視界が“ブルーの世界”に、「ヒトラーの生まれ変わり」と確信し交番に自首 38歳で“統合失調症”が現れた当事者に聞く症状 周囲の接し方は

視界が“ブルーの世界”に、「ヒトラーの生まれ変わり」と確信し交番に自首 38歳で“統合失調症”が現れた当事者に聞く症状 周囲の接し方は

ミュージシャンとして活動する竹村公成さん(62)。24年間にわたり、統合失調症と向き合っている。自分の考えや気持ち、行動がうまくまとまらず、幻覚や妄想といった症状が現れる精神疾患で、患者数は日本国内で約90万人と言われている。

竹村さんに兆候が現れたのは、ベンチャー企業の役員として働いていた38歳の時だった。「会議やプレゼンの席でしゃべることが大げさになり、『おかしな事を言い出している』と言われるようになった。いろんな人と衝突して、もめ始めて、みんな僕が『病気になった』と言い出した」。

寝る間もないほどの激務が続く中、「仕事が遅い」と仲間をののしったり、夜中に部下を電話で怒鳴りつけたり、常にイライラして会話や意思疎通はままならなかった。周囲も「おかしい」と思い始めた矢先、幻覚や妄想の症状が現れた。

「YMOの『増殖』というアルバムの顔に街のみんながなって、新宿駅でぶっ倒れかけた。ザック、ザックと皆が来るから、怖くなって(レコードジャケットに)バッテンを貼り付けた」。大挙として押し寄せる男性たちに加え、目に映る景色がすべて青色に。その後、訪れた病院で「統合失調症」の診断を受けた。

会社に居場所がなくなり、大阪の実家へと引きこもると、妄想は激しさを増した。「ある日突然、『ヒトラーの生まれ変わりだ』と確信を持ち、その妄想が完璧に出来上がってしまった。家の外から誰かが鉄の棒をカランコロンとやっている音が聞こえてくる。今にも僕を襲撃しにくる」との恐怖から、交番へ駆け込む。「自首するしかないと思い、『罪を犯しました』と言った」というが、返答は「そんなことでは裁けない」。結局、警察の勧めで入院することになり、その後20年にわたり幻覚や妄想に苦しみ続けた。

■「荒唐無稽なことを言っても、言葉のキャッチボールが始まる安心感」

回復の見込みさえない状況から竹村さんを救ったのが「当事者研究」だった。「仲間がいることが大きい。病気は孤立から起こり、誰にも理解してもらえない。話したところで相手にしてもらえないから、症状がひどくなるような気がする」と振り返る。

当事者研究は2001年、北海道の「浦河べてるの家」からスタートした。精神障害を持つ人たちが自分自身の病気について仲間と研究することが目的で、依存症のように「弱さの情報公開」をして共有することで、障害を抱え込み孤独になるのを防ぐ。幻覚や妄想体験をユーモラスに捉え、1年に1回、「幻覚・妄想大会」も開催される。

当事者研究は、(1)問題と人との切り離しの作業、(2)自己病名(苦労ネーム)をつける、(3)苦労のパターンやプロセス・構造の解明、(4)自分の助け方や守り方の方法を考え試してみる、(5)結果の検証といった要素からなる。

竹村さんは当初、当事者研究に熱心ではなかったという。「ある日の出勤途中にブルーな世界に入った。主治医でもある社長に話すと、『診察よりも当事者研究をやったほうがいい』と勧められた。やってみると、荒唐無稽なことを言っても、会話のキャッチボールが始まって安心した。それを継続することで、入院しなくてよくなった経験もある。安心することで、落ち着いてきた」。

統合失調症に対する、世間の偏見も存在する。「大きな事件は大体統失が起こしてるから関わりたくない」「統失だと事件起こしても無罪だから無敵」「重度の統失は普通の仕事も無理だろう」「統合失調症の人とかの文章ってマジでめちゃくちゃ読みづらい」などがあるが、いずれも医学的根拠はない(北海道医療大学特任教授で、「浦河べてるの家」理事長でもある向谷地生良氏の監修)。

竹村さんは「一番おそろしいのは『身内と思っていた人間が偏見の塊だった』とわかった時。偏見はやはり強い。僕が表で活動することで、当たり前と思われる時代が来たらいいな」と願う。「否定せず、話を聞く。『おかしな人だ』ではなく、『何かメッセージを発している』と受け止めることが重要だ」。

■呂布カルマ「否定しないのはなかなか難しい」 当事者との接し方は

「当事者研究」を生み出した向谷地氏は、「識者がいないオーケストラのような状況。視覚や聴覚など五感にまとまりがなくなり、外れた行動を取ってしまう現象が起きる」と、統合失調症の症状について説明する。原因は不明で、ストレスなどの環境的要因や遺伝的な要因、脳の様々な機能が複雑に絡み合って発症。症状としては、意欲や注意力の低下や、感情の鈍化もみられる。

患者数は国内に90万人いるとされることについて、「見える(幻覚)・聞こえる(幻聴)経験を持つ人は100人に6人ぐらいいると言われ、子どもの約15〜20%が日常的に経験しているというデータもある。一見健康に暮らしている私たちにも重なる部分は多い」。

向谷地氏は、統合失調症患者との接し方として、「幻覚・妄想を評価したり、否定することはしない」「当事者の生きる世界に身を置き、関心を寄せる」「結果に一喜一憂せず、一緒に考えるプロセスを重視」「仲間づくり、つながりを増やすお手伝い」を意識している。

「従来はタブー視されていた『こういうものが見える』『この人がこう言っている気がする』を伝え合い、信頼関係が生まれると、『この人は絶対にそんなことを言う人ではないから、幻の声に違いない』と突き合わせられるようになる。私の顔を見て『怒っていますか?』と聞いてきた人に『怒ってない』と返すと、その人は安心するわけだ。そうしたコミュニケーションが定着すれば、症状が完全になくならなくても、互いに配慮して助け合える場ができる」

一方、ラッパーの呂布カルマは、「身近な人がそういう状態になったときに、家族や友人としてできることは何か。実際に会ったことがあるが、攻撃的な場合もあり、『否定しない』ことは難しい」と投げかける。

これに向谷地氏は「攻撃的になった人には、『そんなことないよ』と言えば言うほど反発される。その人の世界を受け止めて、相手の困難さに立ち続けるのが基本だ」としつつ、「そう簡単ではないため、慣れた専門家に協力してもらう」ことを勧めた。

統合失調症に対する偏見については、「歴史的にずっと繰り返してきた。50年近く前、精神科病院はガチガチの鉄格子で覆われていた。社会が一種の“犯罪者予備軍”としてみなしてきたことが、恐怖や不安を生んでいる」と指摘。また、「認知症を含めると、いまや5人に1人がメンタル面での医療やケアが必要な社会だ」とした上で、「病気が軽症化してきた分、裾野が広がり、みんなのテーマになっている。もっと当事者に学ぶ時代が来たと言っていい」と語った。(『ABEMA Prime』より)

【映像】「大挙として押し寄せる男性たち」幻覚の元になったアルバムのジャケット

【画像】竹村公成さん、東京での会社員時代の写真

【映像】「今できます」スタジオで“人格交代”の瞬間 “70〜80人の人格”当事者