低年齢からの化粧・ダイエットで一生苦しむケースも…「装い身体トラブル」とは?

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昨今、幼い頃からメイクしたり髪を染めたり、高いヒールを履いたりする子どもが増えている。おしゃれに関心を持つのは成長過程のひとつだが、体にトラブルが起きてしまうケースが後を経たないという――。※本稿は、鈴木公啓『子どものおしゃれにどう向き合う? 装いの心理学』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
化粧品やダイエットが招く
「装い身体トラブル」とは?
化粧品、衣服、アクセサリー、そしてダイエットなどが原因で生じる身体のトラブル全般のことを、「装い起因障害(注1)」や「おしゃれ障害(注2)」といいます。
具体的なトラブルの内容としては、化粧品やアクセサリーによる皮膚のかぶれや、頭髪の染毛や脱色の際の薬剤による皮膚障害、カラーコンタクトによる結膜炎、マニキュアによる爪の障害など、内容は非常に多岐にわたります。皆さん自身、もしくは周りの身近な人でも経験したことがある人もいるのではないでしょうか。
それでは、そのようなおしゃれなどの装いによる身体のトラブル(以降、「装い身体トラブル」)の実際の経験割合について見ていきましょう。かなりめずらしいことなのでしょうか。それとも、意外と多いのでしょうか。
子どもの実態を確認する前に、大人の場合を見ておきましょう。大人はそれほど装い身体トラブルを経験していないのでしょうか。
注1 鈴木公啓・矢澤美香子「大学生及び短期大学生における装い起因障害の実態把握」(『フレグランスジャーナル』、42〈8〉、52-60頁、2014年)
注2 岡村理栄子『おしゃれ障害 子どものうちに知っておきたい!(健康ハッピーシリーズ)』(少年写真新聞社、2016年)
図5-1は、私と研究仲間が2015年に成人女性832名を対象とした調査の結果です(注3)。それぞれの装いの種類によって頻度は異なりますが、それなりに多くの人が装い身体トラブルを経験していることが確認できます。

同書より転載
「足に合わない靴」(46.5%)を筆頭に、「自分でおこなった脱毛や剃毛」(21.1%)、そして「二重まぶた形成化粧品」(17.6%)、「ヘアカラーやパーマ」(16.7%)、「通気性の悪いパンプスやブーツ」(16.4%)、「基礎化粧品」(15.9%)、「ピアス」(13.8%)、「まつげエクステ」(12.7%)、「サイズや素材が合わないベルト」(11.3%)と続いていることが確認できます。
大人の10人に1人以上が
装い身体トラブルを経験
つまり、装いの種類によっては、10人に1人より多い割合で装い身体トラブルの経験があるということです。これは決して少なくない割合のように思われますが、どうでしょうか。
注3 鈴木公啓・矢澤美香子「日本人成人女性における装い起因障害の実態」(『フレグランスジャーナル』、44、72-79頁、2016年)
注4 当該箇所の実施時の文言は以下のとおりです。「基礎化粧品(化粧水、乳液、美容液、パックなど)」「ベースメイク用品(化粧下地、ファンデーションやコンシーラーなど)」「アイメイク(アイブロウ、アイシャドウ、アイライナーなど。ただし、まつげエクステなどは除く)」「アートメイク(アイブロウやアイライン、リップのタトゥー)」「美容整体(美容のための小顔矯正、O脚矯正、骨盤矯正など)」「美容器具(スチーム、超音波、電流、光などを使う)」「タトゥーや彫り物(洋彫りや和彫り。ただし、アートメイクは除く)」
未就学児にも発生している
「装い身体トラブル」の実態
それでは、子どもの場合はどうでしょうか。子どももおしゃれをおこなっている現状を踏まえると、子どもにおいても装い身体トラブルが生じていておかしくありません。
これまで、子どもの装い身体トラブルに関する調査は散発的におこなわれていました。たとえば、東京都生活文化局により、化粧によるトラブルを経験した子どもが2.2%いることが明らかにされています(注5)。しかし、おしゃれの種類や地域等が限られているため、全体的な知見を見いだすのは少々難しいように思われます。
