丸紅の大本晶之社長、時価総額10兆円「次の高み目指す」 アフリカの利益250億円へ

インタビューに応じる丸紅の大本晶之社長(梶山裕生撮影)

丸紅の大本晶之社長は22日までに産経新聞の取材に応じ、時価総額を2031年3月期までに現在の倍の10兆円超に引き上げる目標に意欲を示した。主力地域である米国のほか、成長著しいアフリカも重点地域として位置付け強化する。中東・アフリカ事業の28年3月期の利益を、25年3月期比で約25%増の250億円に引き上げる計画だ。主なやり取りは次の通り。

--時価総額を31年3月期までに現在の倍の10兆円超に引き上げる経営目標を打ち出した。「10兆円クラブ」入りを果たした商社は上位3社のみ

「一度社外に出て戻ってきた経験があるので、外から見た客観的な評価も踏まえて言うが、丸紅は過小評価されている。柿木真澄前社長(現会長)時代の6年間で1兆円だった時価総額が4兆円、5兆円と階段を上がってきた。私のミッションは次の高みに牽引(けんいん)すること。具体的な目標を社内外に公言した方が分かりやすいと考えた。社内では一体感が生まれている」

〝勝ち筋〟に経営資源を集中

--力を入れる事業領域は

「①成長領域②付加価値③拡張性-を重視しており、この3つがそろうビジネスを『勝ち筋』として攻めよと言っている。常に言っているのが(世界の食料庫とも呼ばれる)米国の農業向けの資材販売。次いで同国での自動車販売や、再生可能エネルギーを活用した電力小売りサービスなどだ。ただ、基本的には領域は問わない。勝ち筋に経営資源を集中投下していく」

--トランプ米政権の高関税政策の影響はあるか

「影響はそれほどない。われわれが一番稼ぐ地域は米国だ。米国の景気が後退することが最悪のシナリオだと考えている」

--横浜市でアフリカ開発会議(TICAD)が開催され、石破茂首相が新経済圏構想を打ち出すなど、アフリカは注目の地域だ

「経済成長を支える一番の原動力は人口動態だ。こう考えると、今後確実に人口が増える地域に目を向けない手はない。『最後のフロンティア』であるのは間違いなく、重要な地域だと思っている。22年に立ち上げた営業部門横断のアフリカビジネス推進委員会でさらに議論し、全社挙げて攻略していく」

モーリシャスの医薬品に出資

--今月4日にはモーリシャスの医薬品販売大手フィリップスヘルスケアコーポレーションに出資し、持ち分法適用会社にした

(梶山裕生撮影)

「アフリカの医薬品市場は毎年10%程度の伸びが見込まれる。しかも医薬品そのものが十分に付加価値の高い商品商材だ。拠点を広げていけば事業の拡張性もある。アフリカ9カ国で展開するフィリップスへの投資は勝ち筋になるとみている。他にもいくつかアフリカの内需を捉える案件を進めている。人口が伸びるのでアフリカ内需を取り込むビジネスはしっかりやっていきたい」

--5大商社は米著名投資家で「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社が株主として名を連ねることでも知られる

「バフェット氏は日本の商社のビジネスモデルは100年続くと話されている。投資会社の5月の株主総会では50年は保有したいと発言された。米投資家がこのような発言をするのは極めてまれ。米国はビジネスに対する考え方が相当合理的に進化していて、基本的には(複数事業を抱える商社のような)多角化ではなく、専業の方が合理的だと考える人が多い。バフェット氏は保険など金融をやり、鉄道も手掛けて成功している。(商社と似て)事業領域は幅広い。(多角展開ゆえにチャンスがあるのだと)商社を知らしめてくれたバフェット氏の株式保有は大変意義がある」

(梶山裕生撮影)

--プレッシャーもある

「バフェット氏は世界一流の投資家だ。当然、厳しくわれわれの日々のパフォーマンスを見ていると思う。それに対する緊張感はものすごくある。(期待に応えるためには)どこにフォーカスしてよいビジネスを選ぶかということが重要だ。良いビジネスとは私の言葉では先述の勝ち筋になるが、勝ち筋を抽出してそこにずっと根を張っていくことができれば、商社は100年続くと思う」

大本晶之

おおもと・まさゆき 早大商卒。1992年丸紅入社。2006年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。07年丸紅再入社。19年に次世代事業本部の初代本部長に就任。執行役員、常務執行役員を経て、25年4月から現職。55歳。愛媛県出身。

編集後記

柿木真澄前社長(現会長)の大本氏の評価は「鬼軍曹」。これについて本人に尋ねたところ、20年ほど前に一緒に仕事をしたときの印象からだろうと話してくれた。当時、仕事に厳しい「モーレツ社員」の言動に周囲は震え上がったに違いない。時代は変わり、本人は「そちらには行かないようにしている」と心がける。4月、14人抜きで社長に就任した。求心力も期待されての登板だが、経営者としての手腕は未知数だ。5大商社唯一の50代社長が再び「鬼軍曹」に戻らないか。注視したい。(佐藤克史)

(梶山裕生撮影)