“純血アルピナ”のラストを飾る“グランツーリスモ”の理想形! セダン&ワゴンとはひと味違う流麗な4ドアクーペ「B4 GT」の走りとは?

クールなアルピナに少しだけ“ホット”な印象をプラス

 2025年もすでに半分が過ぎました。ということは、“純血”のアルピナ車を手に入れられる期間は、半年も残されていないわけです。

アルピナ「B4 GT」

【画像】「えっ!…」これが“純血アルピナ”の最後を飾る理想のグランツーリスモ「B4 GT」です(30枚以上)

 そんな、“純血”アルピナ車のファイナルモデルとなる1台が、本記事でフォーカスする「B4 GT」。同タイミングで発表された「B3 GT」がBMWの「3シリーズ」をベースとするのに対し、「B4 GT」は「4シリーズ グランクーペ」がベースとなります。

「B4 GT」の内容は、単なるコレクターズアイテムの枠にはとどまりません。アップデート箇所が車両全体に渡っているのは「B3 GT」と同じですが、実はベースモデルの素性やキャラクターに合わせ、味つけの“さじ加減”を変えています。今回はその辺りを中心に紹介していきましょう。

「B4 GT」のエクステリアは、フロントにカナードとスプリッターが追加され、リアには新デザインのディフューザーが採用されています。これらは単なる見た目のアクセントではなく、より安定した高速走行を実現するための“機能部品”という位置づけです。

 ちなみに「B3 GT」にはフロントウインドウ上部にリップスポイラー(300km/hでの空力特性を改善)が装着されていますが、「B4 GT」は非装着。おそらくベースモデルの空力特性が優れているため、必要がなかったと思われます。

 試乗した「B4 GT」のボディカラーは、「イモラレッド」と呼ばれるやや暗めの赤。アルピナいえばブルーやグリーンといった渋めのカラーが定番ですが、「B4 GT」専用となる“オロ・テクニコ仕上げ”の20インチ鍛造アルミホイールやフロントスポイラーのロゴ、サイドのデコライン(オプション)との組み合わせは、クールなアルピナに少しだけ“ホット”な印象をプラスしているように感じました。

 インテリアは、「4シリーズ グランクーペ」の改良に合わせ、従来モデルである「B4」からインパネ回りのデザインを刷新。Dシェイプのステアリングやより少なくなった物理スイッチなどで先進性がアップした印象です。

 それでも、シフトまわりはアルピナの独自仕様で、従来モデルである「B4」と同じシフトノブ仕様となっています。試乗車はエクステリアに合わせ、ブラック/レッドのヴァーネスカレザー仕様となっていましたが、“オロ・テクニコ”のワンポイントやカーボンパネルとのマッチングが、渋めのコーディネイトのそれよりも好相性のように感じました。

アルピナ「B4 GT」

「B4 GT」のパワーユニットは、“S58”型と呼ばれる3リッター直列6気筒ツインターボエンジンがベースで、ターボ、インテークマニホールド、エアクリーナーボックス、エキゾーストシステム、そしてエンジン制御などがアルピナのオリジナルとなっています。

 なかでもエンジン制御は、「B3 GT」、「B4 GT」への進化に合わせて見直しが図られています。単に見直しといっても、1年以上のベンチテストと実走行テストなどで、新規開発と同レベルでのセットアップ作業を実施。結果、「B4」プラス34psの529ps/730Nmを発生します。

 そんな「B4 GT」の車両重量は、「B3 GT」のリムジン=セダンと比べて90kg重い1965kgですが、動力性能の違いは一般道を走る限り分かりません。

 常用域では、アクセル開度に合わせて忠実に反応する応答性、ターボエンジンであることを感じさせないシームレスな盛り上がり、そして、明らかに抵抗感のない回転フィールなど、ハイパフォーマンスなのにそれを感じさせないスマートな印象。それは従来モデルである「B4」と同じ印象ですが、「B4 GT」はその先……アクセルペダルをグッと踏み込むようなシーンでうま味が出てきます。

 具体的には、アクセルペダルとエンジンとが昔のクルマのようにワイヤーでつながっているのでは? と錯覚するくらいの、阿吽の呼吸の応答性、回すほどに盛り上がりを見せるパワー感、そして、レッドゾーンを超えていきそうな伸びのよさなど、単にハイパフォーマンスなだけでなく、昔のエンジンで味わえた“ツヤっぽさ”を感じます。ただし、この領域は日本の道路事情だと“瞬間的”にしか味わえないのが残念なところです……。

 このエンジンに対して、8速ATもいい仕事をしています。「B4」がスムーズさとシフト感を強調しない絶妙な塩梅の味つけだったのに対して、わずかにシフトスピードとダイレクト感が増したかのような印象。

 この辺りは、エンジンの進化がそのように感じさせるのか、それともエンジンに合わせてATも最適化されているのか分かりませんが、間違いないのは、数値だけでは語ることができない“心地よさ”がパワートレイン全体で確実に増しているということです。

