日本に住まない“通いスタイル”はなぜトレンドに? 外国人ドライバーの最新事情|英国人ジャーナリスト”ジェイミー”の日本レース探訪記
日本に住むべきか、住まざるべきか……スーパーフォーミュラやスーパーGTに参戦する外国人ドライバーにとって、それは重要な問いです。
2000年代から2010年代にかけて、日本のトップカテゴリーで戦う外国人ドライバーはヨーロッパを離れてチームの拠点にできるだけ近いところで生活し、日本の文化に慣れ親しむのが一般的でした。アンドレ・ロッテラー、ブノワ・トレルイエ、ロイック・デュバル、ジェームス・ロシター、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ、ロニー・クインタレッリらがその好例です。
しかしながら、現在スーパーフォーミュラに参戦している外国人ドライバーに目を向けると、サッシャ・フェネストラズ、オリバー・ラスムッセン、ザック・オサリバンはいずれも、スーパーGTを掛け持ちしているにもかかわらず、レースの度に日本とヨーロッパを往復する日々を送っています。外国籍選手では唯一、日本生まれの日系ブラジル人ドライバーであるイゴール・オオムラ・フラガのみが日本で生活しています。

イゴール・オオムラ・フラガ(左)
その他スーパーGT参戦ドライバーでも同様の傾向があります。ベルトラン・バゲット、ロベルト・メリ、チャーリー・ファグも海外からの通い組。20年ほど日本に住んでいたデ・オリベイラも、今年から母国ブラジルに戻り、地元のストックカー・プロシリーズとの掛け持ちに切り替えています。ジュリアーノ・アレジは東京住みですが、彼も日本とのハーフであり、フラガ同様日本にルーツを持つドライバーです。
もちろん、彼らが日本に住むかどうかの判断にはそれぞれの事情があります。ただ、現在は“通い”がトレンドになっていることは確かと言えるでしょう。ではなぜ、現在のドライバーたちの間で通いの選択肢が増えているのでしょうか?
スーパーフォーミュラ参戦ドライバーたちに個別の事情を尋ねてみました。まずは日本とイギリスを往復しているオサリバンから。彼はフォーミュラEのエンヴィジョン・レーシングでシミュレータドライバーをしていることも決断の背景にありましたが、何よりスーパーGTとのダブルプログラムになることがかなり遅くに決まったことが大きかったようです。
「スーパーGT参戦について知った時には、もうスーパーフォーミュラに行くためのフライトを全部予約していたんだ。旅費を抑えるためにね」と話すオサリバンは、MKS CARGUY RACINGからのスーパーGT参戦がもう少し早く決まっていれば、また違った選択をしたかもしれないと言います。
一方のラスムッセンは比較的早い段階から日本でのダブルプログラムが決まっていましたが、実家に近いスイスを拠点とすることを決めました。
「僕の父は大きな会社のCEOというのもあって、小さい頃から旅行が多かったし、長時間飛行機で過ごすことにも慣れていた」と言うラスムッセン。ヨーロッパと日本を行き来する中でも、時差ボケに悩まされたことはないそうです。
最も興味深いのはフェネストラズのケースです。彼は2019年から2022年まで日本に住んでいました(途中、コロナ禍の入国制限で国外に足止めされていた期間を除く)。しかし再び日本で活動するようになった今シーズンからは、イタリアを拠点にする形になっています。
フェネストラズは、その理由をふたつ挙げています。
「今は南イタリアのプーリアにパートナーと一緒に暮らす家があるので、以前とは私生活の状況が違うんだ。それにF1チームでのシミュレータ業務も多いから、ヨーロッパでも忙しい」

サッシャ・フェネストラズ
こういった家庭の事情で通いを選ぶケースは、キャリアが長いドライバーほど多くなります。バゲットは2014年にスーパーGTデビューを果たしたとき、すでに結婚していて、ベルギーに新居を構えたばかりでした。それでも、彼は日本での滞在用に東京のアパートをおさえていましたが。
近年でも、日本に住んだドライバーはアレジやフラガ以外にもいました。例えば過去にスーパーフォーミュラを戦ったラウル・ハイマンやジェム・ブリュックバシェは日本でホテル暮らし。またその他のカテゴリーでは、スーパー耐久ドライバーのジェームス・プルが日本を拠点にしています。
ただ、オサリバンやラスムッセン、フェネストラズらが日本に住んでいないからといって、彼らのレースへの熱意が足りない、日本への愛着が薄いと決め付けるのはフェアではありません。他方で、旅行の快適性やテクノロジーの進歩によって、通いの方に天秤が傾くのは容易に理解できます。
飛行機移動に関しても、特にビジネスクラスでの移動は20年前と比べても格段に快適になりました。ドライバーにとっても、レースウィークの水曜に日本に到着しても、比較的リフレッシュした状態で臨むことができる。また現代はビデオ通話やLINE、WhatsApp(欧州のドライバーがよく使うアプリ)などの普及により、チームとのリモートでのコミュニケーションが取りやすくなっています。
さらにインターネットでの情報網の拡大により、今ではスーパーフォーミュラやスーパーGTのニュースを海外でも簡単に入手できるようになりました。例えばロッテラーは、2004年のJGTC(現スーパーGT)でNakajima Racingがブリヂストンタイヤからダンロップタイヤにスイッチしたことを、その年初めのテストに参加するまで知らなかったと言います。
これらのことを踏まえると、多くの外国人が日本に拠点を構える……そんな時代が再来する可能性は低いでしょう。ただ、ヨーロッパからの通いでも日本で成功できることが証明されることで、将来より多くの外国人ドライバーがスーパーフォーミュラやスーパーGTに挑戦するきっかけとなることを期待したいですね。
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