いま「子供の脱毛」が急増している…その理由と思わぬリスクを医師が解説、「中には9歳で脱毛する子も」
「子どもの脱毛」をめぐる議論
昨今SNSなどを中心に、「子どもの脱毛」をめぐる議論が沸き起こっているのはご存知だろうか。
《小学生で脱毛って早すぎるのでは?》
《でも、ムダ毛でいじめられるなら……》
《(医療機関での)脱毛は今や“自己処理”よりも安全》
このようにネット上では肯定派・否定派、両方の意見が飛び交っているのだ。
実際、ここ数年で小学生から中学生を対象とした「子どもの脱毛」の利用者数は急増している。
全国26院を展開する医療脱毛専門院「リゼクリニック」が、2024年度に小・中学生の保護者580名(母親290名・父親290名)を対象にインターネット調査を実施。その調査のなかの【子どもから「脱毛したい」と言われたことがある?】という質問には、小学生の母親の約6割(58.2%)、中学生の母親の約7割(72.4%)が「経験がある」と回答していた。

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懸念の声も少なくない
さらに来院データを見てもその増加ぶりは顕著だ。同院の調査結果によると、医療脱毛を希望して来院した14~15歳の患者数は、7年前(2017年度)と比較して、女性では3.4倍、男性では実に7.1倍に増加しているそうだ。
だがやはり、成長途中の子どもにレーザーや光を照射しても問題ないのか、美容意識の早熟化は子どもたちに悪影響を及ぼすのではないか、といった懸念の声も少なくない。
そこで今回は子どもの脱毛がここまで広がった背景と実態、そしてそこに潜むリスクについて、慶應義塾大学 医学部 皮膚科 専任講師であり、慶應義塾大学病院でレーザー外来の主任を計8年務める大内健嗣氏に解説していただく(以下、「」内は大内氏のコメント)。
“脱毛意識”の変化に影響された子どもたち
そもそも日本で脱毛が広く普及しはじめたのは、2000年代に登場した「フラッシュ脱毛器(光脱毛)」の存在が大きい。エステサロンで行われる光脱毛は、医療用レーザーよりも照射出力が弱く、肌へのダメージや施術時の痛みが少ないその“気軽さ”が、当時、脱毛を敬遠していた層に支持され、利用者が増えていった。美容業界全体の成長を牽引したのもこのタイミングだ。
さらに2010年代以降、脱毛をめぐる価格破壊が進んだことで状況は一変する。かつては全身脱毛に100万円近くかかるのが当たり前だったが、現在では30万円ほどにまで相場が下がり、医療脱毛もエステ並みの価格帯で受けられるようになったのである。若年層でも手が届くようになり、“脱毛=特別な美容医療”という意識は次第に薄れていったのだ。
そして今、この“脱毛常識”の影響をもっとも強く受けているのが現代の子どもたちだと大内氏は語る。
「ほんの10年ほど前は、まだ『子どもの脱毛』という概念自体ほとんど存在していませんでした。脱毛の施術を受けたという子どもが徐々に現れてきたのは2019年頃。そこから年々増加し、ここ4~5年で一気に広がった印象があります。
現在、脱毛の相談で来院される子どもの患者は中学生が中心ですが、小学4年生・10歳の方もいらっしゃいました。いちばん若いケースでは、9歳のお子さんの相談を受けたこともあります。基本的には、本人が強く希望して来院されるケースが多いです。
子どもの脱毛が拡大する背景には、SNSの影響も大きいでしょう。TikTokやInstagramなどのショート動画を通じて、毛の処理や美容医療に関する情報を子どもたちが日常的に見ており、情報との接触年齢が年々下がっています。かつて20代女性を中心に共有されていた“美のスタンダード”が、いまや小中学生の世界にまで浸透し始めているのです」
脱毛について小中学生が来院する場合、当然ながら保護者が同伴する。
「親子で来院される場合は施術をしに来るというよりも、『この年齢で脱毛しても大丈夫か』『リスクはないか』といった不安を相談しにくるケースがほとんどです。カウンセリングで慎重に判断したいという方が多い印象を受けます。ただ現在の小中学生の母親は、エステ脱毛が急拡大した頃にターゲットとなっていた、20代後半から40代が多いため、母親が自分もやっていたからという感覚で、お子さんに『やってみたら?』と勧めたというケースも稀にありますね」

