米下院の保守強硬派が軟化、トランプ氏と足並み

フリーダム・コーカスのアンディー・ハリス会長は9月につなぎ予算案を支持する可能性を示唆している

【ワシントン】米下院の保守強硬派グループ「自由議員連盟(フリーダム・コーカス)」はもはや共和党議員の中で最も恐れられる存在ではない。今秋の政府予算を巡る党内の次なる攻防を前に、メンバーは合意をぶち壊すのではなく、成立にこぎ着けるよう協力したいと話す。

正式な名簿は存在しないが約30人の共和党議員からなるフリーダム・コーカスには、ドナルド・トランプ米大統領の2期目で最も声高に発言する反対派の多くが所属しており、トランプ氏の「大きくて美しい」税制・歳出法案や最近の暗号資産(仮想通貨)法案など、重要法案に関して譲れない一線を主張してきた。だが、いざ投票する際には、以前のように法案をつぶそうとはせず、トランプ氏や党指導部と足並みをそろえている。

共和党内の批判的な向きは、こうした態度をやゆして「フォールディング・コーカス(降参する議連)」などと呼んでいる。メンバーはこの変化について、党全体が右寄りに移行したことや、自分たちがトランプ氏の政策の多くを承認していること、同議連指導部の交渉によって歳出削減を勝ち取ったことを反映する自然な進化だと話している。彼らがこの路線にとどまれるかどうかが、痛みを伴う政府機関の閉鎖か予算案で合意かの分かれ目となる可能性がある。

「別の力学が働き、大きな成果を上げている。それで十分かと問われると、分からない」。同議連のメンバー、チップ・ロイ議員(共和、テキサス州)はこう語る。多くの中核的な問題でトランプ氏と立場が一致しているため、「その波に乗らない手はない」。

批判的な向きは、彼らが降伏を繰り返しながら、表面を取り繕っているだけだと話す。フリーダム・コーカスは下院が僅差で分断しているのを利用し、重要法案では態度を保留しつつ、トランプ氏が電話をかけ、ゴールラインを越えるための控えめな約束を申し出ると、賛成に回る手法を採っている、との見立てだ。

チップ・ロイ議員(共和、テキサス州)は、自身を含めたフリーダム・コーカスのメンバーが、多くの中核的な問題でトランプ氏と立場が一致していると話す

「下院崩壊議連」?

ケビン・マッカーシー前下院議長(共和、カリフォルニア州)も何度かフリーダム・コーカスともめたことがある。そして最後の衝突が2023年の自身の解任につながった。マッカーシー氏は「彼らは常に譲れない一線があると言う。だが24時間以内に降参する」と述べた。「守るべき原則がない。ただ目立ちたいだけだ」

同氏は皮肉を込め、彼らを「下院崩壊議連」と呼んでいる。

議連のメンバーは反論する。トランプ氏の税制法案の歳出に対する自分たちの厳しい姿勢が、同僚議員から大きな譲歩を引き出し、ホワイトハウスから行政措置の約束を取り付けることにつながったという。

「何も成果を得ていないと言うのはばかげている」とエリック・バーリソン議員(共和、ミズーリ州)は述べた。「法案がどこまでどのように変わったか、そのためにわれわれがどれだけ戦ったのかを見るべきだ」

共和党が政府の主導権を握る今、フリーダム・コーカスは「単にどんな法案が出てきても阻止するのではなく、独自の政策課題を打ち出し、それを前進させる方法を見いだすことに成功している」。メンバーのベン・クライン議員(共和、バージニア州)はこう述べた。

次の戦いは9月末に迫っている。連邦予算の期限切れに伴い、政府機関の閉鎖が迫る中、議会で引くに引けない攻防が繰り広げられるのが通例だ。だがフリーダム・コーカスのアンディー・ハリス会長(共和、メリーランド州)は、歳出削減につながるのであれば、予算継続決議(CR)と呼ばれるつなぎ予算案を支持することをいとわないと示唆している。

