医師の9割が勧める?ーーそのキャッチコピー、本当に信用していいの?仕組みを現役の医師が解説
医師の9割が勧める?ーーそのキャッチコピー、本当に信用していいの?仕組みを現役の医師が解説
サプリメントや健康食品を選ぶとき、あるいは新しい美容機器に興味を持ったとき「医師の9割が勧める」なんて書かれている広告を目にして「お医者さんが勧めているなら安心」と思ってしまったことはありませんか?
確かに、医師という専門家の言葉には一見重みがありそうです。しかし、その「9割」という数字を紐解いていくと実はさまざまなバイアスや恣意的な集計の産物であることも少なくありません。
本当に9割の医師が、その商品を熱心に勧めているのでしょうか?
そもそも、どんな医師に、どんな方法で聞いたのでしょうか?
この記事ではそんな胡散臭い商品に関わってしまったこともある現役の医者が、そういったキャッチコピーの背景にある調査手法や集計のカラクリをわかりやすく解説していきます。
商品選びで惑わされないために、ぜひ一度立ち止まって一緒にその数字の「裏側」を見てみましょう。
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「9割の医師が勧める」広告はどんな流れで作られる?
では、早速どういった流れで「9割の医師が勧める」なんて広告が出来上がるのか、一体誰が調査しているのか順に見ていきましょう。
調査会社
例えば今回はある企業が「眠さMAXジュース」という商品を作ったとします。
医学的効果は当然ありませんが、それっぽく見せかけて売りたい!
そんな時に出てくるのが調査会社です。
調査会社はどんなアンケート、集計、宣伝文句にすれば宣伝として効果的かを考えた上で、企画を立て、医師にアンケートを行います。もちろん「自社調べ」として自分の会社で調査する企業もなくはないですが、わざわざ自分の会社で医師を数百人探してくるよりも調査会社に頼んだほうが楽なので、多くの商品の「9割の医師が勧める」なんて文字の周りをよく見ると※で「〇〇リサーチによる調査」などと書かれていることが多くあります。
調査会社はどうやって医師を集めるの?
ではその調査会社ってやつは一体どうやって何百人も医師を集めるのでしょうか?
病院に電話をしまくって、アンケートに協力してくれる医師を探すのでしょうか?
悪徳不動産の営業じゃあるまいし流石にそれは難易度が高そうですよね(ちなみに、実際に病院に営業の電話をかけてくる悪徳不動産、少なくありません!)
不動産屋ほど鬱陶しがられず医師に接触するにはどうしたらいいのか。
その武器の一つがポイントサイトです。
みなさんはポイ活をしたことがあるでしょうか?ネットでぽちぽちアンケートなどに答えると数十円〜数百円分のポイントがもらえる、みたいなあれです。
さらに言えばそういったサイトの中には、商品サンプルをプレゼントされて使用した感想をアンケートに答える、なんてものがあったりしますのでやったことがある方もいるかもしれませんね。
そう、まさにそれです。
意外かも知れませんが、医師の中にもポイ活をしている人はたくさんいて、医療者向けのポイ活サイトというものが存在します。また医療系の人材派遣会社などがそういったサイトを運営していることもあり、バイトなどの案件に紛れてこういったアンケートのメールが送られてくることもあります。みなさんがやっていることと同じなのです。
さて、そういったサイトで商品をくれ〜、と応募をすると一体どうなるのでしょう?
藤野の実体験をもとに見ていきましょう。
藤野の場合
医師向けのポイントサイトのものだし、たいそう高級なものやたいそうな謝礼が支払われるのかと思うかもしれませんが実はそうでもありません。普通のサンプル提供サイトなどとほぼ変わらないような条件で提供されていることもありますが、医師の中にもそういうのが趣味の人はいますので、成り立っているようです。
そのためあまりメリットも感じない私はほぼ申し込んだこともなかったのですが、過去に一度だけ、この仕組みを知る前にこのなんとも胡散臭いシステム加担してしまったことがあります。
その時はなんと、ちょっとした家電をプレゼント(正確には、お試しとして送るが返却しなくて良い)という太っ腹な企画であり、
「アンケート答えるだけでそんなものもらえるなんて最高じゃん!」
と浅はかに考えた藤野青年は速攻で申し込みをしました。
なんとも立派な家電が届く
さて申し込みから数日で、なんとも立派な家電が届き、その使用感についてなんとも訳のわからないアンケートを求められます。具体的には
・出てくる風が柔らかい感じがする?
①柔らかい感じがする②どちらかというと柔らかい感じがする③あまり柔らかい感じはしない④全く柔らかい感じはしない
・柔らかい風は肌に優しい感じがする?
①優しい感じがする②どちらかと言えば優しい感じがする③あまり優しい感じがしない④全く優しい感じはしない
・この商品を誰かに薦めたいと思いますか?
