インド洋にある広大な「重力の穴」…その原因を説明する最新理論

インド洋には広大な「重力の穴」が存在する。
- インド洋には、海面が近隣の海域よりも約90m低い「重力の穴」がある。
- そこは重力が近隣よりもわずかに低い。なぜそのようなことが起きるのか、科学者は長年にわたって頭を悩ませてきた。
- 最新の研究によると、これは、1億2000万年前にテチス海のプレートが地球深部に沈み込んだことによって引き起こされた可能性があるという。
インド洋の真ん中にある巨大な「重力の穴」は長年、科学者たちを悩ませてきた。
260万平方kmに及ぶこの異常な海域は、物理的な穴ではなく、地球の重力が平均よりも低い海域のことだ。
この穴について研究する科学者は、その下にある何かが奇妙な現象を引き起こしていると考えてきた。
だがこの謎を解くには、穴の下ではなく、その周辺を調べるべきだったということが、最新の研究で示唆されている。
その研究によると、古代の海底の名残から立ち上るマグマのプルームが原因である可能性があるという。
260万平方kmもの広大な重力の穴では、海面が周囲よりも低い

欧州宇宙機関(ESA)のGOCE衛星が検出した地球の重力の小さな変動を示す地図。インド洋上の青で示された部分が「重力の穴」。
重力は地球の表面でごくわずかに変化している。
これらの変動のほとんどは簡単に説明できる。しかし、科学者たちは「インド洋ジオイド低域」として知られるこの「重力の穴」についてはなかなか説明できずにいた。
重力の差は大きなものではなく、この異常な海域の真ん中に立っていたとしても、その差に気が付くことはないだろうと、ドイツ地球科学研究所(GFZ)のジオダイナミクス研究者であるベルンハルト・シュタインバーガー(Bernhart Steinberger)はInsiderに語っている。なお、彼はこの研究に関わっていない。
しかし、260万平方kmに及ぶ海域の海面が、周囲の海域よりも約90mも低くなっているということは、やはり尋常ではない。
「その下に何か低密度のものがあり、それが原因となっているに違いないというのが大方の見方だったと思う」とシュタインバーガーは言う。
「しかし、最新の論文では、それとは異なる理論が展開されている」
この異常な海域の謎を解明するために、「穴」の周辺を調査

世界各地の重力の違いを色と高さで示すアニメーション。重力は、青く低いほど弱く、赤く高いほど強い。
バンガロールにあるインド科学研究所(IISc)の地球物理学者アットレイー・ゴーシュ(Attreyee Ghosh)と博士課程学生のデバンジャン・パル(Debanjan Pal)は、この穴ができた原因を解明するため、コンピューターシミュレーションを行った。
彼らは、過去1億4000万年の間に地殻プレートが穴の周囲でどのように動いたか、19のシナリオをプロットした。
この研究に関する論文が、2023年5月5日付でGeophysical Research Lettersに掲載された。それによると重力の穴を説明できるシナリオはわずかであり、穴の下にあるものが直接的な原因となって重力を弱くしているというモデルは1つもないことが判明した。むしろ、低密度のマグマのプルームが原因となっている可能性が高いという。