「ジャングリア沖縄」オープン前の県民感情の実態

ジャングリア沖縄のエントランス(花城綾子撮影)
沖縄初のテーマパーク「ジャングリア沖縄」が7月25日にグランドオープンしてから1カ月。オープン直後からの報道やSNSでの反響を見ると、早くも先行きが不安で、ピンチに陥っているように見える。
【画像を見る】《ジャングリア沖縄》の写真はこちら。のんびりできておすすめな美しい沖縄北部旅の写真も
沖縄県出身・在住である筆者の周りからも、事前のプロモーション内容と実態がかけ離れているなどで「期待外れ」との落胆のリアクションも聞こえてきつつも、今後を見守ろうという空気感も一部あるというのが正直なところだ。
ただし、この「期待」という言葉には、沖縄県内と県外からでは若干違う意味が含まれている。
沖縄県内からの目線でジャングリア沖縄を見た時のキーワードは「北部振興の起爆剤」。沖縄本島の“南北問題”に一石を投じる役割に期待感があった一方で、グランドオープンから間もない現状では多くの課題も浮き彫りとなった。
そこで前編では、沖縄の地域事情を踏まえた上で、「ジャングリア沖縄」オープン前に期待されていた経済効果や沖縄県内の空気感や県民感情、沖縄観光の課題について述べる。続く後編では、オープン後のリアルな沖縄県民の声や台湾インバウンドの目線に加えて、沖縄観光に新しくもたらしたブランディング効果、ジャングリア沖縄を主導する株式会社刀に向けた率直な思いなどを、これからの成功に願いを込めつつ述べたいと思う。
沖縄本島の“南北問題”
最初に説明しておきたい前提の話がある。先に述べた「沖縄本島の“南北問題”」についてだ。
沖縄県の人口約147万人(沖縄県統計、2025年7月時点)の約9割は、面積にして沖縄本島の南半分の4割強にあたる「本島中南部」に集中している。狭い範囲に人口が集中しているため、人口密度は政令指定都市並みだ。加えて、沖縄本島の総面積のうち約15%が米軍基地であることを考えると、実感としてはさらに過密な印象となるだろう。当然、経済活動は本島中南部で活発で、最大都市・那覇は本島南部にあり、主要企業の大半もその周辺に立地している。
一方で北部地域は、場所にもよるが那覇から車で概ね1~2時間程度もかかり、人口が少ないため、特に経済インフラ面で不利な状況にある。そのため、沖縄県と国が2002年に初めて制定した「沖縄振興計画」でも「県土の均衡ある発展」が掲げられており、離島や北部地域の振興が目指すべき目標として存在している。豊かな自然を生かした観光業や農林水産業の活性などに取り組んでいる。

沖縄本島と周辺離島(Google Mapsより)
前置きが長くなったが、そんな現状や背景の中でよく耳にする言葉として「北部振興」があるのだ。
北部振興の“切り札”として地元企業も多額の出資
その「北部振興」の文脈で期待と共に持ち上がってきたのが「ジャングリア沖縄」だった。総事業費は約716億円。そのうち約半分の350億円は民間からの出資金であり、そのさらに7割は「オリオンビール」、小売業などを展開するリウボウグループの親会社「リウボウ」、リゾートホテル業や土建業をグループに持つ「ゆがふホールディングス」など複数の沖縄県内企業からのもので、県内経済界がジャングリア沖縄に抱く期待感は一定程度あったと言える。
また、ジャングリア沖縄が沖縄観光の日程に組み込まれることで、こんな効果も期待される。ある地元紙記者は「ジャングリア沖縄は那覇空港から遠く、行けばほぼ1日中を使う施設です。となると、必然的に沖縄滞在が1泊延びることになります」と話す。
沖縄観光では長らく、滞在日数の少なさと、それに伴う一人当たりの消費額が少ないことが課題の1つになっている。沖縄とハワイの年間の観光客数は一時期コロナ禍での落ち込みはあったものの、両者とも年間約1000万人の水準だ。しかし平均の滞在日数に差が見られ、2019年の沖縄県の調査で、沖縄4~5日間に対し、ハワイは8~9日間。延べ人数で言えば約2倍の違いが生まれているのだ。これらの課題解決の一助としての可能性もあった。

沖縄本島最北部にある辺戸岬からの景観(編集部撮影)
今帰仁村が得た“キャッチフレーズ”
筆者の肌感覚ではあるが、ジャングリア沖縄がある今帰仁村は、沖縄本島北部のうち観光やブランディング面での強みが他市町村と比べると少し弱い印象だった。
名護市は北部の中核都市として存在感を発揮し、最北部の国頭、東、大宜味の「やんばる3村」は、世界自然遺産としても注目を集める「やんばるの森」が残る地域としてブランディング上でも有利に働いた。
本部半島を今帰仁村と分け合う本部町には、沖縄美ら海水族館を含む海洋博公園があり、沖縄観光の一大目玉スポットとして観光客も多い。観光地としての今帰仁村は、古宇利島や今帰仁城跡など有力な観光スポットはあるものの、本部町と比べると訪問客数で開きが出ている。
沖縄県の「観光客⾏動歴分析レポート」によると、2022年度の訪問者数を携帯電話のGPSを基にしたビッグデータから割り出した結果、本部町は今帰仁村に対し3倍もの訪問者を受け入れていた。
しかし、今帰仁村は今や「ジャングリア沖縄がある村」というキャッチフレーズを手にしたとも言える。

今帰仁村の古宇利島にあるハートロック(編集部撮影)
ジャングリア沖縄開業前の地元の空気感

ジャングリア沖縄内のレストラン「パノラマ ダイニング」。ジャングルの世界観をしっかり描いたプロモーション画像とは違って、意外と通路のすぐそばにある(筆者撮影)
LINEヤフー株式会社による「LINEリサーチ」が2025年7月に公表した調査結果によると、全国の15~69歳の男女のうち、ジャングリア沖縄の認知度は全国では約5割程度だったが、沖縄県在住者に関して言えば9割台後半となっており、その存在をほぼ誰もが知っていた。地元の報道では、主に経済ニュースの視点で何年も前から話題にもなっていた。
しかし、ジャングリア沖縄の開業は、認知度の高さの割には「自分たちが行く場所」としての話題性が高いわけではなかったと感じる。「楽しみだね」「待ちきれないね」という人は少なく「せっかく沖縄にできるんだし、いつかは行こう」という人が感覚としては多かったように思う。
というのも、ジャングリア沖縄の想定するターゲット層が、国内の大都市圏に住む人々や海外からのインバウンド客など「沖縄に来て自然を感じたい人」だったため、沖縄県内向けにはそのようなプロモーションがされていなかったからだ。関東・関西・中京・福岡の4エリアでは5月からテレビCMが放送されており「沖縄にすごいテーマパークができる」とお客さん目線で期待を膨らませていたのはむしろ県外の人々だったのだろう。
そのCMでは、大型のオフロード車に乗って、追いかけてくる恐竜から逃げるアトラクションが臨場感あふれる描写で「パワーバカンス」へのワクワク感をそそった。
続く後編では、ジャングリア沖縄オープン後の沖縄県民のリアルな反応、台湾インバウンド目線での考察、沖縄出身記者のジャングリア沖縄を主導する株式会社刀に向けた本音などについて取り上げる。