「違和感を大切にして」スナックで勤務経験のある私が娘世代に伝えたい「パパ活の危険性」

若い頃は環境に染められやすいので
——昔は「援助交際」という言葉がありましたが、パパ活と違うと思いますか?
SNSが発達したという状況は変わりましたが、中身はほとんど同じだと思います。援助交際は私より少し上の世代で、90年代の援助交際のピーク時に私は高校生ではなかったですし、少し余韻はあったものの、堅い雰囲気の高校に通っていたので、友達にも援助交際をやっている子はいなくて、解像度が高くないんです。
ただ、別の学校に行った子がたまたま帰りの電車で一緒になったとき、すごく華やかになっていて、「同級生の男はダメ。年上はなんでも買ってくれるから、私は年上がいい」みたいなことを言っていたのを覚えていて。当時は年上とどう知り合うのか不思議に思っていましたし、私は大人しい学生だったので、別世界に感じました。あとから「あれは援助交際の話だったのかな」と思いました。
そのくらいの年代って、心が粘土のように柔らかいから環境に染まりやすいと思うんです。私はたまたま真面目な学校に行ってたから援助交際というものが遠かったのであって、周りにやっている子が多い環境だったらどうだっただろう……と考えました。
同じグループになった子がやっている中で、自分だけやっていなかったらそれで浮いちゃうのが気になるとかもあるかもしれない。学生の頃は環境の影響は特に大きいと思います。
——本作に関連してSNSに裏話的な漫画をアップされていました。グラハム子さんが感じていた「あっちにギリギリ染まらなくて良かった」という感覚はどのようなものなのでしょうか。
大学生のときにスナックでバイトをしていました。上京してお金がなく、家賃も払わないといけない状況でした。最初はよく理解しないまま奨学金を借りていましたが、先輩から「奨学金は借りない方がいいよ」という情報も入ってきて、3、4年になると借りなくなる人も周りに多かったです。
でも生活していくためのお金は足りないんですよね。周りにスナックで働く子が多かったので、抵抗なく始めました。私は就職とともに辞めましたが、当時リーマンショックの影響による就職難の時代で、正社員になれなかったり、給料が低くて生活費が必要だったりして、スナックなど夜職を続けていた友人もいました。
——「リーマン氷河期」の世代ですね。
そうなんです。私は公立の教員になったので、民間企業への就職を目指した子たちに比べて影響は少なかったのですが、企業を受けていた子は何社受けても全部落ちてしまった子もいて、バイトからなら採用してもらえるので、昼間はバイトをして、夜はスナックで働く、みたいな子もいたんです。
その中には、ホストにのめり込むようにハマったり、整形を繰り返すようになった子もいて、時代的な背景をふまえると、私もそういう選択をしていた可能性もあったのかなって。
——スナックで働き始めるときは、どんなイメージを持っていたのでしょうか。
「夜の仕事」という感覚はあったのですが、キャバクラと普通の居酒屋の中間のイメージで、そこまでネガティブな印象はなかったです。
大学生の頃、小さな飲み屋街のある下町に住んでいて、友人とある居酒屋に飲みに行ったら、そこにたまたま友人の知り合いの男性がいて、一緒に飲むことになったんです。
そこで「僕が働いてる居酒屋の系列店のスナックで働く女の子を探してるんだけど、君、おしゃべり上手だからやろうよ」と言われて。
正直「なんか嫌だな」という感覚があって、ゆっくり考えたかったんです。でも私の友人も乗り気で、雰囲気を壊したくないのと、「人の期待に応えられない自分は価値がない」という気持ちがあって、引き受けてしまいました。本作でも「違和感を大切に」というメッセージを描いているのですが、違和感を無視してしまった瞬間でした。
——「断りにくさを感じた」ことから始めることもあるのですね。
ただ、始めてみると意外と楽しいところを見つけてしまうんです。気持ち悪いことをしたり言ったりするお客さんもいますが、「若い」というだけでちやほやされる。学生だとわかると、勝手にウブな印象を持ってもらえて、それも「かわいらしい」という評価になる。スナックなので、中高年女性のお客さんもいたのですが、かわいがってもらいました。
当時の私は自己肯定感が低かったのですが、夜の仕事は自己肯定感の穴を一時的に埋めてくれるような感覚がありました。

『娘がパパ活をしていました』(はちみつコミックエッセイ)より
「違和感を大切にして」
——親の視点も含めた「パパ活」が描かれることは、今まであまりなかったと思うのですが、この視点で作品を制作した経緯を教えていただけますか?
パパ活の漫画は数あるのですが、どれも当事者目線のものが多くて、私自身があまり共感できないんです。娘がいる年齢になると、作品として読んでいる分には“おもしろい”と思っても、「わかる、そうだよね」とはならないなと思っていて。
きっかけは出版社さんから「パパ活についてのテーマで描かないか」とお話をいただいたことでした。その時点ではどういう視点で描くか決まっていなかったのですが、私が「母親の目線を半分ほど入れたい」と提案しました。今30代、40代で、娘がいる人に共感してもらえるような作品を描きたいと思って始めたんです。
——本作ではお父さんが、なぜ若い娘を好む男性が多いのかを妻に問われ、その心理を語るシーンがありました。
お父さんが出てこないと、本作で登場する男性全員がダメな人になってしまうので……。それだと「男が悪い」という漫画になってしまうので、お父さんを通じて、若い女性を買ったりモノ扱いしない男性もいるということを描きました。
——作中で描かれているお母さんから娘への対応で、参考にされたことはありますか。
私の娘はまだ小学3年生なので、自分の娘に言うイメージがつかず、若い頃の自分に向けて何を言うかを考えました。そのときに出てきた言葉が「違和感を大切にして」でした。
パパ活もきっと最初は何かしら違和感を覚えている子が多いと思うんです。でも考えた結果、「効率よく稼げるから」「減るものではない」という結論に持っていくこともできてしまう。だから最初の違和感である「なんかやめた方がいいかも」という気づきを大切にしてほしいと思います。
——「パパ活用アカウント」でなくても、知らない男性からDMが送られてくるそうですね。
今の高校生はインスタグラムを日常の連絡ツールとして使っているようで、友達ともインスタグラムのDMでやり取りをするそうです。ストーリーズに写真をあげると、知らない成人男性から「かわいいですね」「お金に困っていませんか」とかDMが送られてくるみたいで。
なお、女の子には「お金に困っていない?」とパパ活の誘いが来るそうですが、男の子には闇バイトの誘いがDMで届くと聞きました。だから男の子にも「違和感」は大切にしてほしいです。
作品では、娘がパパ活をしているとわかった瞬間に、お母さんは激怒してしまいます。私自身、親として子どもが自分の想像の範囲外に行ってしまったときに怒ってしまうこともあります。本作のお母さんも自分を制御できないほど怒ってしまうのは当然だと思いながら描きました。その感情の動きも含めて、何かを感じ取ってもらえたらと思います。

『娘がパパ活をしていました』(はちみつコミックエッセイ)
【プロフィール】
グラハム子
漫画家。小学生2児の母。
雪代すみれ
フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。