①勧めたい②どちらかと言えば勧めたい③あまり勧めたくない④絶対勧めたくない
この内容はフィクションですが実際の質問もこんな感じのオンパレードでした。
そもそも質問数も多すぎる訳ですが、まぁ家電一個もらったしと思って頑張って回答した記憶があります。
その結果どうなる
その後その商品は無事発売となり、「医師の◯割が風の柔らかさを実感」「医師の◯割が勧めたい」なんて言葉がセールスコピーとして並んでいたようです。
さてなんとなく流れを見るだけで胡散臭いなと感じた人が多いと思いますが、一体何が問題なのか、順に見ていきましょう。
【問題1】応募してきた医師に偏りがある
アンケートに答えている医師の多くは調査協力に対し、物や金銭など対価を得て引き受けている人たちで専門性や関心領域にもばらつきがあります。たとえば皮膚科医に整腸サプリを評価させたり、精神科医に膝の痛みについてのサプリを評価させている可能性があります。
このように「自主応募型」のアンケートは、統計的にはそもそも母集団が偏っている状態で、それを「医師」という言葉で括り、さも全国の医師の総意かのように見せるのは当然好ましいことではありません。
【問題2】集計方法が恣意的である
アンケート結果の設問は、先ほどの例のようにこんな感じになっていることが少なくありません。
・強く勧める
・勧める
・勧めない
・絶対に勧めない
一見フェアな選択肢に見えますが、実際の集計では「強く勧める」と「勧める」を合算し、「医師の90%が勧めています」と表現します。
この違和感を図示し見てみましょう。
以下は、仮のアンケート結果です。
・強く勧める:30人
・勧める:60人
・勧めない:8人
・絶対に勧めない:2人
chatGPTにグラフを作らせたので縦軸とかセンスないグラフですがご容赦ください。
どうでしょう?100人中「強く勧める」のはたった30人、グラフを見てもそんなに絶賛な印象はないですが「強く勧める+勧める」の合計が90人なので、大きく「勧める」という括りに変えることで「9割の医師が勧める」と大絶賛かのように見えてしまうわけです。
実際は「医師の30人が強く勧めて、60人は強く勧めはしないがまぁどちらかと言えば勧める」程度の商品がこういった表現のテクニックにより「医師の9割が勧める」商品に化けてしまうわけです。
また、そもそも商品をもらっているという前提がある中で
「絶対に勧めない!」
なんて固い意志を持って答える人がどうやっても減りそうなのは、統計や研究に詳しくなくても想像に難くないかと思います。
【問題3】よい結果だけを選んで広告にする
こういった調査において複数の項目を同時に調査して、結果がよかったものだけを広告に使う――これは企業にとって自然な判断かもしれませんし、さまざまな分野でやられがちな手法です。
しかし、これでは情報の受け手にとっては悪い情報が出てこず、よい情報だけが出回るフェアではない状態になります。
たとえば5項目のアンケートを行い、3つは「医師の6割が勧める」程度の結果しか出てこなかったが、残り2つは「9割」となったとします。
すると結果の悪い3つに関してはそもそも広告に載せず、結果の良かった2つだけを広告にすることでいい結果しか出てないように見えます。
そのためこういったアンケートでは質問数が多いものが目立ちます。
たとえば全く効果のない飴玉だって「膝痛に効いた気がする?」「肩こりに効いた気がする?」なんてアンケートを100個書かされれば答えている方も、たまには違う回答をするか、と選ぶでしょうし、たまたま結果が偏ることもあります。極論100個のうち1個、「飴玉が何かに効いた気がする」という結果が出てきたらそういうパッケージで売ればいいので他のアンケートなんてどうでもいいわけです。
まとめ:「医師が勧める」を鵜呑みにしない
医師という専門職の名前を借りたキャッチコピーは、非常に説得力があります。しかしその裏には、都合の良い集計、偏った調査設計、選択的な広告活用といった要素が含まれている可能性があることを忘れてはいけません。そして医師にもいろんな人がいます。ごくごく一部の医師を集めバイアスがかかりまくった状態で出てくるデータを過信してはいけません。
週刊誌で「医師が絶対に飲まない薬」「医師が絶対に食べない食べ物」などといった馬鹿みたいな特集が組まれることがありますが、ああいった記事も「ああいった質問に答えることでその記事を読んだ患者さんたちが不安になることを想像できない医師」が答えているという時点で大きなバイアスがかかっています。
そうした情報を目にしたときは調査対象の医師が何人で何科の医師であるのかや、強く勧めているのは何人であるのか、さまざまな情報を踏まえて判断していきましょう。
「医師が勧めるから安心」ではなく、「どの医師が、どんな調査で、どの程度勧めているのか」を見極める視点を持つことが、賢い選択につながります。
情報があふれる時代だからこそ、「数字」と「権威」に惑わされず、自分自身で考える力を大切にしていきましょう。
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