そこで、改めてその実態を確認するための調査を2018年におこなってみました(注6)。この調査においては、子どもの装い身体トラブルについて、比較的幅広い内容について扱い検討しています。具体的には、未就学児、小学生、中学生、高校生におけるスキンケア、メイクアップ、ネイル、アクセサリー、ピアス、毛染め、体毛処理(調査では「脱毛・除毛」)、それぞれによる装い身体トラブルの経験割合について尋ねています。
調査結果によると、装い身体トラブルの経験は、それぞれにおいて10%を切っています。しかし、「当該のおしゃれを経験した者」に限定した場合、装い身体トラブルの経験が3割以上のものがあります。また、未就学児の装い身体トラブルの経験割合は、小学生低学年や高学年、中学生に比べて大きいことも確認できました。未就学児の場合、毛染めや体毛の体毛処理などによる装い身体トラブルの経験割合は3割を超えます。
読者の皆さんは、これらの値をどのように思われるでしょうか。人によってとらえ方は異なるかもしれませんが、注意する必要があると考えられます。というのも、次ページで説明するように、低年齢での身体のトラブルの経験は影響が大きくなることが多いからです。
注5 東京都生活文化局 化粧品類の安全性等に関する調査結果【概要】抜粋(2007年)
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/anzen/test/documents/kesyouhinn.pdf
注6 鈴木公啓「子どものおしゃれの低年齢化 未就学児から高校生におけるおしゃれの実態」(『慶應義塾大学日吉紀要 言語・文化・コミュニケーション』、50、53-69頁、2018年)
低年齢であるほど
問題が起きやすい?
先ほど、未就学児のおしゃれ経験者における身体のトラブルの経験割合が、上の年齢層に比べ相対的に大きいことを確認しました。この理由として、皮膚の特徴が関係していると考えられます。
子どもの皮膚は構造的にも免疫学的にも未熟です。子どもの皮膚は大人よりも薄いため、たとえば同じ化粧品を用いたとしても、大人に比べ皮膚のかぶれなどのトラブルが生じやすくなります。
また、子どもの場合は、適切な使用法を理解していない場合があることも考えられ、それが問題を引き起こしている可能性もあります。つまり、化粧品の使い方や落とし方などを十分に認識していないために、大人であれば生じないですんだはずのトラブルが生じるということがありえるのです。
子どもは低年齢であるほど、化粧品等に記載された使用方法や注意事項を十分に理解することが難しいです。また、見よう見まねで使っていて、適切な使い方を知らない場合があります。さらに、不適切な使い方をすることによってどのような問題が生じる可能性があるかについて十分に理解していない、想像できていない場合もあります。
そもそも、少なくとも現在流通している化粧品が、皮膚の弱い子どもに何も影響を及ぼさないという保証はありません。たとえ「低刺激」などという表記があったとしても、それは国などが定めた基準があるわけではなく、各メーカー内の基準によりますし、海外で安全とされているものが日本でも安全とは限りません。人種(科学的には古い考え方ではありますが)によって、同じ化粧品であっても反応の仕方が異なることも指摘されています。
なお、カラーコンタクトレンズに安全性の低いものがあったり(注7)、いわゆる100均ショップのマニキュアに発がん性物質が含まれていたことが発覚したり(注8)と、子どもが購入し使用しやすい商品に問題がある場合もあります。
注7 独立行政法人国民生活センター「カラーコンタクトレンズの安全性 カラコンの使用で目に障害も」(2014年)
注8 独立行政法人国民生活センター「子ども用のマニキュアからホルムアルデヒドを検出 当該品をお持ちの方は使用を中止して下さい」(2016年)
https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20160225_4.pdf
子ども向けの化粧品セットなども玩具店(インターネット上も含む)で販売されていますが、おもちゃとしての安全性はともかく、化粧品としての子ども向けの安全性は必ずしも保証されているわけではありません。化粧業界団体等が定める自主基準を満たしていないものもあります(注9)。安全性が十分に確認されているとは限らない商品が、値段の安さから子どもが購入しやすいという状況にあります。そのため、大人は注意して見守る必要があります。