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リスクや脱毛効果は?
「子どもの肌にレーザーや光を当てて本当に大丈夫なのか」「成長過程への影響はないのか」といった懸念は、ネット上でも頻繁に見られる。大内氏の見解は?
「基本的に子どもだから特別にリスクが高いということはありません。現在の医療機関での脱毛は技術的にも非常に進んでおり、肌の状態に合わせた丁寧な施術が行われています。ですから適切な管理のもとであれば、大人と同等の低リスクだと考えて問題ないでしょう」
けれど注意が必要な点もあるという。それは“日焼け肌”だ。
「子どもは屋外で活動する機会が多く日焼けしていることが多いですが、日焼けした状態の肌にレーザーを当てるのはやめておいたほうがいいでしょう。これは大人の場合と同じく、火傷や炎症のリスクがあるためです」
脱毛効果に関しては個人差があるものの、メラニン色素の量が大きく関係しており、脱毛機器は黒い色素に反応して熱を加える仕組みのため、一般的に色素が薄い産毛には反応しにくく、十分な効果を得づらいとされている。では、大人と比べて柔らかい子どもの毛の脱毛効果はどうなのだろうか。
「脱毛の効果には個人差も大きいですし、子どもは産毛が多く、メラニンの量が少ないため、レーザーが十分に反応しないケースもあります。そのため、大人よりも施術回数が多くかかる傾向があり、腕やすねなどの部位を中心に、2ヶ月ごとに全10回前後通う必要がある場合も多いでしょう。
ただ、産毛のような柔らかい毛は脱毛しにくい、という指摘はありますが、一方で子どもの毛の密度自体は大人と大きく変わらないというデータもあり、子どもの脱毛の効果や適切な施術回数については、医療現場でも議論が分かれているんです」
成長ホルモンの影響も考慮するべき
さらに、大内氏は成長ホルモンの影響も考慮しておく必要があるという。
「子どもは思春期を迎えることでホルモンバランスが大きく変化します。そのため、たとえ一度脱毛を終えても、成長にともなって再び毛が生えてくることがあるのです。特に16歳前後に第二次成長が起きた後、追加の施術が必要になるケースも少なくありません」
こうした背景から、大内氏は「子どもへの脱毛こそ慎重な判断と専門家の関与が必要」と強調する。
「家庭での自己処理やサロン脱毛よりも、安全性を考えれば医療機関での脱毛がおすすめです。お子さん自身が納得したうえで、医師の判断のもとで施術を受けることが重要でしょう。施術の可否やタイミングについては、しっかり医療機関で相談するようにしてください」

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家庭や教育現場ですべきこと
SNSやネット動画の普及により、理想とされる“美の基準”が日常的に拡散されるようになった現代社会。では、家庭や教育現場では、拡散された“美の基準”により生み出された同調圧力にどう向き合えばいいのか。
「まず大切なのは、子どもに対して“見た目で人を判断しない”という価値観を教えることです。脱毛をしないことは“悪”ではありませんし、気にする必要はないよと家庭のなかで安心できる言葉をかけてあげることも、有効なサポートになります」
では子どもが脱毛を希望した場合、あるいは保護者が脱毛を勧める場合、どのような配慮が求められるのだろうか。
「何より大切なのは、本人が“本当にやりたい”と感じているかどうかをきちんと確認し、子どもの気持ちを尊重する姿勢です。また、医療脱毛ではある程度の痛みに耐えられるかどうかも大切なポイント。最近の機器は痛みが軽減されているとはいえ、まったく無痛というわけではありません。私たちは子ども本人がその点も理解したうえで希望しているか、丁寧にカウンセリングを行うように心がけています」
子どもの脱毛の低年齢化が進むいまこそ、制度的な整備が求められていると指摘する声は少なくない。
「現状、子どもの脱毛に関する明確な年齢制限は法律では定められていません。脱毛は、毛を生やす細胞――つまり“生きた組織”を破壊する行為です。これは本来、医師以外が行ってはならない医療行為に該当するはずです。実際、火傷や皮膚トラブルのリスクもあり、もし医療機関以外の施設の経営が不安定になった場合、十分なアフターケアが受けられなくなる可能性もあります。
だからこそ、医師の判断や年齢に応じたガイドラインが必要だと感じています。美容の価値観が広がることは決して悪いことではありませんが、そのなかで子どもを守る仕組みを、私たち大人が整えていくべきではないでしょうか」
――美の選択肢が広がる一方で、脱毛の“当たり前化”が年齢の壁を曖昧にしつつある現代。もし子どもが自ら強く脱毛を望んでいるとしたら、安全に美容と向き合える環境を整えることが保護者に求められているのかもしれない。
(取材・文=逢ヶ瀬十吾/A4studio)