ベンツ「G 580 with EQ Technology」電動化の意図

メルセデス・ベンツ「G 580 with EQ Technology Edition1」の外観。AMGラインパッケージ装着の「エディション1」は全長4730mm、全幅1985mm、全高1990mm、ホイールベース2890mmで、G450d(標準)より60mm長く、10mm高く、ホイールベースは100mm長い(筆者撮影)
クルマはどこまで電動化するのか。メルセデス・ベンツが2024年10月に発売した「G 580 with EQ Technology」も、「アンビション2039」なる企業方針に沿って開発されたモデルだ。
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本格的オフローダーとして開発されたオリジンを持つこのクルマ。当初はドイツ語の「ゲレンデヴァーゲン(Geländewagen)」という名称からスタートし、途中でその頭文字をとって「Gクラス」となり、乗用車のラインナップに仲間入りする。最新のICE(エンジン搭載車)は、驚くほど運転の楽ちんなクルマになっている。
電動化による驚きのドライバビリティ
バッテリー駆動のG 580が発表されたときに驚いたのが、「電動化でオフローダーとしての性能は一段上がった」(メルセデス・ベンツ)とメーカーが自信満々にうたったことだ。
ドライブすると、4つの車輪にひとつずつモーターを備えたG 580のドライバビリティの高さには、舌を巻く。クロスカントリー型オフローダーはディーゼルエンジン、などと思い込んでいたら、目からうろこが落ちる性能だ。
「アンビション2039」、むりやり意訳すると、2039年に向けての企業としての願い、って意味になるだろうか。これは「エレクトリックファースト」を掲げて全ラインナップの電動化を進めることを標榜するメルセデス・ベンツの製品ポリシーだ。

116kWhのバッテリーをフレームの内側に搭載し、システム最高出力432kW、最大トルク1164Nmと超ド級のパワーで3120kgの車体を走らせる(筆者撮影)
2030年代早めに全ラインナップの半数以上を、プラグインハイブリッドを含めて電動化する計画を同社では立てている。「EV化へ向け、市場の環境が許す限り、お客様のニーズを最優先にしながら、電気自動車、プラグインハイブリッドやISG(インテグレーレッド スターター ジェネレーター)などの電動技術を用いた内燃エンジンも提供していく」という方針が発表されているのだ。
あえてBEVという選択

最低地上高は250mmで、G400d(230mm)よりグラウンドクリアランスがある(筆者撮影)
Gクラスの場合は、ハイブリッドやプラグインハイブリッドを飛び越え、いきなりバッテリー駆動のBEV(バッテリー駆動のEV)とした。それには大きな理由がある。カーボンニュートラル化を目指すのもひとつだが、性能的な意味が大きいという。4つのモーターで各輪の駆動力を制御することで、オフロードでの性能をより引き上げられたのが、電動化の福音とされている。
GクラスはなにをもってGクラスなのか。クライアントはGクラスに何を求めているか、ということなのだが、メルセデス・ベンツでは、オフロード性能とデザインに注目してきた。
これまでも、たとえばフロントサスペンションが独立懸架となった2018年の大きなマイナーチェンジ時も、エクステリアデザインやインテリアデザインは、従来のイメージをしっかり維持する方向での変更に留まった。

従来のGクラスはスペアタイヤを背負っているが、電動のG580ではボックスとなっており、充電ケーブルなどを入れておけるケースとして使える(筆者撮影)
G 580についても同様だ。116kWhの大容量バッテリーを搭載し、一充電走行距離530kmを実現しているものの、本来であれば車体の空力特性を見直すことで、さらに走行可能距離は伸びただろう。今のBEVはどれも空力性能の高さをうたっているのが、その証拠でもある。
しかし、メルセデス・ベンツにとって、従来からのGクラスのファンを失望させるのは本意ではなかったようだ。ボンネット形状やフロントまわりの形状にこそ手が入っているものの、多気筒エンジンを搭載してオフロードを走りまわる、従来のGクラスのイメージそのままのスタイルである。
BEV化にあわせた新設計のラダーフレーム

