なぜ「車止め」は大胆に盗まれるのか――仙台51本盗難が突きつける「都市インフラの致命的欠陥」
都市防犯インフラ現状
車止めの金属ポールは、駐車場や公園、歩道への不正侵入を防ぐ都市インフラである。多くはステンレスや鋼材で作られ、耐久性と視認性を兼ね備える。直径は60mm前後、高さは80cm程度である。公共施設や民間商業施設でも日常的に使われ、全国に膨大な数が存在する。
【画像】「えぇぇぇぇ!」 これが日産自動車の「平均年収」です! 画像で見る(10枚)
2025年夏、仙台市内で車止め用金属ポールの盗難が相次いだ。背後には制度、経済、技術の複合的な課題がある。
都市インフラの脆弱性
車止めの金属ポール(画像:写真AC)
盗難の直接的な動機は転売である。ステンレスは鉄、クロム、ニッケルを含む合金で、国際市場の影響を受けやすい。2024~2025年にかけてニッケル価格は高止まりし、スクラップ価格も上昇した。
1kgあたり150~200円とすると、仙台市で盗まれた51本、1本15kgの総重量は765kgとなる。換金額は11万~15万円にすぎない。金額は小さいが、入手しやすく防犯が弱い公共物は「低リスク・中リターン」の標的になりやすい。
防犯カメラが設置されていたにもかかわらず、犯行の様子は映っていなかった。これは日本の公共空間における監視システムの限界だろう。自治体は住民のプライバシーに配慮し、カメラの数や角度を制限する場合が多い。その結果、死角が生まれ、盗難犯はそこを狙う。都市インフラは見かけ上監視されていても、実効的には守られていないのである。
自治体が設置する車止めは、入札で標準仕様として大量調達されるため、材質や形状が全国的に画一化している。つまり、盗んで売れる金属の塊が規格品として町中に並んでいる状態だ。設計段階で盗まれる可能性を考慮していないことは、制度的な欠陥である。
埼玉県新座市では、2024年3月、市役所近くの市道に設置されていたステンレス製車止め14本が盗まれ、被害総額は231万円に上った。
盗難抑制の材質転換
車止めの金属ポール(画像:写真AC)
解決策のひとつは、盗んでも価値のない材質への切り替えである。近年、FRPや樹脂コーティングコンクリート製のポールが開発されている。これらは強度と耐久性を確保しつつ、スクラップとしての価値はほぼゼロだ。コストもステンレスより安い。
再利用が難しい複合材を用いれば、転売目的の盗難を抑制できる。耐候性の課題は残るが、自治体が調達方針を変えるだけで盗難リスクは大幅に減らせるだろう。
技術面では、部材に固有番号をレーザー刻印する方法がある。盗まれた場合、市場で識別可能となり、スクラップ業者が受け入れを拒否しやすくなる。欧州では銅線盗難対策として既に普及している。
さらに、AIを用いた低コストの監視システムも有効である。動体検知センサーや赤外線を組み合わせれば、夜間でも自動通報が可能だ。自治体単独での導入が難しい場合でも、地域防犯組合や商業施設と共同運営することで分散型の監視網を構築できる。
都市防犯の構造改革
車止めの金属ポール(画像:写真AC)
英国では2013年に「スクラップメタルディーラー法」が施行され、現金取引の禁止や身元確認の義務化により鉄道ケーブルの盗難が激減した。日本でも同様の制度改正を検討する時期に来ている。
都市空間の防犯は「人が物を盗むかどうか」だけでなく、「物が盗まれやすい設計かどうか」によって左右される。金属製の車止めポールは、大量生産と標準化の産物であり、盗難という新たなリスクに対応できていない。仙台の事件は、その脆弱性を突きつける警鐘となった。
自治体が調達仕様を見直し、民間業者と情報を共有し、技術を導入すれば、公共空間の安全性は大きく向上するだろう。