株の「信用二階建て取引」はなぜ危険? 手を出した人に起こりがちな「とんでもない結末」

少ない資金で大きな取引ができる、下落局面でも利益を得られる場合があるといったメリットがある「信用取引」。しかし、初の著書『2倍株・3倍株がぽこぽこ生まれる のんびり日本株投資』を上梓した、「おせちーず」のペンネームでも知られるさかえだいくこ氏は、「信用二階建て取引」はするべからず、と警告する。その理由を解説していただいた。

信用取引は「ギャンブル」なのか?

「信用取引」という言葉を見聞きしたことがあるでしょうか?

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信用取引とは、現金や株式を担保として証券会社に預け、証券会社からお金を借りて株式を買ったり、株券を借りてそれを売ったりする取引のことです。

最大で、預けた担保の評価額の約3.3倍まで取引ができます。

預けた担保が株式など値動きがあるものの場合、価格の推移によって担保の評価額は増えたり減ったりします。

つど、その評価額を金額で示したものを「保証金」と呼びます。

取引後に、借りている現金で買った株や、借りている株の価値が変動し、保証金が足りなくなった場合には追加の担保を求められる場合もあります。

こわ~い「追証(追加保証金)」です。

そんなギャンブルみたいな取引、いらないじゃないかと思うかもしれませんが、そんなことはありません。

信用取引は、市場の流動性を維持するのには不可欠な取引手法だからです。

ある銘柄を買いたいときを想定しましょう。

どんなにその株がほしくても、お金がなければ買えません。また、すでにその株を保有していて、かつちょうど売りたいと思っている人がいなければ、売買は成立しません。

これでは、株式市場に参加できる人が限られます。結果として取引が成立しなかったり、わずかな売買高でも株価が大きく動いたりする可能性が出てきます。

株価が下がる局面でも利益を出せる

このとき、信用取引があると、お金が十分にないけれど買いたい人は、手持ちの資金や別の株式などを担保にすることで、証券会社からお金を借りて目当ての株式を買うことができます。

すでにその株式を持っている人から証券会社が株を借りてきて又貸ししてくれるので、ちょうどいいタイミングで売りたい人もたくさん出てきます。取引量の増加を期待できるということです。

結果、売買高が増加し、流動性が増して、市場における公正な価格形成が促進される、と考えられています。

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また、信用取引なら相場が下落している局面でも売りの取引から入れるので、投資家が利益を狙うための選択肢が増えるのも大きな魅力です。

信用取引の対義語は「現物取引」です。

「買い」から取引を始めるしかない現物取引では、株価が上がる相場でなければ利益を出せません。

しかし信用取引であれば、証券会社から株を借りて「売り」から取引を始められます。つまり株価が高いときに売って、下がったときに買い戻せば、その差額が利益になります。現物取引では対応が難しい相場でも、利益を期待できるというわけです。

投資に慣れていない方に積極的に勧めることはしませんが、信用取引という手法の存在意義は大いにあるのです。上手に使う方もたくさんいますし、私自身もごくたまにですが使っています。

「信用二階建て取引」はただの信用取引ではない

では、何がダメなのかと言うと、「べからず」なのは信用取引のなかでも「信用二階建て取引」です。

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“二階建て”と言うくらいなので、ただの信用取引ではありません。

この「信用二階建て取引」は非常にリスクが高く、想定どおりに株価が動かない場合には、とんでもない結果をもたらすことがあります。

信用二階建て取引とは、信用取引の保証金として、現金ではなく保有する現物株を差し入れ、それを担保にしてまったく同じ銘柄をもう一度買うことを言います。

建物にたとえると「一階部分」が現物取引で、「二階部分」が信用取引です。

同じ銘柄を現物取引と信用取引の両方で買うことになるため、「信用二階建て」と呼ばれています。

数字を入れた具体的な例で見ていきましょう。

現物株を担保とする場合の担保価値(掛け目)は、一般的には額面の80%となっています。つまり、100万円の株を信用取引の担保にすると、保証金額は80万円になります。

信用取引では保証金の約3.3倍まで取引ができるので、264万円(=100万円×80%×3.3)までは取引できます。

信用二階建て取引では、担保に入れた100万円の株と同じ銘柄を、新たな264万円の信用取引枠で購入します。最初の100万円分と合わせて、合計364万円分の同じ株を購入できるでしょう(話を単純にするため、単位株による制限はここでは考慮していません)。

これで、買った銘柄の株価が思惑どおりに上昇すれば、現物と信用の両方で利益が出ます。ものすごい快感でしょう。

しかしながら、株価は上がる可能性があれば、同じだけ下がる可能性もあるもの。同じ条件で、たとえば100万円の株価が10%下がって、90万円になったらどうなるでしょう?

手を出した人に起こりがちな「とんでもない結末」

担保に入れている株の価値が下がれば、信用取引の余力も同じように下がります。

100万円×80%×3.3=264万円だった信用取引の枠が、90万円×80%×3.3=237.6万円に減ります。

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ところが、すでに264万円分の株を買っていますから、この場合、差し入れていた担保が足りないことになり、264万円-237.6万円=26.4万円の追証を求められます。決められた日までに追証を払い込まないと、強制的に決済されて損失が確定します。

現物取引で取得した担保分の株も、信用取引で取得した株も、株価下落の影響をもろに受けますから、損失も数倍です。

さらに追証も求められるため、追加の入金ができない場合には、現物取引のようにしばらく塩漬けにして含み損を現実化させない選択もできません。一時的な急落での含み損かもしれないのに、その場合でも損失が速やかに現実化します。

さらに言えば、仮に追証が払えなくても、その「一定のお金を払わなければいけない債務」が消えてなくなるわけではありませんから、その後に借金の返済も必要です。

これが信用二階建て取引で起こりがちな「とんでもない結末」です。

そんなこと、自分は絶対にしないから関係ない、と思うかもしれませんが、私はこの取引で莫大な追証を差し出すことになった人を何人も知っていますし、株式投資をやめた人も何人も知っています。家庭崩壊のきっかけにもなりかねません。

ある程度、株式投資に慣れてくると、なぜかこの信用二階建て取引が魅力的に感じ、「少しぐらい、大丈夫では?」と思えるタイミングがあるから不思議です。

とは言え、魅力的に見えるものほど隠されている落とし穴の底も深い、というのが世の常です。

リターンもリスクもインデックス以下というのんびり投資をしようという方は、知らなくてもいい取引ですし、仮に将来、一時的に魅力に感じたとしても、手を出すべきではない取引だとよくよく認識しておいてください!