子の成長にも悪影響
ダイエットの危険性
ダイエットの場合はどうでしょうか。ダイエットとそれによる?身体型も装いの一つであり、ダイエットによる装い身体トラブルが生じる可能性もあります。たとえば、過度なダイエットによって具合が悪くなったり生理がとまったりといったトラブルです。
ダイエットに興味や関心をもち、実際に?せた体型を求めてダイエットをおこなう子どもの割合が多いことを考慮すると、ダイエットによる装い身体トラブルを経験する子どもも、ある程度いると考えられます。
その実態について、調査B(編集部注:著者が2024年に全国の小学生女子を対象におこなった調査)のデータから見ていきたいと思います。図5―2は、小学生のダイエット経験者において、その結果として体調を悪くしたことがあるかどうかたずねたものです。

同書より転載
注9 東京くらしWEB「化粧品類の安全性等に関する調査結果」【概要】抜粋(2007年)
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/anzen/test/documents/kesyouhinn.pdf
これを見てみると、1、2年生では4割が、3年生以上は2割から3割の子どもが体調を悪くしたことがあると回答していることが確認できます。つまり、低学年であれば2~3人に1人が体調を悪くした経験があり、高学年であれば4人に1人程度は体調を悪くした経験があるということです。
アクセサリーや化粧品の
アレルギー反応に注意
学年と体調を悪くした経験には関連がみとめられませんでしたが(クラメールのV=0.22、p=0.132)(編集部注/クラメールのV値とp値は、2つの物事の関連性の強さを示す指標)、小学生のダイエットはあまりおすすめできないものといえそうです(注10)。

『子どものおしゃれにどう向き合う? 装いの心理学』 (鈴木公啓 ちくまプリマー新書、筑摩書房)
さらに、学年が低くても体調不良の経験割合が大きいことから、よくわからないまま極端なダイエットをしたり身体に負担のかかるダイエットをしてしまったりしている子どもがいることが示唆されます。ただ、ダイエットをやめさせるために健康的側面から正しさを説いてもあまり効果がありません。
とはいえ、身体の受け止め方といった認知面に加え、子どもの体にはどのような食事が必要で、どのようなことをすれば体調が悪くなる可能性があるのか、それらについて低年齢のうちから伝えていくことが必要と言えます。
装い身体トラブルは、子どもであるからこそ大きな問題になりえます。子どものころにおきた装い身体トラブルは、その後の発達にネガティブな影響を及ぼしうるからです。
たとえば、化粧品やアクセサリーによるアレルギー反応が一度生じてしまうと、一生涯続いてしまうことが多いとされています。子どもは皮膚が弱く影響を受けやすいため、成長してからであればトラブルとならなかったかもしれないのに、子どもの頃にトラブルになってしまったがゆえに、その後の長い人生ずっとそのおしゃれを楽しめないということにもなりえます。
健康的に楽しく人生を送るため
おしゃれが与える影響を考える
また、足の形に無理がかかるような靴を履いたりすれば、外反母趾などになっていく可能性もあります(注11)。そうなると、一生困ることになります。ダイエットも同様です。極端なダイエットは、骨粗鬆症の原因になったり、生理不順の原因になったり、そして場合によっては摂食障害になったりと、その後の心身への影響が大きく、10年も20年も回復できなかったりします。
健康的に楽しく人生を過ごしていくには、健康的な身体も重要です。子どもの頃のちょっとした行動が、身体にダメージを与え、それが一生のものとなった場合、それこそ後に悔やんでもどうしようもありません。だからこそ、何かしらの形で大人が教育や啓蒙などをおこなうことも重要になってくると考えられます。そして子どもたち自身も、できるだけ考える必要があるといえるでしょう。
注10 もちろん、それよりも上の年齢層であっても、不要なダイエットや極端なダイエットはおこなわない方がよいです。
注11 子どもの外反母趾は、合わない靴による大人の外反母趾とは別物の場合もあります。