F1分析|ハンガリーGPの正しい戦略は、1ストップもしくはアンダーカット……ピアストリの2位は幸運だった可能性

 F1ハンガリーGPは、結果的にはマクラーレン勢同士の一騎打ちとなった。しかしふたりは1ストップと2ストップに戦略が分かれた。最終的には1ストップのランド・ノリスに軍配が上がったのだが、これは1ストップが正解だったという評価でいいのだろうか? 分析してみよう。

 予選ではフェラーリのシャルル・ルクレールが、急激に変わったコンディションの中で抜群のアタックを決め、ポールポジションを獲得。下馬評では、マクラーレン勢が圧倒的有利とされていたものの、それを覆してのポール獲得にルクレール本人も驚きを隠さなかった。

 決勝でもルクレールの勢いは変わらず、徐々に優勝最有力候補のオスカー・ピアストリを引き離していく快走を見せる。

 ピアストリはこれに一矢報いるため、18周目を走り終えたところでピットイン。ルクレールよりも早く新しいタイヤを履くことで、前にでようと試みたわけだ。しかしルクレールは次の周に反応し、ピアストリの前を抑えることに成功。ピアストリとしてはコース上でルクレールを抜くのは難しく、我慢のレースとなった。

 ピアストリがルクレールを”料理”するためには、ピットストップのタイミングを活用するしかなかった。2ストップで走り切ることを狙っていたピアストリにとっては、そのタイミングはあと1回のみ…… 2回目のピットストップのみであった。

 マクラーレンは40周目に、ピアストリに2回目のピットストップを指示。しかしこの無線を察知したフェラーリは、先にルクレールをピットに呼び込む。一方でマクラーレンは一転、ピアストリのピットインしないように指示し、周回を続けさせることを選んだ。

 マクラーレンがこの作戦を選んだのは、ルクレールと同じ戦略では勝ち目がないと思っていたからだろう。そのためマクラーレンは、ピアストリの2回目のピットストップを数周遅らせ、ルクレールが使っているタイヤとの性能差を生むことで、コース上でのオーバーテイクを成功させようとしたはずだ。

 マクラーレンのチーム代表であるアンドレア・ステラは、次のように語っている。

「オスカーにルクレールをパスできるだけのタイヤデルタを与えようとした」

「ルクレールのことを考えて、最適な2ストップから大きく逸脱しないように注意したのだ」

 ただここで想定外のことが起きた。ルクレールのマシンにはトラブルが発生しており、ピットアウト後のペースが大きく低下。5周後にピットストップを終えたピアストリは、コース上で難なくルクレールを交わすことができた。

 本来ならばピアストリは、これで勝利を手にできていても不思議ではなかったはずだ。しかしそこには、もうひとりライバルがいた。それは、チームメイトのノリスであった。ノリスは1ストップで決勝レースを走り切ることを目指していたため、ルクレールを抜いたピアストリの約10秒前に立ちはだかり、逃げ切りを狙っていたのだ。

 ノリスが1ストップを狙えたのには、いくつかの状況が関係している。

 ひとつは、スタート直後にポジションを大きく落としてしまったことだ。ノリスは3番グリッドからのスタートだったが、スタート直後の攻防の際に一瞬前のマシンに詰まってしまったその隙を突かれ、フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)とジョージ・ラッセル(メルセデス)に先行されてしまい、5番手に落ちてしまったのだ。そのポジションを落としたことが、ギャンブル的な戦略を取るためのリスクを負う後押しのひとつとなっただろう。

 もうひとつは、そこから挽回するためには、戦略を変えるしかなかったということだ。前述の通りここハンガロリンクでは、オーバーテイクは難しい。そのため異なる戦略……つまり今回で言えば1ストップに賭けるしか、ポジションを上げる術はなかったわけだ。

 さらにあとひとつは、グラフを見ると良く分かる。

2025年F1第14戦ハンガリーGP決勝レースペース分析

 これは、ハンガリーGP決勝レース中の、トップ4台のレースペースの推移を折れ線グラフで示したものだ。一見しただけでもお分かりいただけると思うが、いずれのマシンのラップタイムも、ほぼ横一線。右肩下がりのグラフになった場合には、走れば走るほどタイヤが消耗しペースが低下していることを示すが、そういう傾向を見せていたマシンはいない(ルクレールはレース終盤にペースダウンしているが、これは前述したマシントラブルの影響)。

 これはノリスもそうだった。特に赤丸で囲んだ部分、ルクレールやピアストリがピットストップした後も、ノリスのペースが衰えていないことがよく分かる。これならば、ピットストップを行なう意味はない。

 ただノリスのペースは、29周目、30周目と急激に低下(青丸の部分)。おそらく、いわゆる”崖”と呼ばれる、タイヤのパフォーマンスが限界を迎えたものと想像できる。

 その後ノリスはハードタイヤに履き替え、チェッカーを目指した。終盤にはより新しいタイヤでピアストリが追いかけてきたが、ふたりのペース差は、55周目頃には1周あたり0.5秒ほど(グラフ緑丸の部分)。この差では、そう簡単にはオーバーテイクできない。そしてノリスが勝利を手にした。

 今回のレースでは、オーバーテイクが難しいということもあり、コース上でのポジションをいかに守るかということが最も重要だったと言える。そういう意味では、やはり1ストップが正解だったと言うべきだろう。まあノリスは、ピアストリの攻防を凌ぐのに相当苦労したようだが。

 また、ライバルよりも先にピットストップし、アンダーカットするという作戦も有効であった。そういう意味では、ピアストリが2回目のピットストップで取った、ピットストップを遅らせる戦略は本来ならば失敗だった可能性が高い。ルクレールにトラブルが発生したため、ピアストリは2位に上がることができたが、そのトラブルがなければ、ルクレールがノリスとピアストリの間でフィニッシュした可能性が高いと思われる。いくらタイヤのオフセットを作っていたとしてもだ。

 なおルクレールは、ノリスが1ストップを選んだ時点で、トラブルに見舞われなかったとしても勝利するのはかなり難しかったと言える。ただもしチームメイト……つまりルイス・ハミルトンがこの優勝争いに加わっていれば、ノリスとしても別の動き方を検討しなければいけなくなった可能性もあるため、また別の展開になっていたかもしれない。

 さてもうひとつ。グラフを見ていただくと、メルセデスのレースペースも非常に秀逸だったということがよくお分かりいただけるだろう。

 ラッセルのペースは終始、マクラーレンやフェラーリと遜色ないものだった。今回メルセデスは、旧仕様のリヤサスペンションに戻すことを決断。これにより、ここ数戦の苦戦から脱却しようと試みたのだ。このレースペースを見る限り、サスペンションの仕様を戻す判断は、有効だったと見るべきだろう。シーズン後半、このメルセデスも無視できない存在となるかもしれない。

関連ニュース:ノリス、予定外の1ストップで予想外の勝利! ピアストリとの激戦を制し「今日は完璧な結果だ」フェラーリのルクレール、ハンガリーGPで悔しい敗戦も、”エンジニアへの叱責”を撤回。失速の理由は「シャシーに問題が起きたから」

友だち追加

Follow @MotorsportJP