる者」に対する大きなアドバンテージであり、改良がすすみ歯車が噛み合えば、伍福軒も確固たる地位を確立するだろう。

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