サボりがち? 「オイル交換」が先延ばしにされる3つの理由――新車から10年で見えた現実とは

エンジンオイル交換の実態

 エンジンオイル交換は自動車を維持するうえで欠かせない基本的なメンテナンスだ。しかし、実際の交換タイミングを調査データで見ると、技術的に最適とされる時期と、ユーザーの行動には大きな乖離があることがわかる。カーライフ商品の企画及び販売を行うCAP(東京都大田区)の2025年調査では、エンジンオイル交換のタイミングとして最も多かった回答は「車検時にまとめて依頼」が35.0%であった。次に多いのは「交換時期の案内を貰ったから」が27.4%、「定期的に交換」するのは11.8%にとどまった。

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 使用年数別に見ると、新車から3年未満のオーナーは44.0%が案内に従って交換していた(「車検時にまとめて依頼」は33.0%)。一方、10年未満では42.0%が車検に合わせてまとめて交換し、10年以上の車両では47.0%にまで増加している。つまり、新車オーナーはメーカーやディーラーの提示に従う傾向が強く、年数が経過するにつれて、ユーザー主導ではなく車検に合わせた

「受動的な交換行動」

に移行する傾向が明確に現れている。

ユーザーの整備行動分析

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「自動車・二輪車のエンジンオイル」に関する調査(画像:CAP)

 2025年8月1日から8月3日にかけて、自動車や二輪車の保有者を対象にインターネット調査を実施した。調査対象は20代から70代までの男女で、回答者は1025人であった。調査結果は、販売や整備業界の構造やユーザー行動の特徴を読み解く重要なデータとして有益である。

●全体

・車検時にまとめて依頼35.0%

・交換時期の案内を貰ったから27.4%

・定期的に交換 11.8%

・時間があったから 5.4%

・車が不調になったから 3.4%

・車で遠出する予定がある時 1.7%

以下、使用年数で分けた結果だ。

●3年未満

・車検時にまとめて依頼33.0%

・交換時期の案内を貰ったから44.0%

・定期的に交換 9.0%

●10年未満

・車検時にまとめて依頼42.0%

・交換時期の案内を貰ったから33.0%

・定期的に交換 15.0%

●10年以上

・車検時にまとめて依頼47.0%

・交換時期の案内を貰ったから33.0%

・定期的に交換 15.0%

エンジンオイルの推奨交換時期は、近年の合成油やエコカー向け高性能オイルであっても

「1万5000kmごと、または1年に一度」

が一般的な目安とされる。業界団体や主要メーカーの整備マニュアルでも、概ねこの水準を提示している。しかし「車検時にまとめて依頼」というユーザーの行動は2年に1度の交換に直結しやすく、走行距離が短いユーザーならまだしも、年1万5000km以上走る層では明らかに過走行・過使用につながる。

・エンジン内部の摩耗

・スラッジ堆積

・燃費劣化

のリスクを抱えながら走行している車両が相当数存在していると見られる。

オイル交換遅延の構造

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自動車整備(画像:写真AC)

 なぜユーザーはオイル交換を後回しにしたり、案内に依存したりするのか。その背景には三つの構造的要因がある。

 まず、整備費用の先送りだ。調査では「価格が高い」と答えた人が20.3%、「面倒くさい」が24.2%に上った。ディーラーでの交換費用は1回5000~1万円、カー用品店でも3000円前後だ。年1回の負担としては大きくないが、ユーザーは効果が目に見えない支出に消極的だ。

 次に、情報の複雑化がある。「何を選べばいいかわからない」と答えた人は15.0%に達した。粘度、グレード、ブランドが乱立しており、判断を放棄してディーラー任せにする傾向が強い。その結果、純正オイルが圧倒的に選ばれ、高認知ブランドも購入経験は限られる。

 三つ目は制度依存の整備文化だ。日本の整備産業は車検制度を収益の基盤としており、ユーザーも「2年ごとの一括整備」が定着している。オイル交換のような頻繁なメンテナンスは独立して意識されるべきだが、制度設計が逆に適切な整備行動を阻害している。

 結果として、日本市場ではユーザーの半数近くが推奨より長いサイクルでオイルを使い続ける可能性が高い。燃費は5%前後悪化し、エンジン内部の摩耗は長期的に車両寿命を1~2割縮めるリスクがある。中古車市場でも整備記録簿に基づくオイル管理は評価されにくく、維持意識の低さが悪循環を生んでいる。

オイル交換改革の実務策

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自動車整備(画像:写真AC)

 課題を解決するには、ユーザーの習慣に頼らない仕組みが必要だ。まず、走行距離に応じて自動で通知する方法が考えられる。テレマティクスを活用し、走行距離や運転状況に基づきオイル交換時期を車載ディスプレイやスマホで知らせる。欧米の一部ブランドでは既に導入され、ディーラー来店率の向上にも寄与している。

 サブスクリプション型の整備パックを拡充する方法もある。一定額で年1回のオイル交換を保証すれば、「費用が高い」「面倒」という心理的障壁を下げられる。リース契約や残価設定ローンと組み合わせれば、利用の定着も見込める。

 中古車市場で整備履歴を評価する仕組みも有効だ。オイル交換履歴をデジタルで管理し、査定に反映させれば、ユーザーは適切なメンテナンスが資産価値に直結することを理解する。制度化により、この認識を浸透させられる。

 また、ブランド間の競争環境を再設計することも重要である。現在は純正オイルが圧倒的に優位だが、ディーラー以外のチャネルで「長寿命・低燃費効果」を定量的に提示すれば、ユーザーの選択肢を広げられる。情報不足を補うマーケティングが不可欠だ。

 エンジンオイル交換は、一見すると小さな維持作業に見える。しかし頻度や方法は、車両寿命、燃料消費、CO2排出、さらには整備産業の収益構造にまで関わる。電動化が進んでも、内燃機関車は一定数残るため、オイル管理の最適化は依然として重要な課題だ。

 ユーザー任せのあいまいな交換習慣から、データに基づく合理的なメンテナンス管理へ移行できるかどうか。ここに、日本の自動車社会が抱える整備文化の成熟度が問われているのではないか。