テスラ売上12%減の衝撃、100万台「モデルY」でも利益が伸びない根本理由

テスラ業績急落の深層要因

 テスラは、イーロン・マスクが率いる電気自動車(EV)業界の急先鋒として知られる。一時は自動車業界で世界トップの時価総額を誇った。しかし近年は不振が続いている。直近の2025年第二四半期決算では売上高が前年同期比12%減(225億ドル)。ロイターによれば「過去10年以上で最悪の落ち込み」と報じられた。

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 業績悪化の背景には複数の要因がある。まずEV販売の減速だ。2025年4~6月期の世界販売は前年同期比13%減の38万台にとどまった。特に中国を中心に、世界のEVメーカーとの競争が激化している。中国製の廉価EVが急速に市場を拡大し、テスラは世界シェアを徐々に失いつつある。中国市場の需要はピークを過ぎたものの、現地メーカーの開発・新車投入スピードにテスラは追随できず、苦戦を強いられている。

 さらに政治リスクも大きい。マスク氏がトランプ政権下で政府効率化省(DOGE)を率いたことが影を落としている。DOGEでの大規模な人員削減に抗議する動きがテスラにも飛び火。不買運動や破壊行為といった事態を招いた。マスク氏はすでにDOGEを退任しているが、火種は残っている。政治的関与がブランド価値を毀損し、販売不振に拍車をかけている。

クレジット急減が突きつける現実

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テスラ(画像:Pexels)

 テスラはEV販売を主力事業とするが、実際の収益源は「クレジット」にある。しかし、この収益が不安定化し、先行きは不透明になっている。クレジットとは

・カーボンクレジット

・排出権

と呼ばれる仕組みだ。企業が温室効果ガス(CO2など)の排出量を削減した分を取引可能な権利として売買する手法である。温暖化対策の国際的な流れのなかで、各企業には排出削減の義務が課されてきた。基準を満たせない企業は、削減実績を持つ企業からクレジットを購入することで義務を果たす。

 クレジットにはいくつか種類がある。自国内での排出権取引に限られる「コンプライアンス・クレジット」と、国際的なプロジェクトに基づく「ボランタリー・クレジット」があり、価格や取引ルールは市場や国によって異なる。取引には第三者認証がともない、削減量の正確性や透明性が担保されるため、企業にとっては確実に規制遵守を示す手段となる。

 テスラはCO2を排出しない純粋なEVのみを販売してきた。そのため、他の自動車メーカーは規制をクリアするため、テスラから大量のクレジットを購入してきた。2019年以降、クレジット販売による収益は累計で

「106億ドル(約1兆5650億円)」

に達している。事業利益の大きな柱であることがわかる。

 だが、この仕組みは米国で急速に下火になる可能性がある。トランプ政権が排出ガス規制にともなう罰則を撤廃し、自動車産業の活性化を狙っているためだ。規制が緩和されれば、米国メーカーはクレジット購入の必要がなくなる。テスラの収益構造にとって大きな打撃となる。

 クレジットが即座に無意味になるわけではない。だが、すでに変化は始まっている。実際、2025年第二四半期のクレジット収入は前年同期比で半減した。柱のひとつが揺らぎ始めている。

モデルY低価格化で巻き返し

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テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏(画像:AFP=時事)

 足元の決算状況でテスラの苦境は鮮明になっている。これに対してテスラは、ふたつの方策で巻き返しを図る。そのひとつが廉価版EVの投入だ。

 テスラは付加価値の高いEVで知られ、モデルSやモデルXは高価格ながら人気がある。だが、販売台数ベースでは低価格EVのモデル3やモデルYが圧倒的だ。特にモデルYは2024年に100万台以上を売り上げ、世界一となっている。

 それだけ売れても、テスラの売上には限界がある。他社の低価格モデルに太刀打ちできていないからだ。モデルYの価格は6万ドル弱で、低価格車とはいい難い水準にある。

 この課題に対応するため、テスラはモデルYの廉価版投入を発表した。時期は未定だが、2025~2026年には登場する見込みである。以前から廉価EVの開発は噂されていたが、現行で最も安価なモデル3でさえ4万~5万ドルと、価格競争力のある車はほとんどなかった。

 廉価版モデルYは4万ドル(約590万円)を切る可能性がある。実際に登場すれば、価格面で魅力的な車となるだろう。

自動運転事業で巻き返し

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ロボタクシー(画像:テスラ)

 テスラはもうひとつの巻き返し策として「ロボタクシー」の本格稼働を掲げている。すでに試験的なサービスは開始されている。

 以前からテスラはロボタクシーの実用化に向け、複数のロードマップを公開してきた。現時点では完全な実用化には至っていない。だが、収益悪化を受けて本格稼働に向けた取り組みを加速している。2025年中には複数都市でのサービス開始を目指す。

 技術的にはまだ未熟だ。テスラ本拠地のテキサス州オースティンで開始されたサービスでは、助手席に安全対策のドライバーが同乗して運行されている。

 一方、競合の自動運転タクシーサービスであるウェイモなどは、一部地域で完全自動運転を実現しており、現時点でテスラとの差は明確だ。しかし、テスラの開発スピードは折り紙付きである。すでにカリフォルニア州やアリゾナ州へのサービス拡大も発表している。

 新たな収入源としてのロボタクシー事業は始まったばかりだ。2025年中には、何らかの成果が見えてくることが期待される。

成長戦略の課題

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2025年7月25日発表。主要メーカーの電気自動車(BEV/PHV/FCV)販売台数推移(画像:マークラインズ)

 テスラの企業価値は、EV販売、クレジット収益、ロボタクシーの三つの柱で支えられてきた。しかし、どの柱にも弱点がある。

 EV販売は中国市場での競争が激しく、利益率が下がりやすい。販売台数が増えても収益増につながりにくい。廉価版モデルYの投入は販売拡大に有効だが、平均販売価格の低下により利益構造を圧迫する。

クレジット収益も米国の規制緩和で不安定になっている。優位性は外部条件に依存しており、政策の変化が財務リスクに直結する。市場が縮小すれば、収益モデル全体に影響が及ぶ。収益源を増やすだけでなく、各要素のリスクを見直し、製品やサービスの組み合わせを戦略的に再編する必要がある。

 ロボタクシー事業は将来的な収入源として期待される。しかし技術の成熟度と規制環境の制約がある。現状ではドライバー同乗が必要で、完全自動運転の競合と比べると差がある。複数都市への展開は進められているが、都市のインフラや交通政策によって採算性は変わる。ロボタクシーは単なる新規事業ではなく、都市交通に組み込む前提で収益性を評価する必要がある。

 総合すると、テスラは各収益要素の制約を踏まえた戦略の再構築を迫られている。EV販売の価格競争力、クレジット収益の依存度、ロボタクシーの技術成熟度と都市展開の整合性――三つの要素は単独の成功だけでは不十分だ。

 収益効率とリスク配分を同時に最適化することが求められる。政策変化や競合技術の進展によって収益構造が変わる環境では、戦略の先読みと事業の動的調整が企業価値形成の鍵となる。ブランド力や技術力だけでなく、収益構造の安定性と都市交通との整合性が、次世代市場での勝敗を左右する可能性が高い。