財政赤字を米国の直面する最大の脅威だとみなす同議連は、過去には無責任だとしてそうした決議に強く反対し、賛成するためには目的別の12の通年歳出予算案を全て承認するべきだと要求してきた。だが直近の3月のつなぎ予算案ではメンバー全員が賛成票を投じた。その際、同予算案は歳出水準を同程度に維持し、党指導部が求める膨大な予算案を防げると主張した。

「代替案が歳出増につながる場合、全てのCRが同じではないと私は言ってきた」とハリス氏は8月の休会前に述べた。「われわれは歳出削減の最大化を常に推進する」

フリーダム・コーカスが創設された2015年には民主党がホワイトハウスの主導権を握っていた

トランプ税制法案をめぐる綱引き

今年に入ってトランプ氏の税制・歳出法案を巡り、フリーダム・コーカスは財政赤字が制御不能になっているとして大幅な歳出削減を要求した。メディケイド(低所得者向け医療保険)の支出削減を支持し、10年間で総額2兆ドル(約294兆円)の予算削減を目標に掲げた。

削減規模は目標に及ばなかったが、メンバーによると、メディケイドを標的にし、就労要件を加えたことなどで、全体的な予算規模を抑えたのはフリーダム・コーカスの功績だとしている。また、共和党案で削除されなかったクリーンエネルギー関連の税制優遇措置について、申請を厳格化する約束をホワイトハウスから引き出すのにも寄与したという。

税制・歳出法は1兆6000億ドルの歳出削減を行うが、米議会予算局(CBO)によると、減税で失われる税収がそれを上回り、財政赤字は拡大する見込みだ。

一方、共和党指導部からみると、最近は同議連以外の強硬派の下院議員が最も大きな障害となっている。トーマス・マシー議員(共和、ケンタッキー州)は税制法案に党内で唯一の反対票を投じたほか、マイク・ジョンソン下院議長(共和、ルイジアナ州)の解任に動いたが失敗した。マシー氏は最近のポッドキャスト番組で、同議連を「最も近い協力者」だとしつつも、マージョリー・テイラー・グリーン議員(ジョージア州)やビクトリア・スパーツ議員(インディアナ州)などグループに所属しない人が最も強硬に戦っていると述べた。

10年間の変化

フリーダム・コーカスは草の根保守派運動「ティーパーティー(茶会派)」の流れをくみ、共和党を政策面で右寄りに押し進めることを使命として2015年に創設された。当時は共和党のジョン・ベイナー氏が下院議長を務め、民主党のバラク・オバマ大統領と対立していた。現在は状況が大きく異なる中、新たな姿を見せている。

トランプ氏が移民の強制送還を積極的に進め、多様性プログラムを撤回する中で、フリーダム・コーカスは政権の多くの政策を支持している。下院共和党の指導部と残りの議員団はトランプ氏の強い影響下にあり、同氏が党をそこまで掌握していなかった1期目とは様変わりしている。

「われわれの船は同じ方向に進んでいる」とバーリソン議員は述べた。

同議連メンバーは、指導者の顔ぶれが新しくなったことも要因だと指摘する。ハリス氏は前会長のボブ・グッド元議員(共和、バージニア州)よりも合意に前向きで、メンバーを巻き込むのにたけているという。

グッド氏は2024年の共和党予備選でトランプ氏の怒りを買い、敗北した。同氏は、フリーダム・コーカスは税制法案でいくつか勝利を引き出したが、自分なら賛成票を投じなかったと述べた。また指導スタイルは異なるが、ハリス氏を「大いに尊敬している」と語った。

多くの同議連メンバーはより上位の公職を狙っているため、トランプ氏の機嫌を損ねないよう特に気を配っている可能性がある。

トランプ氏への「大きな恐怖」があり、どれほど信念の固い保守派であっても「その懸念からは免れない」とグッド氏は語る。その恐怖は議員が別の公職に立候補する場合に特に強まるという。