ICE(エンジン)モデルに寄せた意匠のダッシュボードは機能性が高い(筆者撮影)
シャシーは、ラダーフレームという構造を踏襲するが、BEV化のために新設計。BEVでは大容量バッテリーを床下に収める必要がある。バッテリーを収めたケースは堅牢で、水や泥の侵入を防ぐ必要もあり、安全設計が徹底されているのも特徴だ。エンジニアは相当苦労したんじゃないだろうか。
電動化とともに、G 580に搭載された新技術は多い。まずは4つのモーターだ。エンジンに比べてトルクが増大することのほか(最大トルクはなんと1164Nm)、その制御を路面の状況に合わせてより緻密に行えるのも、Gクラスにとって大きなメリットに数えられている。

ICEモデルではデフロックスイッチが並ぶ位置に設けられた「Gターン」スイッチ(ローレンジスイッチの右)と「Gステアリング」スイッチ(筆者撮影)
加えて、「Gステアリング」や「Gターン」が注目の技術だ。各輪の駆動力とともに、モーターの回転方向を制御することで実現している。「Gステアリング」は車輪の回転を制御してせまい場所での取りまわしをよくする技術。「Gターン」は左右の車輪を逆回転させることで、その場で360度ターンを可能にする技術。こういう制御を可能にするのが、モーターの利点なのだ。
格段に進化した乗りやすさ

よいしょと乗るときに声が出るほど高い位置にあるコクピットだが、一度シートに収まると快適(筆者撮影)
G 580には、なかなかタイミングが合わず、乗る機会を逃してきたが、2025年4月に箱根でテストドライブすることができたのは、貴重な体験だった。
先に触れたように、昨今のエンジン搭載のGクラス、具体的にはG450dとメルセデスAMGのG63は、かなり洗練度が上がっていて、エンジンのスムーズさに加えて、操縦性の高さと、信じられないほどよい乗り心地をもっている。
まだ「ゲレンデ」と呼ばれていた1980年代から1990年代にかけてのモデルでは、オフロード走行が前提だったのか、アクセルペダルなどが信じられないほど重く、高速道路を走っていると、力を込めてペダルを踏み続けていた右足がつりそうになったものだ。
そんなゲレンデの時代から現代のモデルになり、乗りやすく進化してきたことは、Gクラスに興味を持つ人にとって喜ばしいことだ。そんなユーザーの視点に立てば、バッテリー駆動になったG 580は、ほとんど力がいらないといってもいいぐらい、さらに乗りやすくなっている。

後席も十分な広さが確保されている(筆者撮影)
サスペンション形式は、フロントがダブルウィッシュボーンという独立懸架で、リアはリジッド。これは従来と同じ。リジッドを守ったのは、そのほうがサスペンションのストロークが大きくとれて、悪路でも車輪が接地性を失う危険性が少なくなるからだろう。バッテリー駆動になっても、Gクラスが目指すところは変わっていない、ということだ。
試乗したエディション1について

ゲートの左ヒンジは相変わらず(日本だと使いにくい)だが、荷室容量は620Lと広い(筆者撮影)
今回乗ったのは「G 580 with EQ Technology Edition1(エディションワン)」という導入モデル。「AMGラインパッケージ」「ナイトパッケージ」、ブルーアクセントをもった「サイドストリップライン」「ブルーブレーキキャリパー」などが専用装備となる。フロントマスクに先進的な表情を与えるという「ブラックパネルラジエターグリル」はオプションだ。
高速道路、市街地、ワインディングロード、それにちょっと路面が荒れた道、どこを走っても、まったく印象が変わらない。つまり、トルクがたっぷりあってステアリングが正確で、クルマとの一体感があり、かつ乗り心地はフラットで快適。ちょっと前のGクラスに乗っている人が試しにG 580に乗ったら、びっくりするんじゃないかと思うほどだ。

「AMGラインパッケージ」や灯火類がダークになる「ナイトパッケージ」などを備えた「エディション1」がまず発売された(筆者撮影)
ダッシュボードのデザインも基本的にはこれまでのICE(エンジン)モデルと同じだが、先に触れた「Gステアリング」や「Gターン」の起動スイッチが備わる。この機能、舗装路でやるとタイヤの摩耗が激しいうえに、今回は必要がなかったため、試せずじまい(メーカーとしても公道では使用できないとしている)。これらの機能については、実際にG 580を購入したオーナーがどこかで味わえる喜び、としておこう。
G 580 with EQ Technology Edition1の価格は2635万円。Edition1のあとの標準モデルのスペックは未公表で、少なくとも今はまだEdition1の在庫があるようだ。