駆けぬけたくなる歓びがさらに高まった絶品のチューニング

 フットワークはどうでしょう? 「B3 GT」と同じく、コアサポートとストラットとをつなぐ“ドーム・バルクヘッド・レインフォースメント・ストラット”の採用により、バネ、ダンパー、スタビライザーなどはすべてセットアップし直されています。

アルピナ「B4 GT」

 ちなみに、プラットフォームは「B3 GT」、「B4 GT」とも共通の“CLARプラットフォーム”ですが、「B4 GT」は基本素性(ワイドトレッド)や車体剛性(ベースの「4シリーズ グランクーペ」は電気自動車モデルを用意する関係からフロアまわりが強固)が「B3 GT」より有利のため、その辺りも考慮した味つけになっているそうです。

 ちなみにタイヤは、「B3 GT」と同じくアルピナ専用スペックのピレリ「P-ZERO」を履きますが、サイズはフロントが255/35ZR20、リアが285/30ZR20と、リアのみ「B3 GT」より20mmワイド(ホイールもプラス0.5Jの10J)と異なります。

「B4 GT」の走り味は「B3 GT」と同じかと思いきや、「似ているようで似ていない」というのが素直な印象です。

 BMW特有の鋭い初期応答とは別物で、操作しただけ自然にかつ素直に動く点や、まるでベアリングの精度を高めたかのような抵抗感のないスムーズなフィールなどは共通ですが、どちらかというと「B3」に対してソリッドな感覚が増した「B3 GT」に対して、「B4 GT」は逆に、従来モデルである「B4」よりしなやかな感覚が増した印象です。

 筆者(山本シンヤ)は、アルピナのフットワークはプレミアムとスポーツの絶妙なバランスの上に成り立っていると思っていますが、「B3 GT」はその比率が4:6なのに対し、「B4 GT」は6:4といった感じなのかな……と思います。

 ただし、「B4 GT」が快適性重視に舵を切ったわけではありません。むしろ「B3 GT」と乗り比べて“よく曲がる”と感じたのは「B4 GT」の方です。

 ロールを巧みにコントロールしながらサスペンションを上手に沈み込ませてクルマ全体で曲がる様は「B3 GT」、「B4 GT」ともに同じですが、「B3 GT」はいい意味でスタビリティ重視でステアリングを切っただけ素直に曲がるのに対し、「B4 GT」はより俊敏にノーズが入ってアクセル(=駆動力)で曲げることができる自在性が与えられており、より“攻めたハンドリング”に仕上がっています。それでいながら鉄壁のスタビリティも両立しているのですから、驚きしかありません。

 この辺りは、サスペンションのセッティングに加えて、4WDの駆動力制御や電子制御式LSDの味つけも含めたトータルでの味つけなのはいうまでもありませんが、「この走りのためにリアタイヤをサイズアップしたのね」と納得。

 それらを踏まえると、「B4 GT」の走りはアルピナのお作法はそのままに、素性のよさを活かした確信犯的なセットアップで、結果として“駆けぬけたくなる歓び”の濃度はさらに高まっていると感じました。

「B3 GT」より乗り心地がよく感じる要因とは

 そんな走り味なので「やはり『B4 GT』は乗り心地が若干犠牲になっているのかな?」と思いきや、快適性はむしろ「B3 GT」より高いと感じました。

アルピナ「B4 GT」

 しなやかな足さばきと入力の伝わり方、人間の波長に合った減衰のさせ方などから、20インチのタイヤ&ホイールを履いていることすら忘れるくらいの高い快適性は同じですが、「B4 GT」のドライブモード「コンフォートプラス」は、いい意味でバネ上を常にフラットにさせず、上下動を許すストローク感がもたらす心地よい“揺らぎ”が効いているのか、単に硬いとかやわらかいを超えた“心地よさ”を感じられる乗り心地なのです。

 おそらく欧州の速度域だと動き過ぎる感じがあるかもしれませんが、そんなときはドライブモードを「コンフォート」にするとバネ上のフラット感がグンと増します。

 ちなみに「B4 GT」のデフォルト空気圧は250km/h以下が2.4バール、それ以上は3.4バール(「B3 GT」は一律で3.4バール)なので、「B3 GT」より乗り心地がいいように感じるのは、その影響も大きいと予想しています。

 ちなみに、2.4バールの空気圧と「コンフォートプラス」の組み合わせは、長きに渡ってアルピナを愛してくれた日本のユーザーに向けたプレゼントではないか? と勘ぐってしまうほど、日本の道路事情にマッチしていると思いました。

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 そろそろ結論といきましょう。「B3 GT」と「B4 GT」は、ともにアルピナが目指してきた“真のグランツーリスモ”の理想形であることに間違いはありませんが、単なるボディ形状が異なることの差異にとどまらず、それぞれの“味”を微妙に調整してくる辺りがアルピナらしいこだわりといえるでしょう。

 個人的には、いわゆる正統派の「B3 GT」に対して、「B4 GT」は少しだけ遊び心をプラスしたモデルかな……と思っています。この2台はまさに、舌の肥えたアルピナファンへの最後の“テイスティング”なのかもしれません。どちらもまだ売り切れていないようなので、気になる人は早めの決断を!